夜汽車で東北に着いた。寒いね、風が凍みるね。とひとりごちた。
車中、三浦しをんの新刊『木暮荘物語』(祥伝社)を読了。小雨混じりの冷たい夜の疾走は、人情の温かみで塗り替えられた。
古ぼけた世田谷代田の木造アパートは、いつでもほんわかした会話に溢れている。三浦さん得意のオムニバスだが、登場人物たちに馴れ親しんでくると、ついほだされる。
彼女の小説は、決して居丈高になることはなく、しかし、静かすぎることや、ぎゃくに騒々し過ぎることもない。でも、人が恥かしくて隠しているようなことがらも、あっけらかんと明かしてしまう。
啓蒙的なところなどどこにもないけれど、安らぐ。住人はそれそれの居場所に帰っていく。そういうことに共感し、頷く。
ぼくらみんなには、心の内で帰るところがあるのだ。帰りたいところがあるのだ。さすればそこに、帰るがよい。そう諭されているような気がする。