『連続殺人鬼カエル男』(中山七里)

カエル男・・。その人を食った、ちょっとふふっと笑いたくなるような命名に惹かれつつ、しかし殺人サイコもののようで怖じ気づき、遠巻きにしながら1カ月ほど過ぎていた。『連続殺人鬼カエル男』(中山七里著、宝島社文庫)のことである。しかし買ったとたんに今宵、一気に読んでしまった。

冒頭からむごたらしさに拒絶感が沸々としてくるのだが、しかしぐいぐいとその先を読み進めたくなる強い何かがそこにある。登場してくる事件はあまりにおぞましく、しかして展開は壮絶で、結末が急峻にあらわれ登りつめる。曲が終わったのにもかかわらずぼーっとし、しばらくしてから拍手がぱらぱらとそして大きな渦のようになる感覚だ。呆気にとられた。人によって好き嫌いはあるだろうが、これには惹きこまれ、感動ということとは異質なのだが、これまで知らなかったような方向から心を揺さぶる小説だった。

登場する麗しき女性ピアニストが男に弾くのはベートーヴェンのピアノソナタ第8番ハ短調『悲愴』であり、その演奏はヴラディーミル・アシュケナージ張りであり、そして、亡くなった子供を悼み霊を慰める曲は、ショパンの練習曲第三番ホ長調『別れの曲』だ。音楽が好きな著者なのかと思ってちょっと調べてみるとそんなことはなく、僕らと同じような年齢層のサラリーマンらしい。これにはさらに驚愕である。

著者は、2009年度第8回『このミステリーがすごい!』大賞を『さよならドビュッシー』で受賞したそうで、その際、本作品も同時に甲乙つけがたいと評されたらしい。サイコ・ミステリーを読むと、世の中のえげつなさやむごたらしさに、なにやら自分が悪人になったような気持ちになるからずっと避けてきたのだけれど、こんな勝手の作品もあるのかと知ると、大人の世界をちょっと垣間見、そこに踏み出した高校生のときのような気持ちになる。

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)

中山 七里 / 宝島社

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Commented by maru33340 at 2011-08-03 18:43
この人の『さよならドビュッシー』は読んだけど、全く作風が違いますな。
Commented by k_hankichi at 2011-08-03 21:46
『さよならドビュッシー』もいま読み終わりました。全然作風違いますね。僕にとって、どっちが圧巻かというと『カエル男』だなあ。
by k_hankichi | 2011-08-03 00:42 | | Trackback | Comments(2)