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フジタの素描の崇高さ

『ランス美術館展』(損保ジャパン日本興亜美術館)を観た。展示の半分はフランス近代画家たちによる作品、そして後半はレオナール・フジタの作品の数々だった。何よりも感銘したのはやはりフジタだった。

僕にとってそのなかでも最も素晴らしかったのは、ランスの平和の聖母礼拝堂のフレスコ画の下絵。それは素描と称してよい筆致なれども、込められた情念の深さは半端ではない。これをもとに彩色を施したフレスコ画が出来ていったのだが、結果の素晴らしさ以上に沁み入るものがあった。

それはモノクローム映画の作品が、俳優の情念をより深く伝えていくる場合があることに似ている。と同時に、作家の精神がしっかりと伝えられるほどの完成度だからこそなのだ。

藤田嗣治は、紛うことなくその世代の芸術家の域を超越していて、宗教はおろか何事をも超越して宇宙レベルに繋がる崇高さに至っていた。


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by k_hankichi | 2017-04-30 22:04 | 美術 | Trackback | Comments(2)

魅惑の街角・・・いつか必ずベルリンへ

ベルリンは行ったことが無い。出張の際の乗り換え経由地にもなったこともない。それでも僕はこの街のことを知っている。もちろんフィルハーモニーと共にある音楽の響きや、ブランデンブルグなどの曲にまつわる知識からなのだけれど。

そんな僕が、この小説を手に取って視線を走らせた途端、もう完全に魅せられてしまった。『百年の散歩』(多和田葉子、新潮社)。

愛する人と待ち合わせをしながら、たいていすっぽかされ待ちぼうけしてしまう。憧憬と愛情の気持ちをぶつけることができないままに街区を散歩する孤独。

しかしその足を向けるそれぞれの街角には、ドイツのみならず沢山の国からきた人たちの生活があり、それは歴史や風景、記憶、軌跡と交錯する。10の街角のそれぞれに託された小説家の想いは、いじらしさと枯淡と、そしていつまでも消えない小さくても力強い愛の炎と共にある。

・カント通り
・カール・マルクス通り
・マルティン・ルター通り
・ㇾネー・シンテニス広場
・ローザ・ルクセンブルク通り
・プーシキン並木通り
・リヒャルト・ワーグナー通り
・コルヴィッツ通り
・トゥホルスキー通り
・マヤコフスキーリング

どんな観光案内よりも素晴らしく、虜になった僕は「いつか必ずベルリンへ」と呪文を唱える。

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by k_hankichi | 2017-04-26 07:44 | | Trackback | Comments(2)

息を殺して読んでいた

久しぶりに小説が読める時間が持てるようになった。その一冊目は『よるのふくらみ』(窪美澄、新潮文庫)。

心身にズキズキと食い込んでくる作品で、現実とフィクションの境界が曖昧になる。

夢にまでも出てきそうで、それは実は実際の自分だった、というなドンデン返しまで準備されていそうな感覚。

おわりまで辿り着いたとき、そこまでずっと息を殺して活字を追っていたことに気づいた。

ミステリー作品以外でこんなふうになるとは。

解説を書いている尾崎世界観というミュージシャンの言葉に深く頷いた。

どんな音楽の人かは知らないが、分かった人だと思った。

“窪さんの作品を読むと、誰かと繋がっていたくなるから困る。諦めていた本当のことに向き合ってしまいそうで苦しくなる。そして、そのことに安心する。”

何てこった。

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by k_hankichi | 2017-04-18 18:21 | | Trackback | Comments(4)

一年ぶりのマタイに感銘する

昨日は一年ぶりにマタイ受難曲を聴きに行った。彩の国さいたま芸術劇場でのバッハ・コレギウム・ジャパンによる演奏。

昨年の聖トーマス教会合唱団&ゲヴァントハウス管弦楽団が、伝統正統派の粋だとすれば、今回のものは古楽に遡って深く顧みた知性が生み出す最高の震えだった。

鈴木雅明氏による全体の統率は一糸乱れず、しかしそれはガチガチに強制されたものではなく全体が思考の流れのように体現され、各自がそれに寄り添いながら自然に発露させていった。

