『緋い記憶』(高橋克彦)

1991年下半期の直木賞を受賞した作品とは知らずに、東京の下町の普通の佇まいをしながら少し玄人好みがする書店で買い求めていた。

『緋い記憶』(高橋克彦、文春文庫)。記憶にまつわる七つの短編からなる作品だ。昭和という時代と、そのなかに取り残され、忘れ去られた記憶。どの人にもあるだろう。

あることに触れることで既視感を覚え、それを知りたいがゆえに主人公は旅をする。どの短編も旅をする。たいていが東北、みちのくの街や温泉場、そして鍾乳洞だったりもする。

そこで主人公はその街や地方で暮らしていたことにおぼろげながら気付き、さらにそれをたどっていく。たどり着いた先に、驚くような事実が待ち受けている。そういう展開だ。

そして、自分自身の記憶が、「あれはこういうことだったということにしておこう」、と時と場合によって勝手に固定化させて逃げていることがあるということを気付かせる。

そういう隠し事を暴かれると、なんとなくバツが悪い気持ちや、サロメによって自分の心が切り取られ、片手で持ちあげられたかのような感じがする。

自分でも意識せずに、あるいは意識して忘れ去っている記憶があるのではないか、いや、まだまだかならずあるはずだ。

さて、ぼくには貴方には、どんな隠された記憶があるだろうか。それを教えて欲しい。ああ、教えて欲しい。

緋(あか)い記憶 (文春文庫)

高橋 克彦 / 文藝春秋

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by k_hankichi | 2011-09-01 00:07 | | Trackback | Comments(0)