『彼女が演じた役』(片岡義男)

原節子や小津安二郎について述べた著作はいくつか読んできたが、これほどまでに感性面、情念面、映画としてのストーリー・プロット、台詞の質、そして全体と細部の構築性まで鋭く観察し論考したものは初めてだった。

『彼女が演じた役〜原節子の戦後主演作を見て考える〜』(片岡義男、中公文庫)。

あの、いつも『東京物語』を観終わった際のしみじみとした感慨とともに味わう、なにかちいさな捉えどころのない微かな違和感のようなものが何だったのかが、片岡さんの言葉で初めて分かった。

“いまの紀子のなかにある性の可能性は、ありとあらゆる姦通の可能性だ。それを紀子は尾道で平山周吉に認めた。あなたは正直な人だ、と彼は言い、とんでもない、私はずるいんです、と紀子は答えた。この場合のずるいとは、性という全領域のなかのどのような一点をも、自分の意志で自由に選べるという意味だ。”

片岡さんは一度観ただけで、この映画のポイントをいとも簡単に探り当て、霧を取り除いた。もちろん、このほかの映画についても同じである。

ストーリーテラーたる小説家の審美眼には、ただたた感服するばかりだ。

彼女が演じた役―原節子の戦後主演作を見て考える (中公文庫)

片岡 義男 / 中央公論新社

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Commented by maru33340 at 2011-09-17 09:57
これは良い本ですね。いくつかの小津本の中でも一番好きな本です。
Commented by k_hankichi at 2011-09-17 10:52
じつに爽やかな、かつうなづける映画論でした。
by k_hankichi | 2011-09-16 23:02 | | Trackback | Comments(2)