「ピアニストが見たピアニスト」

青柳いずみこ著、中公文庫。

長らくクラシック音楽から離れていた僕にとって、この著者のことも知らなければ、ましてや吉田秀和さん以外が書く音楽評を読むなんて気持ちも沸かなかった。この人による「ドビュッシー」という文庫本が出たときも、わが平島正郎さんやアンドレ・シュアレスさん以外の評論なんて、と無視していた。そんななか、先週、新年会の前に立ち寄った書店でこの本を見つけ、なんだかちょっと気になるところがあり、買い求めてしまった。

不思議な書だった。著者は現役のピアニストだった。その立場ながら、ピアニストの先達を、冷静にかつ親しみをもって分析し、評していた。

音楽を心のそこから愛している。スコアを緻密に分析している。作曲家の筆致をよくよく知っている。ピアニストがどのようにそれを読み込み、考え、反応し、演奏するのかを語っている。これほどまでに深く、ピアニストたちの運指法から、流派から、師弟関係の系譜、そしてある部分は私生活まで、あらわしたものはないのではなかろうか?

吉田秀和さんの、温かな感受性に溢れた、そして明晰かつ鋭敏な音楽評とは、まるっきり異なる観点ではあるが、演奏家側からみた、音楽の分析、奏法の分析、気持ちの分析というものが、ここまで、厳しく、冷ややかで、そしてまた一方で同情や同感に溢れているものだということを知らなかった。

スビャトスラフ・リヒテル、ベネディッティ・ミケランジェリ、マルタ・アルゲリッチ、サンソン・フランソワ、ピエール・バルビゼ、エリック・ハイドシェックという六人のピアニストについて評したものだが、女としておなじ女流をどのように見ているのか、どの人を崇め、どの人に憧れ、どの人を近寄りがたいと感じ、誰を友とし、そしてもっとも尊敬しているピアニストは誰なのか、が読み進めると共に如実に分かってくる。面白いぐらいに。

読んでいる途中で、おもわず僕は、CDショップに駆け込み、ベネディッティ・ミケランジェリのデビューから10年間のうちの演奏が収められた音盤を買い求めてしまった。すこし聴いただけで、これまで知っていたミケランジェリとはまるっきり異なる世界がそこにあることがわかり、この先の自分の心境の変化を予感してぞくぞくした。

ピアニストが見たピアニスト―名演奏家の秘密とは (中公文庫)

青柳 いづみこ / 中央公論新社

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グレート・ピアニスト・シリーズ/ミケランジェリ 初期録音集 1939-1948

アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ / Naxos

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Tracked from 癒しのクラシック音楽 at 2010-02-11 23:51
タイトル : 癒しのクラシック音楽
心を癒してくれるすてきなクラシック音楽を紹介しています。 クラシック音楽でほっとするひとときを過ごしましょう。... more
Commented by maru33340 at 2010-02-08 07:30
この本名著なり。他のEssayも面白い。(ドビュシーやや専門的なり)
Commented by k_hankichi at 2010-02-08 20:16
この人の音楽の聴くちからの奥深さにも感銘します。聴いているレコードやCDの数も半端ではない。エッセイも良いのですね。
by k_hankichi | 2010-02-07 20:54 | クラシック音楽 | Trackback(1) | Comments(2)