CBC(中部日本放送)開局60周年記念ドラマ『初秋』を観た(TBS、10/8)。出だしの音楽は静かな平らかな旋律であるが、なにかその先に起こることを予感させる脆さを内包している。
娘を嫁がせたあと、ひとり家に戻る男、辰平。彼の言葉の端々に、娘を愛する想いがこぼれていく。しかしそれだけではなかった。彼にはいくつもの愛の対象が存在する。その背景の説明はあまりされないが、その素っ気無いところが却ってよい。
そんななか、ドラマの途中で、あっ、と気づいていった。得もいえぬ既視感にとらわれる。これは何なのだ、いま観ているこの映像は何なのか。
それは能楽堂の場面であり、小津安二郎の『晩春』のシンメトリーだ。配役の位置づけはどうなのか、と頭が混乱していくうちに、これはひとつのオマージュなのだとわかっていく。それに気づくと、ついさっき流れていった映像の端々にそれらが仕組まれていたのだということに思いがいく。ドラマの出だしの映像の構図からしてそうだった。じわじわと滲み出てくる。監督は原田眞人。この映像は美しい。
そして極めつけはタイトルバック。その末尾に出てきた文字に、僕の胸はどきんとうたれ、どうしようもなくなってしまった。「松竹株式会社」。今年のドラマの3本指にこれは必ず入るだろう。
<出演>
松原辰平(娘が嫁いた父役):役所広司
ベーコ(れい子、辰平の娘の友人[それだけではない]):中越典子
山辺享介(辰平の高校時代の学友):でんでん
重宗周吉(同上):岩松了
平山桜子(辰平の妹):キムラ緑子
おかみ(辰平を昔から知る京宿のおかみ):藤村志保