西脇の「ギリシア的抒情詩」の英訳に触れる

西脇順三郎の「ギリシア的抒情詩」を、Hosea Hirata(ホセア・平田)というタフツ大学の教授が翻訳されているのを知った。それは、実によい訳に思えた。(書誌『没後二十年 西脇順三郎展』、世田谷文学館刊より)

西脇の詩はとおい世界、とおい昔まで届いているような気がする。

「天気」

(覆された宝石)のやうな朝
何人か戸口にて誰かとさゝやく
それは神の生誕の日。


"Weather"

On a morning (like an upturn'd gem)
Someone whispers to somebody in the doorway.
This is the day a god is born.


「雨」

南風は柔い女神をもたらした。
青銅をぬらした、噴水をぬらした、
ツバメの羽と黄金の毛をぬらした、
潮をぬらし、砂をぬらし、魚をぬらした。
静かに寺院と風呂場と劇場をぬらした、
この静かな柔い女神の行列が
私の舌をぬらした。


"Rain"

The south wind brought a soft goddess,
moistured the bronze,
moistured the fountain,
moistured the wings of swallows and the golden hair,
moistened the tide,
moistened the sand,
moistended the fish.

It quietly moistened the temple, the bath, and the theater.
This serene procession of the soft goddess
Moistened my tongue.


「太陽」

カルモヂインの田舎は大理石の産地で
其処で私は夏をすごしたことがあった。
ヒバリもゐないし 蛇も出ない。
ただ青いスモヽの藪から太陽が出て
またスモヽの藪へ沈む。
少年は小川でドルフィンを捉へて笑つた。


"The Sun"

The countryside of Karumojin produces marble.
Once I spent a summer there.
There are no skylarks and no snakes come out.
Only the sun comes up from bushes of blue damson
And goes down into bushes of damson.
The boy laughed as he seized a dolphin in a brook.


「皿」

黄色い董が咲く頃の昔、
海豚は天にも海にも頭をもたげ、
尖つた船に花が飾られ
ディオニソスは夢みつゝ航海する
模様のある皿の中で顔を洗つて
宝石商人と一緒に地中海を渡つた
その少年の名は忘れられた。
麓(うららか)な忘却の朝。


"Platter"

Long ago when yellow violets bloomed,
Dolphins lifted their heads
towards the heavens and towards the sea.
A boy sailed across the Mediterranean Sea with a gem merchant,
Washing his face in a decorated platter
In which
Dionysus sailed, dreaming
On a sharp-pointed ship adorned with flowers.
That youth's name has been forgotten.
Oblivion's glorious morning.
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Commented by maru33340 at 2012-03-05 08:28
やはり西脇順三郎の詩は良いね。読み返したくなりました。
Commented by k_hankichi at 2012-03-05 23:52
これは、世界に通用する詩であります。
by k_hankichi | 2012-03-04 22:35 | | Trackback | Comments(2)