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養勇講礼なる政界ドラマの登場・・・『総理の夫』

政界ドラマというと、黒幕がいてそれが財界や建設業界と太いつながりを持ち、そこに銀座のクラブのホステスや愛人が絡み、全体として利権を巡るドロドロした筋書きが纏綿と続く、というものが多かった。ところがどうだ。ブログ友人のお薦めによって読んだこの小説は、明朗快活、全力前進といった感の、溌剌としたものだった。『総理の夫』(原田マハ、実業之日本社文庫)。

この作家がまさかここまで自由闊達かつユーモア満載な小説を書けるとは思ってもみなかったから、その力量と仕事の幅を見直してしまった。

鳥類学者である相馬日和は、妻の凛子が政界にデビューし、驚くようなスピードで内閣総理大臣に就任してしまい当惑しているところから始まる。弱小政党の長であったのだけれど、連立与党を組むことによりそれが実現したのだ。

凛子は、日本の未来を拓くべく、それまでの政界リーダーのだれもが触らずにいた「増税」を積極的に推進し、財政赤字の危機を乗り越えようとしていく。反対派も多いなか、彼女は自分が描く未来像をしっかりと国民に対して正面から自分の言葉で語り、人々の賛同を得ていく。

山場は幾つもある。そのひとつは総理のスキャンダルを狙って、政界の黒幕が刺客を送り込む場面。本来は醜聞を報じるべき立場にある政界レポーターが、逆に総理たちを応援する側に転じてしまうところには、心のなかで拍手喝采を送った。

そして総理夫妻の間に、新たな事柄が発生する。それは課題ではなく朗報と言うべきなのだけれど、政界や国民の反応はまちまちだ。賛否両論。

そこにぴしゃりと下命するのは、いったい誰なのか。おーおー、この次はどうなるんだい。というところで、ストーリーが終わる。放り出されてしまった感は拭い切れないが、この尻切れトンボ具合が、続編への期待感となって高まる。

養勇講礼。勇気を養いながら新たな一歩を踏み出し、互いに励まし合いながら未来に向かって頑張ろう。

そういう気持ちになっていく。

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総理の夫 First Gentleman (実業之日本社文庫)

原田マハ/実業之日本社

★★★






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by k_hankichi | 2017-01-31 18:52 | | Trackback | Comments(2)

製造第1号の餃子たち

若き家人のうちの一人は料理好きだ。しかし餃子を作ったことはなかった。

今宵は初めてその調理を手掛けたそうで、早く帰宅出来たことから、製造過程含めて、それを目の当たりに垣間見ることができた。

少々ざっくりした刻みかたながら、味わい深く、具の野菜を仕込むときに少し塩加減がキツすぎたくらいの様相。

自分では料理が苦手なハンキチにとって、新たなる力強強い味方が加わった感がある。

ハンキチを陥落するには餃子とお酒に限る。

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by k_hankichi | 2017-01-30 20:41 | 食べ物 | Trackback | Comments(3)

あんた、昔から車好きだったわよね

実家に立ち寄って話をしていたら、ひょんなことから自動車運転免許証返上のことが話題になった。

僕の父親はもう80歳代も最後半に差し掛かる年齢。最近世間を騒がしている高齢者の自動車運転ミスと加害事故のこともあって、そろそろ免許返上しないといけないんじゃない?ということだ。

しかし父親は、そんな諭しのことは全く意に介さず、昭和30年代の高度経済成長の時期に初めてスバル360を手に入れて以来60有余年の自動車運転歴を振り返りながら、昭和の自動車社会のことを語り始める。

彼は、おそらくいま生きている世界中の人たちのなかでも、トップ1%に確実に入るだろう長寿かつ凄腕ドライバーであり、そしてその車をなんでも自分で修理できてしまう世代の最後だと思う。

そんな父親に教育されての僕だから、自動車は自分で修理するものだと決めてかかってこれまた40年が過ぎており、「あんた、昔から車好きだったわよね」と母親から言われることになった。

母親の記憶披露独演会とあいなって、当の本人がまるっきり忘れている事柄を、どうしてそんなに覚えているのか、という、啞然を通り越して、脅威すら感じる次元の時間に突入。

