ダッチェス・ド・ブルゴーニュ:憧憬と焦燥が重なる世界
前々から気になっていて、昨晩、やっと飲むことが出来た。ダッチェス・ド・ブルゴーニュというベルギービール(読み方はこれで良いのかわからないが)。
瓶では、しとやかな、そして知性的な女性が、柔らかなる視線を投げ掛けている。伏し目がちは、ことさらに心を惹き付ける。
家紋や、装飾字があしらわれたものが多い中で、ひときわ気品に溢れた柄だ。この絵柄はわけがあるに違いない。
期待に満ちながら、グラスに注いだ。ビール酵母が生きた、黒ビールだった。ランビックというのだろうか。
味は…。ああ…。すこし甘酸っぱい。いや、かなり。うーむ…。美しさは、その中に、複雑なたたずまいを形成していた。
この人は、本当は何を思っているのだろう、考えているのだろう、優しい口調のなかにある真の姿が、見えてこない。そのような人を前にして、感じるものに似ている。もっと入り込みたいが、入り込めない。
自分には掌握しきれないときの、ちょっとした焦燥感。僕が悪いのだろうか…。
当惑しながら、僕は杯をもてあそび、同僚たちと談笑を重ねた。
憧憬と焦燥が重なる世界。