最も目を引いたのは、ハンナ・モリソンというオランダ人で(スコットランドとアイルランドの血筋の家系)、微動だにしない背筋の伸びた佇まいとおそろしく透明なソプラノとその美貌に、このひとは地球人ではなく宇宙人に違いない、と息を呑む。

http://www.bach-cantatas.com/Bio/Morrison-Hannah.htm
http://jp.medici.tv/#!/hannah-morrison
http://www.hannahmorrison.eu/

そしてもうひとつ、クリスティアン・イムラーという歌い手の風貌と潤いに満ちた太いバスは、まさにその名前の通りイエス・キリストそのものがそこに居るかのようで、紛うことなく、マタイ受難曲の演奏史上、最もイエスに近い男と呼ばれるべきと思った。

http://www.christianimmler.com/
http://bcj2014.bachcollegiumjapan.org/artists/christianimmle/
 
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by k_hankichi | 2017-04-16 21:48 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(2)

景色を眺める。ただ眺める。

毎日、乗り物で通勤しているのだけれど、そのあいだ本を読んだり携帯電話を見たりしていて、あまり外の景色を眺めていなかったなと思った。

気づいてみれば都心の桜は盛りを過ぎ、そればかりか既に散りゆくころで、皐月の趣きさえ香り始めている。

外を眺めよ!

風情を感ぜよ!

順三郎が世田谷の野道を歩みながら、アポロンの哲人やらシェイクスピアの老婆に出逢ったように、僕たちは春の道端をほっつき歩かなければ。

歩けなければ眺め続けなければ。

浜風さえ吹いているかもしれない。

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■ケーキ越しに春の港を眺める。先日の慶事にて。
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by k_hankichi | 2017-04-12 07:44 | 街角・風物 | Trackback | Comments(2)

『オズの魔法使い』に触れられて

『オズの魔法使い』を引用した本を読んでいる。小説とは異なる次元の内容なのだけれど、人々が生きるこの世の中というのは結局はむかしから言い含められてきた「公序良俗」のなかに帰結するのかもしれない。

結局は、自分の家が舞い降りたところ“東の悪い魔女”に途がある。

ジュディー・ガーランドが主演したあの総天然色映画を再びじっくりと観てみたいと思った。

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by k_hankichi | 2017-04-11 07:38 | | Trackback | Comments(0)

『悲愴』が寄り添う転機

録画してあった映画『最高の人生のはじめ方』(2012年、アメリカ)を観た。

主演はモーガン・フリーマンとヴアージニア・マドセン。監督はロブ・ライナー。大御所が揃っている。

舞台はミシガン州ベルアイルという湖を臨んだ避暑地。西部劇小説家のモンテ・ワイルドホーン(モーガン・フリーマン)は夏を過ごすためにこの地を訪れる。妻に先立たれ、失意のまま酒に溺れて自暴自棄になっている。

隣の家にはシャーロット・オニール(ヴアージニア・マドセン)と三人娘がニューヨークから引っ越してきて住んでいる。

モンテはなかなか周囲に打ち解けようとしないが、隣家の娘たちと物語の話をしているうちにだんだんと心を開き始める。

夕食に招かれたあとの時間、シャーロットが弾き始めたのがベートーヴェンのピアノソナタ第8番ハ短調『悲愴』の第2楽章だ。彼の心の鍵はここで完全に抉じ開けられた。

音楽がもたらした人生の転機。

観終えてから無性に『悲愴』が聴きたくなって、何枚かのCDをトレイに載せてみた。何故かスタニスラフ・ブーニンによるものが、一番沁み入った。

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by k_hankichi | 2017-04-08 08:43 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(2)

遺構を掘り出す旅

引っ越しで運んだ段ボールの数々を荷ほどきしていて、学生時代のLPレコードが三百枚規模で出てきて驚いていたが、先週はそのころの日記(というか雑文集のようなもの)が束になって見つかった。

よくもまあこんなに毎日書くことがあったなあ、というほど、様々なことを書き連ねている。思索はなかなか前進はなく幾度も幾度も始めに戻る。それでも懲りなく言葉は重ねられ、棄却され、発見し(したかのように思い)創造されてゆく。

呆れ果てたいが、しかし頭が下がる。このエネルギーは今の僕にはない故に。

気が向くままに、いくつかページを繰っているだけで夜は更けゆく。遺構を掘り進める旅は発見の旅。

まだ始まったばかりだ。

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by k_hankichi | 2017-04-06 08:19 | 一般 | Trackback | Comments(4)


音楽、小説、そして酒を愛する方々との空間です


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