ミッシャ・マイスキーによるシューベルトの“歌曲集”
これまでミッシャ・マイスキーといえば、僕にはアルゲリッチとの共演(アルペジオーネソナタであるとかシューマンのピアノ五重奏曲)ばかりだった。そのほかの姿を知らないなかでダリア・オヴォラ(Pf)とのシューベルトの歌曲集(歌なし)とアルペジオーネ・ソナタのアルバムを聴きはじめた。
チェロは人の歌声に一番近いといわれている楽器だから、その代わりに弾かれるこれらの楽曲からは、歌詞が聞こえてくるような感じがする。ダリア・オヴォラは、じつに控えめに伴奏をしていて、だからチェロの歌が一層引き立つのかもしれない。
アルペジオーネ・ソナタのほうは、アルゲリッチとのような掛け合いは楽しめぬがその代わりに、鄙びた哀愁を味わうことができる。第3楽章も嵩じすぎることなく静かに終わる。
休日の昼下がりに、なにごともなく心を静かに鎮めさせる、そんな音盤だ。
曲の録音場所は、スイスのチューリヒ湖のほとりにあるRapperswil城ということであり、webで調べたら、美しい湖のほとりに建つその写真
(http://static.panoramio.com/photos/original/96538.jpg)が出てきた。曲の趣にとても合う。
この写真を眺めていたら、学生時代のあてどない旅でチューリヒのユースホステル(YWCAだった)に泊ったことや、その湖を臨むトーマス・マンの家(チューリヒ工科大学の敷地内で「トーマス・マン資料館」になっている;Webはココ
→http://www.tma.ethz.ch/)のしんみりした空気、そしてそのときの心もとない寂しさのことも併せて思い出した。
チューリヒ湖というのは、深く心を落ち着かせる透徹な何かがある場所なのかもしれない。
■SCHUBERT: SONGS WITHOUT WORDS
1. アルペジオーネ・ソナタ イ短調D.821
2. 歌曲集「美しき水車小屋の娘」~知りたがる男D.795-6
3. 「ヴィルヘルム・マイスターからの歌曲集」~ミニョンの歌D.877-4
4. 歌曲集「冬の旅」D.911~幻
5. 歌曲集「冬の旅」D.911~辻音楽師
6. 夜と夢D.827
7. 歌曲集「白鳥の歌」D.957~海辺にて
8. 音楽に寄せてD.547
9. ますD.550
10. 歌曲集「白鳥の歌」D.957~セレナード
11. 孤独な男D.800
12. 歌曲集「美しき水車小屋の娘」D.795~水車職人と小川
13. 野ばらD.257
14. 万霊節の連祷D.343
15. 君こそは憩いD.776
■演奏:ミッシャ・マイスキー(Vc), ダリア・オヴォラ(Pf)、Rapperswil城の騎士の間(Rittersaal), ザンクトガーレン、スイス、1996.1月
■音盤:DG 449 817-2