小津映画の風情に心が移ると・・・暑い夏もなぜか安らぐ
小津安二郎の語録集を読んでいると、自然とその世界に入ってゆく。口をつく言葉が小津調になっていることに気づいたりして、ちょっと恥かしくなったりもする。
書き言葉も、そうしたくなる。架空の会話を友人とするとすれば、こんなだ。
「今夕は、オリムピックでマラソンの競技があるね、女の」
「そうか、それは観たいね、ロンドン」
「テレビジヨンでね、観られるらしい」
「ああ、そりや、いいね、相撲のように観られる時代だ」
「酒をやりながらね」
「じや、今日は外に行くのは止めるか」
「いやあ、それはすみ子さんにわるいだろう、駒形の『前川』に連れて行くつて約束したじやないか」
「あれか、あれは大丈夫だよ、今度、ご機嫌取りに別のところに連れていけばいいのさ、銀座のパーラーとかにさ、ほら、あれ、何ていつたつけ」
「そうかい、そうするかい」
「そうさ」
「そうかい、そうするとするか」
「じやあ、そろそろテレビジヨンを観ようさ」
「酒もね」
「そうだね」
小津映画の冒頭シーンをいくつかつなげてアップしてくれている人がいて、これを肴に始めてもよい。熱い夏も乗り切るには、こういう風情と心持ちがよいだろう。