故郷に錦を投げ捨てる大人の哀愁・・『笑う故郷』

映画『笑う故郷』の封切りを観た。始まる前、岩波ホールの支配人、岩波律子さんの挨拶があった。このホールがアルゼンチン映画を扱い上映するのは今回で3回目だという。
http://www.waraukokyo.com/

アルゼンチン映画といえば、『瞳の奥の秘密』の衝撃はいまだにずしりと重く残っているが、今回の作品はどんなものなのかと、怖いもの見たさ的な興味で観始めた。

40年ぶりに故郷に帰ったノーベル文学賞受賞者の味わう喜びと哀しみを、見事に描いていて、とても痛快だった。

僕は文学者の視点から、どうしても眺めてしまうのだけれど、アルゼンチンの田舎町にすむ一般人や、政治家、教職に携わる人や自称芸術家たちの反応は、極めて面白い。

コミカルな視点も交えてのシニカルさは半端なく、知識人の大人の抱えるジレンマも垣間見える。

故郷に錦を投げ捨てた男の哀愁は、パンパの平原に声なき声のように沁みていった。

90点の佳作だった。



■監督について
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■神保町の牛膳は特別に旨かった。どんぶり丸福。
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# by k_hankichi | 2017-09-16 18:19 | 映画 | Trackback | Comments(4)

人間の理解力

仕事をしているなかで、ある事柄について自分がどんなに幾度も説明しても、殆ど何も理解さまされていない、ということに気付いて暗澹たる気持ちになることが良くある。頻繁にあるといってよい。

どうしてなのか。

寄せては返す波のように何度もその疑問が出てきて、そして幾度となく到達する答えがある。

「人は聞いているだけでは理解できない。」

百聞は一見に如かず、ということだ。

それが真だとしても、説明してきた或る事柄を実際に見た人でも、まだ真の意味を汲み取ることが出来ない人々もいる。

そういう事態に遭遇すると、最早、僕らは、意志疎通する、共感と同意をするということは永遠に出来ないのではないかという諦観にたどり着く。

猿や犬猫なら、自然が与えた危機感知と忌避、生存本能で、目の前の実態を敏感に、かぎ分け対応するのにも関わらず、だ。

少しばかりある知性、個々に展開していった論理が邪魔をするのか。

「人間は、聞いても見ても分からない動物なのだ。」

そう考えたくなるときが何度もある。

それでも砂に水を撒くように、今日も物事を伝え続ける。いつか魔法のように皆がすべてを理解し共有する日を夢見て。

■霧があろうとも分かりやすい(と思う)カリフォルニアの快活な世界の入り口。
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# by k_hankichi | 2017-09-15 07:39 | 社会 | Trackback | Comments(2)

社会人としての教科書は

最近、自分の近くで、自己中心でしか考えていない人による、呆気に取られる事柄にたびたび遭遇する。

仕事に就いているのに、人に迷惑を掛けることを何とも思っていない行動。やるぞと決めたことをいとも簡単に放り投げて、別のことをしたり選択する行動。

仲間を仲間と思っていないのか、幾つもある人と人の「関係」のなかの一つとしか感じていないのか。

僕にはなかなか理解が出来ない。「理不尽なる我が儘」としか受け取れない。周囲はしかしあまりそれに拘泥せずに許容していたりするから、ますます頭がこんがらがる。

「君たち、社会人なんだよね、世の中の役に立とうと思って社会に出たんだよね。」

訊ねたくなる。

そんなこと言うのはやめとけ、という声がどこからか聞こえてきて、だから躊躇のまま言葉を発しない。その気持ちの遣り場、納めどころがなくて結局、意気消沈する。

養老孟司の『バカの壁』を読み、その要旨をまとめて提出し合格しないと社会人にはなれない、という仕組みにできないか。

社会人としての教科書を、この世の中に定着させたい。

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# by k_hankichi | 2017-09-14 07:07 | 社会 | Trackback | Comments(3)

その箱のこと

ストラディヴァリについての本を読み終えて、ひとつの木の箱というものが、途方もなく素晴らしい世界を築くということに改めて感じ入った。

その形が定まって以来、数百年ものあいだ、全く変更が加えられないヴァイオリンという楽器の完成度は比類ないという。その他の種類の楽器は、デザインのみならず構造、構成、材料まで変更に変更が重ねられた。

珠玉の箱。

そんなことを思っていたら、先日の銀座の展覧会で見た、木の箱のことが気になり始めた。

腰高で半間ほどの幅があり、樫の木のような色合いをした二段の整理箱だ。

不思議なのは、その扉の大きさが一段の高さに比べて極めて小さいこと。これでは大きめのものは収納できない。

展示されていた作品の中には、確か石ころのようなもの(箸置き?)が幾つか綺麗に並べられていた。

「顔なし」が並べて面白がっているようにも思える。

実はしっかりとした用途や、その意匠に至る理由があるのだろうと思うが、それは知らないままにしておきたい。

それほどまでに魅力的な箱だった。

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# by k_hankichi | 2017-09-13 07:19 | 美術 | Trackback | Comments(2)

