『デイヴィッド・コパフィールド』に魅せられし、我。

先週読んだ辻邦生のエッセイのなかで、チャールズ・ディケンズの自伝的小説『デイヴィッド・コパフィールド』がとても高く評価されていて、だからすぐさまにその小説を読み始めた。中野好夫訳の新潮文庫なのだが4巻本だ。さきほどようやく第1巻を読み終えた。

想像を超える面白さで、小学生の頃、『オリバー・ツイスト』を夕暮れも忘れて読み進めたことが、確かにあったよなあ、と思い出した。小説というものは、このようなものじゃあなきゃいけない。僕にはまだまだ読むべきものがあるし、もっともと自らを表現することがあるかもしれない。そんなことまで考えてしまうほどだ。

この面白さは、おそらく、自分の幼少のころの出来事であるとか、夢であるとか、嬉しい記憶、哀しい経験などが、どこか遠いところで共鳴するところがあるからなのかもしれない。また、まだ見たこともない英国の田舎から都会に揺れ動かされる人生の悲哀を、ほとんど自分に起きていることのように思えるようになるからかもしれない。

現にいま僕は、イギリス全土の地図の中から、、サフォーク州のブランデストン(Brandeston)はどこかのか?ヤーマス(Yarmouth)はどこなのか?を白地図をもとにプロットし、そのときのデビッドの気持ちや軌跡を追い求めている。

いまはロンドンの市街地の地図を印刷し、その上に、デビットが行き来したというサザーク(southwark)とブラック・フライアーズ(Blackfrliars)や、Mr.ミコーバーが収監されたKing's Bench Prisonの場所を書き込んいる。

いまだかつて英国には足を踏み入れていないのだけれど、家人が3週間ほどの滞在を終えて昨日帰国し、その写真の数々を見せられただけで、それらは読み進めている小説の世界とそれはまさしくぴったりと呼応し、もう居てもたってもいられないの状況に陥っている。

そう、僕はいま、ディケンズフィーバーなのだ。

http://charlesdickenspage.com/index.htmlからhttp://charlesdickenspage.com/dickens_london_map.html
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デイヴィッド・コパフィールド〈1〉 (新潮文庫)

チャールズ ディケンズ / 新潮社

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# by k_hankichi | 2013-09-23 19:16 | | Trackback | Comments(4)

表参道にあるもうひとつの参道の先・・・『南青山清水湯』

映画~美術館と回った昨日の帰途、表参道で途中下車した。気になっていた南青山清水湯に立ち寄るためだ。ココ→銭湯は今日までです!

この地に長らく暖簾をかけてきた銭湯が2008年2月末でいったん休業し、新しく建て替わって2009年4月にオープンしていたのだ。

246号線に沿ったブティックや高級そうな花屋、外国人たちが集い語らう屋台村を横目に、路地を入るとすぐさまそこはあった。美しいビル、その表に控えめにあしらわれた看板。瀟洒な入口と受付、そして塵ひとつない内部。こ、ここが銭湯なのか?

湯屋に入ると、美しく磨かれたタイルと湯気にまみれて、静かにJazzが流れている。セロニアス・モンクの『ラウンド(アバウト)ミッドナイト』だ。

ジェット噴流風呂は極めて力強い。至福である。
高炭酸泉は、すこし甞めてみるとほのかに甘く、ハイボールを口にしたときの感覚に似ている。いい感じ。
そして、すべすべになるシルキーミルク風呂。ほのかさが得も言えない。

もうとつの参道と言ってよいだろう、その聖なる場所がここにあった。僕だけの参道にしたいのだけれど、それは叶わないなあ。

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# by k_hankichi | 2013-09-22 11:50 | 街角・風物 | Trackback | Comments(4)

『モローとルオー展』・・・下絵から聞こえてくる哀歌

昨日は這う這うの体で神保町を後にしたあと、汐留でパナソニックミュージアムの『モローとルオー 聖なるものの継承と変容』を観る。この美術館はルオーを所蔵していることで有名で、しかし“道化師”ものを主とした宣伝に気持ちが退けて、ずっと行かず仕舞いでいた。

訪れてよかった。ルオー(1871~1958年)がモロー(1826~1898年)の愛弟子で、しかも、モロー没後にできた美術館の初代館長を、遺言に基づき務めた(1902~1929年)ということを初めて知った。二人は互いに影響し合っていたことも。

モローは1892年1月1日、66歳にして初めてフランス国立美術学校(エコール・デ・ボザール)の教授になる。一方のルオーは1890年末(19歳のとき)からボザールに通っていたが、モローに出会いすぐさま彼の教室に入る。二人はローマ賞への挑戦を開始するが、二度目の本選進出なるものの落選した1895年、ルオーの実力を評価する師は、もうボザールに行く必要はないと退学を勧める。

この落選したときの絵は、『死せるキリストとその死を悼む聖女たち』で、その下絵が今回展示されていた。哀しみがその茶褐色の色合いのなかから滲み出てくるようで、木炭、黒チョーク、白チョークだけからなるのに深いため息が出る。

