友人に連れていってもらったキューポラのある街の「掌 TANAGOKORO」というバーには、ジンが豊富にあった。舌が覚えているうちに書き留めておくことがある。それは「ピムリコ(Pimlico)」(57度)だった。
ヴィクトリアン・ヴァット・シングルカスク(57.8度)でのジントニックのあとに呑んだこのジンでのトニックは、何やら桁で超越した峻厳さがあった。もともとゴードンの芳醇な香草の味わいを好んできたから、このピムリコを一口含めば、ぴしゃっと踵をただすような衝撃になる。ハイブロウとでもいうのだろうか、挑んでくるような物腰に、おもわず弱音を漏らしそうになる。
このあとに我々はブレンデッドスコッチのDewar'sをストレートでグイと呷った。そのあたりでお愛想にしたのか、それとも、まだなにかを呑んだだろうか。しかし今もピムリコのことは覚えているし、このほかにも、ヴィクトリアンヴァットのディスティラーズカスクというものがあって、それはグレンリヴェット樽かなにかのなかで熟成されたものだとマスターから聞かされたことも覚えているから、それからそれほど沢山は呑まなかったのかもしれない。
しかしやはり記憶に深いのは、ほぼ暗いバーのカウンターの上でぼうっと燦然と光っていたピムリコのことだ。今年はハイボール路線に嵌っていて、ジンの道からしばらくそれていたが、秋から冬にかけてはこの味にも往ったり来たりするだろう。