昭和44〜46年といえば、僕は小学校の高学年。そのころが題材の映画を観ていた。観たあと、いまも何故かしゅん、とした気持ちが心身のなかにある。

大切な大切な思い出を暫く忘れていた、そしてそれは途方もなく大切だった、そんな想い。『焼肉ドラゴン』。

大阪の空港近くの国有地に、肩を触れ合いながら建てられた住宅兼商売の家屋群。このなかに、焼肉屋「ドラゴン」があった。

主人と妻はそれぞれが、戦後の喧騒や朝鮮半島での出来事のなかで、相方を無くしていて、再婚同士。夫の連れ子の長女(真木よう子演じる)、次女(井上真央演じる)、そして妻の連れ子の三女(桜庭ななみ)、そして結婚してから授かった長男(大江晋平演ずる)たちの悲哀と喜び、そして周りの人々との血と汗がふんだんに入り混じった作品だった。

しかしなんといっても、長女次女役の二人は美しい。薄汚れた界隈のなかで、身体は塵に囲まれていようとも、その心にはしっかりと芯が通っていて輝いている。それが卓越している。それだけを観るだけでも価値がある。

失われていた、忘れていたあの思い出。心の美しさ。それらを取り戻すためだけにでも価値があるものだった。

■今日は焼き肉ならぬ、土用の丑の日。(写真は先週末の景気付けの場から)
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# by k_hankichi | 2018-07-20 07:03 | 映画 | Trackback | Comments(4)

大切にしていた砂糖菓子を軽く軽く齧ってみたらいとも簡単に崩れてしまって、そのことに驚いて急に悲しくなる、でも母親からいいのよ美味しいお菓子ほど壊れやすいのだから、と優しく言われて嬉しくなる。

そんな感じのどこまでも爽やかな小説だった。友人から教えてもらった『あこがれ』(川上未映子、新潮文庫)。

忘れていた大切な大切な感覚が蘇ってきた感じがする。吐息もなにもかもが清く澄み通っている。

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# by k_hankichi | 2018-07-19 17:23 | | Trackback | Comments(4)

読後、どうにかしないといけないのだ、という焦燥と不安に駆られて、しかし僕はまた(仕事でもなければ)深い午睡についてしまうのではないか、という予感に苛まれた。

『保守の遺言』(西部邁、平凡社新書)。副題に、“JAP.COM衰滅の状況”とつく。著者が自死する直前の絶筆の書だという。

僕のような非政治的人間にとって、西部さんのテレビでの論説は常に敬遠してきた。しかしどうしても気になってこの論評を読んでしまった。

客観かつ怜悧な考察は、さらにさらに研ぎ澄まされ、その刃でもってあらゆる物事をパサッ、パサッと一刀両断に捌いていく。

政治や社会の欺瞞。わかっていても見て見ぬふりをしてきたこと。流してきたこと。気づかぬことにしていたこと。

この人は本当にギリギリの自分を曝け出してきたのだ。

僕が若い頃にニヒリズムや虚無についてどうしても理解したくて読んだ本が、彼によるものだったことにも気づき、この30年間というものをどう定義したらよいのかと思っていたら、自分の立っている場所の周囲に、ひたひたと水のようなものが押し寄せてきていた。

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# by k_hankichi | 2018-07-18 07:07 | | Trackback | Comments(2)

聴いたことが無い音魂が連なり行くその形跡のなかに有ったものは「いまここにあることの意義」のようなものだった。それは乾いているようで乾いておらず、枯淡のようでいて活きていて、いや逆に幼児のように純粋だった。

ルドルフ・ブッフビンダー。祖先は製本屋だったのだろうその彼が紡ぎ出すバッハは、素朴と正直と真摯と静けさ、そして徹頭徹尾の優しさが共存している。

バッハの音楽さえあれば良い、と思うことがたびたびあって、それはいつもこの音楽家が内包する、何百年経ても古くならない新しさを発見したときで、この、音盤を聴いた晩もそうだ。

夢心地になるはずの真夏の夜は、透明にしんと美しく静かに光っていた。

■曲目(オール・バッハ)
・パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV825
・パルティータ 第2番 ハ短調 BWV826
・イギリス組曲 第3番 ト短調 BWV808
■収録
2014.9.24-25、ドレスデン、ルカ教会
■音盤
ソニーミュージック SICC 30256

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# by k_hankichi | 2018-07-17 06:49 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(3)

真夏の夜のミステリー

最後の最後まで息も切らさずに読み続けた。そして、ミステリーとはこういうことをいうのだと改めて感じた。

読了したのはブログ友人に薦められた『彼女のいない飛行機』(ミシェル・ビュッシ、集英社文庫)。

パリ、ルーアン、そしてスイスとの国境にあるモン・テリブル。街の数々の名所のなかにある人々の生活と喧騒が生々しく聞こえてきて堪らなくよい。

暑い夜にはミステリーというのは、学生時代から聞いていたけれど、まさにそれを地でいった幸いだった。

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# by k_hankichi | 2018-07-16 06:29 | | Trackback | Comments(5)