昨晩は中学時代のクラス仲間と呑んだ。みな中年に達しているのに、幼少期のときの距離関係(学友というか遊び仲間と言うか、その慣れ慣れしい間合い)が維持されているから、とりとめもない話であろうとも、なにか妙に楽しい。たまに仕事のことも話題になるが、「仕事をする」ということは、役割をかりそめに担当するということだ、ということを互いに知っているので、先に話が続くことはなく、ああそうなんだねえ、とそそくさと片づけてしまう。
いつものことながらその店は大判振る舞いで(おそらく幹事役の仕業だと思うのだが)、焼酎は名だたる酒蔵のものが勢ぞろいして脇机に並べられ、しゃべりながら、ぐいぐい盃を呷っていくうちに、いつしか記憶が朧気になっていく。気が付くと、場所は二次会に移っていたり、マイクを片手に歌っていたり、サンテミリオンの美味いワインを口に運んでいたり、タクシーの中に居たり、家の玄関に寝そべっていたりで、そのたびごとに驚く。
昨日のズボンを整えていたら、ゴルフのティーが二つポケットに入っていて、それはなぜそこに入っているのかと考えれば、確か友人の一人が、福島でのゴルフの帰りだと言っていたことが頭の隅に残っているので、たぶん、彼が僕にくれたものなのだろう。ということは、話をしながら一緒に帰宅したということになり、しかし、どんな話をしたのかは、どうしても思い出せない。
浦島太郎は玉手箱をあけることで、竜宮城での楽しい思い出の代償として、自分の年に戻ることが出来たが、僕の場合は、昨晩の思い出は、どうも切れ切れであり、そのゴルフのティーから紐解くだけでは、自分の時間に戻ることができそうにない。
記憶再生機能というようなボタンをぽんと押すと、それが蘇るなんてことがあれば良いのだけれども、しかしあれかな、そんなものがあると、とんでもない場面が再生されたりして、却って無い方がよいだろうかな。