たしかに、僕の車好きは父親譲りかもしれない。そして、それ以外の生きる指針のこまごまとした事柄のひとつひとつまでも、父親の影響を相当に受けていることを、改めて、しみじみと思い至った。

それほどまでに、僕という人間は単純素朴で、だから自分のアイデンティティなどというものは、有形無形なもの、あるいは、ほんとうに取るに足りないものだともいえる。
 
■"memory" by Olin Levi Warner (1844–1896). Photographed in 2007 by Carol Highsmith (1946–), Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4150818
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by k_hankichi | 2017-01-29 22:56 | 一般 | Trackback | Comments(5)

鬱憤を晴らすかのようなクリフォード・カーゾンによるチャイコフスキー

疲れがたまったなか、朝から神奈川から千葉に向かい、野暮用を済ませてさきほど帰着した。自動車のなかでずっと聴き続けたのは、サー・クリフォード・カーゾンによるチャイコフスキーとラフマニノフのピアノ協奏曲。このピアニストは、モーツァルトやシューベルト、ブラームスなどを端正に弾く精緻な人だと信じ込んでいたから、あまりの違いに驚いた。

つまりそれは、僕の既成概念を覆す、眼の覚めるような、攻撃的で挑むようなすごい演奏だった。

チャイコフスキーは1958年10月のウィーン・Sofiensaalでの収録で、サー・ゲオルグ・ショルティ指揮、ウィーン・フィルによるもの。ラフマニノフは1955年6月&12月のロンドン・キングスウェイホールでの収録で、サー・エイドリアン・ボールト指揮、ロンドンフィルによるもの。(ここまで書いてみて、ピアニスト、指揮者ともに全員Sirだったと気付いた。)

どちらがどうかといえば、チャイコフスキーの凄みが格別で、品行方正な雰囲気を醸し出しているピアニストが、あろうことか日ごろの箍が外れてしまって、奔放さに狂喜し満ち溢れる、というもの。ウィーン・フィルの金管も唸りはじけ、その音はもはやビビり濁音までもが混じる。

そうか、オーケストラ奏者たちも、カーゾンに応えるべく一気に気持ちを炸裂させているのだ。折り目正しき男たちが、隠し持っていた鬱憤を晴らす咆哮そして解放、とでも言おうか。

ちょうど自分の精神状態と同期していて、その偶然さに驚き、嬉しさを隠しつつ密かに心通わせ共鳴しつづけた一日だった。

■音盤
クリフォード・カーゾンComplete Recordings Edition
英Decca 4784389
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by k_hankichi | 2017-01-28 23:40 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(4)

世知辛さに寒くなる夕べ

人の打算や欲望はアメーバのような黒々とした怪物だ。時々そんなことを思うようなことがらに遭遇すると、なんだか寂寥感にとりつかれる。

人はみな、自分が手掛けてきたこと、自分の手腕、自分の寄与に意味を持たせたくなるもので、しかし、そういうときに限って、周囲からみるとそれほどのものではない。

どうして拡大解釈、誇大妄想がおきるのか。

犬や猫やライオンや熊は、それぞれが自己の度量をしっている。

彼らは拡大解釈していても、少しだけつばぜりあいの闘いや絡みをしてみれば、互いに直ぐに解る。

しかし人間は違うのだ。

よくわからない。

僕も、いつまでもブツブツ言い続けないようにしなくては。


■今日の心象風景
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by k_hankichi | 2017-01-27 19:59 | 社会 | Trackback | Comments(4)

無くしたものが戻る幸せの国

家人が帰宅途中で携帯電話を落としたと騒ぎになっていた。その保護カバーには身分証明書も入れてあり、さらに、あろうことかもう一人の家人の身分証明書まで入れていた(説明される度にここで周りから何故?と一様につっこみが入る)。代わりに入れてあげていたという、しどろもどろの返答が為される。

無くしただろうときのことは覚えていて、なんでも自転車に乗りながら少し携帯を見ていて、そのあとにカゴに載せていたカバンに電話機を投げ入れたつもりが入っていなかったのかもしれない、という。

