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新・はんきちのつぶやき hankichi.exblog.jp

音楽、小説、そして酒を愛する方々との空間です


by はんきち
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アンドレイ・タルコフスキーという監督の名前は知っていたけれど、彼による映画を観たことがなかった。そんななか、柏の映画館で『ノスタルジア』(1983年、イタリア=ソ連合作)の4K修復版が放映されると知って、興味本位で出掛けてみた。

イントロダクションは次のようにあった。

「イタリア中部トスカーナ地方、朝露にけむる田園風景に男と女が到着する。モスクワから来た詩人アンドレイ・ゴルチャコフと通訳のエウジュニア。ふたりは、ロシアの音楽家パヴェル・サスノフスキーの足跡を辿っていた。18世紀にイタリアを放浪し、農奴制が敷かれた故国に戻り自死したサスノフスキーを追う旅。その旅も終りに近づく中、アンドレイは病に冒されていた。古の温泉地バーニョ・ヴィニョーニで、世界の終末が訪れたと信じるドメニコという男と出会う。やがてアンドレイは、世界の救済を求めていく…。」

霧が立ち込めた田舎の村の教会に男と女が訪れるところから始まる。女だけが教会に向かう。祈りを捧げようとするが膝まづくことまではしようとしない。

暗いトーンの画面が続き、ほとんどシュールレアリズムだと思いながら眠くなる。ここらへんで一度寝落ちした。

女は何かについて不満を持っている(話の中身を追えていないから良く分からない)。女の言うことは男は自分が大切にしている次元とは違うから(きっと)、返事をすることもできないし、しようともしない。

無理にでも目を開けて観続けようとするが、再び催眠術にかったかのように寝落ちする。寝ては目覚めること数回だ。

人が声を張り上げているのに驚いてまた目覚める。男(最初に出て来た男とは違うけれど誰だかわからない)が広場の銅像に上って演説していた。人々は遠くに近くに彼の話を聞いたり眺めてはいる。しかし誰ひとりとして賛同したり拍手したり同調することはない。

そのうちに、最初に出て来た男が空になった温泉プールのなかで、ロウソクに灯をともして端から端まで歩く。何かを成就させたということなのか。

それが一体なになのだ。

何の感慨も起きないままに観終えた。エンドロール無しで速やかに解放されて良かった。

鵞鳥湖の夜』を観に行ったとき、友人はほぼ最初から最後まで寝落ちしていたけれど、それほどまでではないにしろ、まあそれに近いともいえる。

タルコフスキーはもう観ない。


■作品トレイラー

タルコフスキーはもう観ない_c0193136_17073059.png

# by k_hankichi | 2024-04-14 00:15 | 映画 | Trackback | Comments(4)
映画『パスト ライブス』(原題:Past Lives、セリーヌ・ソン監督、2023年、アメリカ・韓国合作)を観た。

淡い恋の物語に気持ちが浄められる、とても美しい作品だった。若いころの気持ちになったかのようで、ある種の懐かしさでもいっぱいになった。

作品のWebサイトからイントロを転記する。

「韓国・ソウルに暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソンは、互いに恋心を抱いていたが、ノラの海外移住により離れ離れになってしまう。12年後、24歳になり、ニューヨークとソウルでそれぞれの人生を歩んでいた2人は、オンラインで再会を果たすが、互いを思い合っていながらも再びすれ違ってしまう。そして12年後の36歳、ノラは作家のアーサーと結婚していた。ヘソンはそのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークを訪れ、2人はやっとめぐり合うのだが……。」

二人はともにある事柄を信じていた。人と人の出会いというものは「因縁」(イニョン)あるいはProvidence(導き)のようなものによっているのではないか。そしてそういう二人というのは、前世でも実は繋がっていたのではないか。そういう二人が一度持った恋心というものは、時を経ても失われることはない。

妻の気持ちが高ぶっていることを見逃さず、嫉妬と焦りが混じった気持ちでいる夫のアーサー。優しく妻に寄り添いながらも不安になる。

僕はスクリーンを観ながら、自分が生きてきたなかで出会ったさまざまな人たちのことを思い出した。そして自分の思いを重ね、どうするのかしら、こういう言葉を言うのではないか、えっそうなってしまうのかと、どきどきしながら魅入ってしまった。

2023年・第73回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門出品で、第96回アカデミー賞でも作品賞、脚本賞にノミネートされたという。

戦争や紛争、国と国の対立が増す今の世界でこういう作品が高く評価されることに、束の間の幸せと安堵を覚えた。


■作品トレイラー(米国)
■作品トレイラー(日本)


