昨日から鹿児島である。遠くに錦江湾が雨に煙って見えた。あたたかな空気のなかなのに、少し、うら淋しい。
霧島連峰に降った雨は、火山灰の地層を浸透し、この地の芋、黄金千貫を育てる。
カルシウムやマグネシウムが少し含まれた、豊かな地下水が加えられて蒸留された焼酎「国分」は、お湯割りで飲むのが一番で、この地で他の飲み方は似合わない。
昨晩、何年かぶりで訪れた、おでんの名店「掌(つかさ)」は、それをアルマイト製の入れ物で、程よく燗をつけてくれて出してくれた。あまりにも美味いので、おかずを頼む前に二杯は空けてしまったが、それは三杯だったかもしれない。
おでん種は、やはりさつま揚げが絶品であり、だから薩摩なのであるが、ごぼう巻きもがんもどきもそれにひけをとらない。糸こんにゃくや玉子、大豆腐も然りである。どれにしても、フワフワと淡雪のようでもあり然し端正さを保っている。みなさん、四角いおおきな鍋のなかで、こちらを伺っている。
牛すじのことも忘れてはならない。くちに含めただけで、とろけるばかりになっていて、眼が白黒するほどの驚きで無言でむしゃぶり食った。
杯を重ねているうちに、そこが何だか我が家のような気持ちがしてきて、仕上げの握り飯を漬物とともに食べていると、いつのまにか自分がおでん屋にいるのだか、おでん鍋のなかにいるのだか、わからなくなっていた。