楽器の秘密

『ストラディヴァリとグァルネリ』(中野雄、文春新書)は心地よかった。音楽と楽器のことだけに終始し、猥雑な世間話など一切なくて快活である。

音が鳴る、ということの意味についても、たいそう明快に解説されていて、弦楽器の奏でる曲の数々に、ますます耳を傾けたくなった。

楽器の秘密は不思議の世界。スプルースが作り上げる珠玉の響きが、遠くイタリアの森にこだまする。

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# by k_hankichi | 2017-09-12 21:14 | | Trackback | Comments(4)

リベラルということの意味

リベラル、コンサバ、という言葉の意味を取り違えていたような気がした。『リベラルという病』(山口真由、新潮新書)を読んでのことだ。

人間の理性を信じ、理想と正義を掲げ、民主主義を理解しない野蛮な国を折伏し、ひいては自然まですべてをコントロールしようとする。アメリカのリベラリズムは、われわれにとっては、建国から短い歴史しか持たない国ゆえの、独善と傲慢に映りかねない。この感覚が、アメリカ民主党に対する「正論を振りかざして、話を聞かない」という批判になり、共和党へのシンパシーにつながるのではないか。日本人の潜在的な素養から、リベラルよりはコンサバの気質に馴染むのかもしれないという気がする。では、アメリカのリベラルは私達日本人によって受け入れられることはないのか。”(「奇妙な日本のリベラル」より)

アメリカのリベラルが追い求めている平等主義というものは、僕ら極東の小国の人々がもっているそれとずいぶんことなるのだということが、この本を読んで、ようやく腑に落ちてきた。

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# by k_hankichi | 2017-09-11 06:46 | | Trackback | Comments(2)

久しぶりの銀座と展覧会

久しぶりに、銀座まで足を運んだ。友人から教わっていた展覧会「かみ コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎」に、足を運んだ。
http://www.shiseidogroup.jp/gallery/exhibition/event/index.html#event02

展示されているどの作品も、シンプルななかにも「紙」が醸し出し、もたらす風合いを余すところなく発信していて、日本が持つ控えめな気品というものに、静かに心打たれた。

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# by k_hankichi | 2017-09-10 20:20 | 美術 | Trackback | Comments(4)

極めてリアリスティックな『海辺の生と死』

ずっと観たいと思っていた映画『海辺の生と死』をようやっと観た。

これは太平洋戦争末期に、島尾敏雄とミホが出会った奄美諸島の島での出来事を描いたもの。生と死を分かつ瀬戸際の境遇にありながら、二人の恋は燃え上がり、しかし、決行の日はじわりじわりと迫って来る。

映画の印象は「夜」。二人の逢瀬は夜が主体で、だからそうなるわけで、薄暗い日、月明かりの日、それぞれのなかで、心情描写が纏緬と連なっていく。途中、中だるみ気味になるのだけれど、それは二人の気持ちの進行とも合致するものだから仕方がない。

僕にとってのこういう研ぎ澄まされた感覚とともにある夜は、何時のことだっただろうか。二人の愛を目の当たりにすることで、観客のそれぞれは、忘却の彼方から救い出された。

夜を最も美しく描いた、ジャパニーズ・フィルム・ノワールだった。


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# by k_hankichi | 2017-09-09 19:47 | 映画 | Trackback | Comments(4)

曇天続く秋の日々

出張で東に西に動き回るが、雨か曇天の毎日。米や野菜の出来が云々されるが、自分も含めて人々の心の生育が不安定になっているのではと感じる。

近くの国の核武装に鈍感になり、かといえば政治家の私生活のあら探しに報道を費やし、思考回路を停止させる。友人から「心配中止」という言葉を教えてもらってまさにそうだと膝を叩く。

からりと晴れ上がった空のした、遥か遠くまで見渡した思考と視座を取り戻したい。

心の不毛作がひたひたと迫ってくる初秋である。

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# by k_hankichi | 2017-09-08 08:23 | 社会 | Trackback | Comments(5)

遠く太平の時代に思いを馳せた

近江商人の話は、西武グループの堤さんの本を読んで少し学んでいた。しかしどんな場所なのかは知らなかった。

そこを訪れ、小高いが厳しくない山々に囲まれた平原と、それに琵琶湖が繋がる地形を眺めてみて初めて 、水陸両面が使える極て便利な場所なのだと分かった。今日と信州を結ぶ場所。また東海道や北陸にも繋がる。

安土桃山時代から江戸時代にかけて、商人たちが生き生きと活動し、また地域間の交流を深めていったころのことを遠く思いを馳せた。

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# by k_hankichi | 2017-09-07 19:37 | 街角・風物 | Trackback | Comments(0)


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