『パスト ライブス』・・・淡い恋愛の幸せ_c0193136_23584454.jpg

# by k_hankichi | 2024-04-13 07:18 | 映画 | Trackback | Comments(4)

『テロルの決算』を読む

沢木耕太郎の『テロルの決算』(文春文庫)を読了。

ものすごい緊迫感のあるノンフィクションだった。昭和35年10月12日のテロルに至るまでの、山口と浅沼のそれぞれの日々を克明に辿ったものだ。

僕がようやく乳離れしてゆく頃の日本の政局が、どんなに激動の時代だったかを改めて思い知る。その空気を肌で感じてぐいぐいと引き込まれていく。

弱冠17歳に過ぎない山口二矢(おとや)の大人びた思考と深い憤懣に驚く。

“だが、果たして誰を倒せばいいのか。彼は考え、やがて六人の政治家をリスト・アップする。日教組委員長小林武、共産党議長野坂参三、社会党委員長浅沼稲次郎、自民党容共派河野一郎、同じく石橋湛山、社会党左派松本治一郎。そして何らかの「反省」をも止める相手として、三笠宮崇仁の名もリストに挙げられた。”

そして殺す理由を綿密に論い、論述を組み立てていく。

殺された浅沼稲次郎の生い立ちと系譜も深く溜息をつくほど重かった。

八丈島から三宅島に移住してきた下級武士の子供で、しかも庶子であった。父親はその後、東京の砂村(いまの江東区砂町)に出てきて牛乳を作るための牧場を始め、人家も少ない湿地帯のなか2頭から始め40頭まで拡大していった。

芥川龍之介や久保田万太郎も輩した府立三中(いまの都立両国高校)を出た。身体は申し分ないのに陸軍士官学校や海軍兵学校を受けても3年連続で落とされた。庶子だったかららしい。そして早稲田大学に入学し、政治運動に身を傾けゆく。

結婚しても生活は極めて潔く、同潤会白河アパートに家族と慎ましく暮らす。大相撲を愛し、庶民との屈託のない会話を楽しむ社会党委員長は、人々から広く慕われていた。

そんな彼が山口二矢から憎まれたのは、その少し前、第二次訪中団の団長として中国を訪れ、彼の地に同調するかのような発言をしたことが起因していた。浅沼はよく考えての発言だったことが本を読んで分かったけれど、血気盛んな少年に行動を起こさせるほど、政治家の発言は重かった。

いまの政権を担う人たちの発言の軽さとは比べようもない。

葬儀の際、草野心平が贈った詩も重い。

「一九六〇年十月十二日。
沼さんは倒れた。でない、倒された。
一本の刃で突如。
そして何百何千もの凶器が息をひそめて
何かを待ちかまえているかのような
不安と恐怖のいまは時代だ」


『テロルの決算』を読む_c0193136_14341833.jpg

# by k_hankichi | 2024-04-12 17:33 | | Trackback | Comments(2)
NHKスペシャルの余韻がまだ残っている。あとを引いている。余韻というのはなかなか無くならないから余韻なのだとわかる。

そして今朝は坂本龍一の「12」を聴いていた。聴き直していた。

最後の一年のドキュメンタリーの日々と重なるよう。

坂本さんの部屋の壁に飾ってあった一枚の絵は、まさにこの音盤の装幀画で、それを毎日眺めながら坂本さんは、自分を振り返ったり、未来を想ったりしていたのだ。

この曲集を聴いていると、僕の心も坂本さんの気持ちに重なってゆく。

昨晩は学生時代の旧友たち、それから新しく友達になった人を加えて酒を呑み、大いに意気投合したのだけれど、そういう瞬間もいつか思い出の彼方になってしまうのかもしれないと思うと、少し哀しくなった。