解説によると、これは本選の課題の油絵を描くための下絵であるが、その作成に時間を掛けすぎて(2か月間)、仕上げに1か月しかとることができなかったという。ルオーはこの下絵を生涯持ち続けていたそうで、その間、三度にわたり展示したという。

今回の展覧会は、パリのギュスターヴ・モロー美術館により全面的に監修され、汐留のあと松本、そしてパリの本館で展示されるそう。プログラムの解説書も日仏の専門家によるものでおっそろしく内容が充実しており僕の宝物になりそうだ。

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# by k_hankichi | 2013-09-22 10:14 | 美術 | Trackback | Comments(6)

エルマンノ・オルミの不思議・・・『楽園からの旅人』

神保町の岩波ホールで、エルマンノ・オルミ監督の『楽園からの旅人』(原題:Il Villaggio di Cartone、段ボールの村)を観た。この監督の映画を前回見たのは、『木靴の樹』で、おなじ映画館だったと思うが、あのときとおなじく、僕は映画のスクリーンの前で取り残されてしまっていた。
映画HP→http://www.alcine-terran.com/rakuen/

シーンのすべては教会の中とそれに隣接した司祭館で繰り広げられ、あたかも、ひとつの劇を観ているかのよう。ストーリーは、おおむね次のようだ。

イタリアの或る街の教会が取り壊しにあおうとしている。キリスト像が磔になった十字架は乱暴に引き下ろされ、宗教画の数々も運び去されてしまう。長年務めてきた老いた司祭(マイケル・ロンズデール演ずる)は嘆き悲しみ、宗教から人々の心が離れてしまった世の中のことも悲しむ。そんな日の夜に、アフリカから着いたばかりの不法入国者の集団が教会に次々に入り込んでいく。宗教を信じているのだろうか。司祭にはかすかな希望の光を感じた。そのなかの身重の女性から子供が生まれる。司祭はキリストの生誕かと幻想する。しかし彼らのなかにはイスラム教を信じる者もいた。

そんなところに不法移民管理官たちの捜査の手が入る。老司祭は体を張って抵抗する。「ここは教会だ、どのような人々にも開かれた場所だ」と。捜査官たちは仕方がなく退却する。しかし移民たちはざわめく。ここに居てはいけないと感じ、それぞれが教会を去ってゆく。或る人々はフランス行きの船に、或る者たちはイタリアの地に落胆しアフリカに戻るために、或る者たちは異教徒との闘いのために(ダイナマイトを持っての自爆テロの様相)。

カナンの地を追われ流浪の民になってゆく人たちに、彼らのイメージが重なる。神は世界を救えるのか、ということなのか。

宗教についての深い問いかけがここにはあって、しかしその複雑な位置関係やヨーロッパの現実がなかなか理解できない。ゆえに実感がわかない。

ソフィア・グヴァイドゥーリナの音楽(Pro et Contraという曲らしい)の記憶もたどたどしいまま映画から取り残された僕は、這う這うの体で神保町を後にした。

監督、脚本:エルマンノ・オルミ
撮影:ファビオ・オルミ
音楽:ソフィア・グバイドゥーリナ
出演:
 マイケル・ロンズデール(老司祭)
 ルトガー・ハウアー(教会堂管理人)
 アレッサンドロ・ヘイベル(保安委員)
 マッシモ・デ・フランコビッチ(医者)
製作:2011年、イタリア
配給・宣伝:アルシネテラン

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■映画トレイラー →http://youtu.be/tQvuqAZnAP4
 
■グヴァイドゥーリナ『Pro et Contra』 →http://youtu.be/qnCvuZwEGUM
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# by k_hankichi | 2013-09-21 21:17 | 映画 | Trackback | Comments(2)

秋のブラームス・・・ヴァイオリンソナタ第三番

涼しくなってくると、ブラームスが聴けるようになる。今はヴァイオリンソナタ第三番。

アンネ=ゾフィー・ムターによる二つの演奏を聴き比べている。

1982年のEMI版はアレクシス・ワイセンベルクが伴奏する。ムターは当時19歳だったそう。収録:1982.9.6-9、サレ・ワグラム、パリ。

2009年のグラモフォン版はランバート・オーキスの伴奏だ。収録:2009.12.3&4、ビビリオテークザール、ポリング、バイエルン。

ワイセンベルクとの演奏は、ピアノが音楽として極めて美しい。弦と鍵盤の掛け合いというか対比という味わいが深い。激しくぶつかりあうかと思えば融和もある。

オーキスとの盤は、ムターの女王としての情感が、これでもかと溢れ溢れる。妖艶という言葉を知らないで聴いていれば、気が付けば魔術をかけられたように陶然としている自分を見いだし、ああこの感覚なのかと頷くだろう。オーキスのピアノはコロコロと餡ころ餅を掌で転がすような感で、徹底的に下支えだ。

僕はワイセンベルクとの演奏が、いまは性にあう。ソナタがピアノとの競演なのだと実感する名演だ。

ブラームス:ヴァイオリンソナタ全集

ムター(アンネ=ゾフィー) / EMIミュージック・ジャパン

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ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ(全曲)

ムター(アンネ=ゾフィー) / ユニバーサル ミュージック クラシック

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# by k_hankichi | 2013-09-20 20:01 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(4)


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