『夏の吐息』(小池真理子)

“この六編を超える作品は、もう書けないかもしれません。”、と本の帯に書いてあればどうしても気になり、何度か手にとっては元に戻し、結局べつの書店で買い求めていた。『夏の吐息』(小池真理子、講談社文庫)。

小池真理子が自分のブームになるときが年に一度はあり、この小説もそうなのかなと思いながら読んでいったが、ちょっと建てつけが異なった。小池さんは、最近でいえば『望みは何と訊かれたら』 のギュスタフ・モロー美術館への追憶であり、昔でいえば革命への想いが交錯する作品『恋』である。しかし今回の六編は、別離と、そこによこたわるある種の諦めきらない気持ちが通奏低温としてある。

なかでも本の題名の通り『夏の吐息』(四編めにある)が秀逸であり、まさに今日のような暑く寝苦しい夜に読むには最適な気がする。それに続いた五編め、六編めはだからあまり印象には残っていない。理由なく(しかし彼女はそれをおそらくしっている)失踪した男のことをずっと想い、想いつづけ恋する気持ちを語ってゆくその女心というものに、なにか触れたことのない密度の濃い「情」というようなものを感じる。

僕にはそのような「情」はあるようで無いわけで、だからつねに薄情だとか言われるわけだけれども、しかしそういうおんなが持っている深くたおやかなそれに触れると、自分のような人間であろうとも、ああこれには勝てないや、と叶うことのない「信じる力」を感じる。相手を信じる力なのか、自分を信じる力なのか、それはわからないが、いや、それは本当は両方のことなのだろうと、自分は実はわかっている。「人間の格の違い」のようなものがそこにあるのだろうなと知っている。

夏の吐息 (講談社文庫)

小池 真理子 / 講談社

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Commented by maru33340 at 2011-08-10 07:06
うむ、女の情かあ
Commented by k_hankichi at 2011-08-10 07:24
はい。叶いませぬものでしょう。
by k_hankichi | 2011-08-10 00:52 | | Trackback | Comments(2)