原節子の『七色の花』・・・『晩春』と『麦秋』に挟まれた世界(『新潮ムック・原節子のすべて』)
昭和24年が『晩春』。昭和26年が『麦秋』(『白痴』も)。その間の昭和25年に封切りされた原節子の映画『七色の花』(東横映画、キネマ旬報第10位)があることは記録に残されているが、その後、放映されることがなかった。映画会社にも、国立近代フィルムセンターにも所蔵がなかったからだ。
それが、今月、世の中に出た。新潮45特別編集『新潮ムック・原節子のすべて』に付録するDVDとしてだ(全編101分収録)。関西のコレクターが、大阪の活弁士からフィルムを入手し保管していたものだという。なんという幸運。しかもムック本含めてたったの1400円。
さて、映画。東横映画によるものだが、これはなにを隠そう、東急電鉄の五島慶太が1938年に起こした会社だということ。1951年には他の会社と合併して東映となったそう。監督は、のちに『三等重役』を撮ってヒットを飛ばした春原政久。
タイトルロールに一番最初に出てくるのが原節子なので、主演という位置づけなのだろうが、出番は多くない。話の中心は、戦争帰りの流行作家の海老原周三(龍崎一郎)と、財界要人の囲われ者の小萩(踊りの師匠、杉村春子)の恋愛が中心だ。
海老原は戦後、流行作家となって鎌倉に居を構え、この世を謳歌してはいるが、その実、空襲で亡くした妻への想いと戦争の痛手から、なかなか戻れない。そんななか、近所に住んでいる小萩が彼に思いを寄せ始める。
彼は白浜に静養に行くが、そこで、高校時代の恩師とその娘・柏木照子(原節子)に出会う。照子もまた海老原に以前から心を寄せていたのだ。互いのあいだに思慕があることはわかるものの、いろいろな事情からそれ以上、進むことはない。
そんななか、入り込んでくるのが小萩。この女を演じる杉村の狡猾さと年増ながらの可愛らしさは、不思議な味を見せる。杉村は1906年生まれなので、この年44歳なのに、妙な色香を放って海老原を虜にしてしまう。う~む、どうみても原節子のほうがよいのだが・・・とは思うものの、この映画は、杉村が女として最後の可憐さを見せる、そんな作品に思う。
原節子は、海老原に女がいることを知り挫折し、湖のほとりの道を歩いていく。このシーンが絶品だ。歩いている彼女の表情がアップで撮られているが、心境の変化が、顔の表情だけで表現されている。『晩春』で培った演技力だ(あの能の場面には及ばないが)。照子の恋心を知った小萩は自ら身を引き、ようやっと最後に、海老原と照子は結ばれる。
ストーリーは、かなり乱雑で下手な映画なのだけど、何故かキネマ旬報第10位にランクされている。この本によると双葉十三郎が高得点を与えたということで、これが原節子ゆえなのか、杉村春子ゆえなのか、それは聞いてみたい気がする。