ビジネスのロングセラーを読む『自助論』(サミュエル・スマイルズ)
翻訳者を見て驚いた。『自助論』(サミュエル・スマイルズ、竹内均訳、三笠書房/知的生き方文庫)。学生のころ理工系にとってはあこがれの的だった、地球物理学者だったからだ。
原著の出版は1858年。日本での初訳は明治4年(1871年)の中村正直によるもの(『西国立志編』という名称だった)で当時100万部売れたというからこれまだ驚きだ。
内容は、古今東西のさまざまな成功や失敗例を簡明に紐とき、箴言のような形で紹介しており、有るべき姿、有りたい姿を、歴史のなかの人々の行動、言動から今一度学ぼうとするもの。
しかし吉本隆明の『真贋』が直前に身に入っている僕としては、没入して読むというよりも、客観的にすこし離れて理解しようとした。
吉本的にいえば、何十年も何百年も経ても、人類は過ちを犯し続けていて、そして、時代を下るにつれて精神はだんだんダメになってきたということだから、良いことを良いと言ったところで無駄で、考え方の筋道を深く追わないと問題の本質は見えてこない、ということになるからである。
勤勉・正直・感謝が大切。ともかくも大きい夢を描きその夢の実現に向けて倦まずたゆまず働くことが大切。
言われるがままの行動ができれば越したことがないけれど、しかし、この膨大なる教訓を読み続けているだけで、人類は進歩という観点で効率が悪いのかということを痛感する。精神の成長というものがいかに無く、怠惰なる傲慢なる自己中心的なる存在であるのかということを痛感する。
文明は発達しても、文化や道徳、精神というものは一向に発達しない、ということを知るだけでも、この書の価値は高い。