番組のなかで、坂本さんが作っていたフューネラル・リストのことが少しだけ出ていた。そのことも思い出した。

1. アルヴァ・ノト 『Haliod Xerrox Copy 3 (Paris)』
2.ジョルジュ・ドルリュー 『Thème de Camille』
3. エンニオ・モリコーネ 『Romanzo』
4. ガブリエル・フォーレ 「La Chanson  d‘Eve, Op.95: No.10. O mort, poussière d'étoiles』 (歌唱:サラ・コノリー、演奏:マルコム・マルティノー)
5. エリック・サティ 「Gymnopédie No.1 (Orch. Debury)』(指揮:ネヴィル・マリナー、演奏 アカデミー室内管弦楽団)
6. エリック・サティ 『Le Fils des Étoiles: Prélude du premier acte.』 (演奏:アレクセイ・リュビモフ)
7.エリック・サティ 『Elegie』 (歌唱:エヴァ・リンド、演奏: ジャン・ルメール)
8. クロード・ドビュッシー 『Préludes/Book 1, L.117: VL. Des pas sur la neige』(演奏:アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ)
9. クロード・ドビュッシー 『Images-Book 2, L.111: II. Et la lune descend sur le temple qui fut』 (演奏:アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ)
10. クロード・ドビュッシー 『Le Roi Lear, L. 107: II. Le sommeil de Lear』 (演奏: アラン・プラネス)
11. クロード・ドビュッシー 『String Quartet in G Minor, Op. 10, 1.85: III Andantino, doucement expressif』 (演奏: ブダペスト弦楽四重奏団)
12. クロード・ドビュッシー 『 Nocturnes, L.91: No. 1, Nuages』 (指揮: レナード・バーンスタイン、演奏: ニューヨーク・フィルハーモニック)
13. クロード・ドビュッシー 『La Mer, L.109: II. Jeux de vagues』 (指揮:ピエール・ブーレーズ、演奏:クリーヴランド管弦楽団)
14. ドメニコ・スカルラッティ 『Sonata in B Minor, K.87』 (演奏:ウラディミール・ホロヴィッツ)
15. J.S.バッハ 「Matthäus-Passion, BWV244, Pt.2: No.63, Choral. "O Haupe voll Blut und Wunden"」 (指揮:ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、 歌唱:ウィーン・ジングアカデミー合唱団、 演奏: ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団)
16. ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル 『Suite in D Minor, HWV437: III. Saraband」 (指揮カロル・ケウチ、演奏: レオポルディスムヴロツワフ室内管弦楽団)
17. リス・ゴーティ 『À Paris dans Chaque Faubourg』
18. ニーノ・ロータ 『La Strada』
19. ニーノ・ロータ 「La Plage』
20. モーリス・ラヴェル 『Menuet sur le Nom d 'Haydn, M.58』 (演奏:ヴラド・ベルルミュテール)
21. モーリス・ラヴェル 『Sonatine, M.40: II. Mouvement de menuet』 (演奏: アンヌ・ケフェレック)
22. ビル・エヴァンス トリオ 『Time Remembered Live』
23. 武満徹 「地平線のドーリア』 (指揮:小澤征爾、演奏: トロント交響楽団)
24. J.S.バッハ 『Das alte Jahr vergangen ist, BWV 614』(指揮:ブルターン・コチジュ、演奏: ジェルジュ・クルターク、マルタ・クルターグ、ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団)
25. J.S.バッハ 『Chorale Prelude BWV 639, "Ich ruf zu dir, Herr”』 (演奏:タチアナ・ニコラーエワ)
26. J.S.バッハ 「Musical Offering, BWV 1079 - Ed. Marriner: Canones diversi: Canon 5a 2 (pertonos)』(指揮:ネヴィル・マリナー、演奏:アイオナ・ブラウン、スティーヴン・シングルス、デニス・ヴィゲイ、アカデミー室内管弦楽団)
27. J.S.バッハ 『Sinfonia No.9 in F Minor, BWV 795』(演奏:グレン・グールド)
28.J.S.バッハ 「The Art of the Fugue, BWV 1080: Contrapunctus XⅣV (Fuga a soggetti)』 (演奏: グレン・グールド)
29.J.S.バッハ 『Die Kunst der Fuge, BWV 1080:Ⅰ. Contrapunctus 1』 (演奏:シット・ファスト)
30.J.S.バッハ 『Die Kunst der Fuge, BWV 1080 X1. Fuga 3 sogetti』 (演奏:シット・ファスト)
31. ニーノ・ロータ 「Mongibello』
32. デヴィッド・シルヴィアン 『Orpheus』33. ローレル・ヘイロー 『Breath』
(以上の曲・演奏が葬儀で流された)

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# by k_hankichi | 2024-04-11 08:19 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(2)

最後の日々に涙が滲む

昨春亡くなった坂本龍一の最後の日々を辿った番組を観た。放送をリアルタイムで観ていたら動揺しすぎて観るのをやめ、改めて録画を観なおした。

病魔と戦いながら痛みを堪え、医師の指導に逆らって音楽の演奏や収録を優先している坂本。

自分の命よりも音楽が大切なのだというその眼差し。優しさのなかに淋しさが満ちている。

人は自分の寿命を自分で決められないというけれど、あと少しだけ時間があれば、どれだけまた素晴らしい世界を僕らに与えてくれただろう。そう思うと、神様の悪戯のようなこのことに矛盾と無常を感じる。

坂本さんは「こんなにあってもどうせ読めないから」と自分の書架を前にして呟く。哲学書や文学書の背表紙が見て取れる。

鍵盤を慈しむように叩くそのピアノからは、生きる歓びと安堵のような調べが流れていて、逆に哀しみが増す。

最後の最後まで、祈るように音楽に寄り添った姿に、改めて深く頭を下げた。

一年が過ぎて、世界はまだ暗鬱で混沌としている。坂本さんに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


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# by k_hankichi | 2024-04-10 07:20 | テレビ番組 | Trackback | Comments(2)