ちゃんと入らなかったら分かるだろう、ちゃんとカバンのファスナーは閉じたのか、開け放したまま自転車でガタガタ走ったろう、落としたら分かるだろうどうしたのだ、悪用されたらただじゃすまないよと皆から詰問され、当人はますます殻に閉じ籠る。

しかたなく捜索隊の第一陣、第二陣が組まれたが、成果なく帰還した。

携帯電話の発着信を止める手続きやら散々やった挙げ句に翌朝になる。

ほうほうの体の家人は、遺失物届けを出すべく、近くの交番が開くのを見計らって訪ねた。

おずおずと口上を述べているうちに、驚くべき哉、無くしたはずの携帯電話が交番の保管庫から出されてきたということ。

余りの幸せに本人有頂天となり、辺り構わず狂喜乱舞したと、あとから聞き、なんと能天気なことかと一同呆れかえった。

しかし思った。

ここは、無くしたものが戻ってくる幸せの国なのだ、ということを。

David Lynch. Solo show PLUME OF DESIRE
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by k_hankichi | 2017-01-26 07:48 | 社会 | Trackback | Comments(2)

正当性 対 正当性

日頃、さまざまな事柄を目の当たりにしたり、また自分自身も巻き込まれたりしながら、つくづく思う。

この世の中は、「正当性 対 正当性」に終始するのだな、と。

自分の考えの優越性を示し、勝つことを追求しつづけるのが社会のなかで生きること。

勝ったら終わりではなく、また新たな挑戦者が現れ、競いあい、誇示しあい、陣地を広げ、賛同者を増やし、そして相手の考えや主張を淘汰する。

そうすれば勝ち。

かと思えばそれは一過性であり、また立場は危うくなる。

新たな覇権探求者に迎合したり、賛同の辞を述べたり、それを時代の大きな変動に伴う宿命だと権威化してみたり。

類人猿と基本的思想や行動は変わらないのだ。

「正当性 対 正当性」の競いを続けていく、そのなかにいる。

我々はずっと居続ける。

■そのことを思い吐息をつく心象風景
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by k_hankichi | 2017-01-25 06:07 | 社会 | Trackback | Comments(2)

『夢十夜』に痺れる

漱石の作品のなかには、まだまだ読んだことが無いものがある。『夢十夜』もそうだった。作家が本当に見た夢なのか、あるいは空想の夢なのか、それは分からないのだけれど、きっと前者なのだろうと読んでみて思った。

やはり珠玉は第一夜で、それは寝床の枕元で腕組みをしながら座っているそこには病に伏した女が横たわっていて、もう死にます、という彼女と対話をしていく話だ。

「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」

そしてそれから自分は庭に坐って時間が経るのを眺めている、というもので、

「すると石の下から斜に自分の方へ向いて青い茎が伸びて来た。見る間に長くなってちょうど自分の胸のあたりまで来て留まった。と思うと、すらりと揺らぐ茎の頂きに、心持首を傾けていた細長い一輪の蕾が、ふっくらと瓣を開いた。真白な百合が鼻の先で骨に徹える程匂った。」

そのあとで、ようやく自分は百年が経たことを気づく、というものだ。

そしてそのことにぼーっとして、あの世の世界にまで思い馳せていたら、オーブリー・ビアズリーが描く『サロメ』の絵を想像してしまった。滴り落ちたものが作る哀しみの血の海のような地面から、ゆらゆらと、ひとつ、またひとつ、茎が生えてきて、伸びてきて、そして花弁をつくっていく。

漱石は、あのビアズリーの絵を観たのではないか、と思った。

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文鳥・夢十夜 (新潮文庫)

夏目 漱石/新潮社

★★★★★




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by k_hankichi | 2017-01-24 00:17 | | Trackback | Comments(3)

演劇というものをテレビ受像機で観る『カルテット』

『カルテット』(TBSドラマ、火曜日)が良いぞというのは知っていたのだけれど、ようやっと録画してあったものを観ることが出来た。

実は僕は演劇を観たことがない。だから、そもそもチェーホフの『かもめ』の舞台の真髄も知らないし、高貴な身の上もかなぐり捨てて、大正末期からその世界に駆け込んでいった東山千栄子の本当の心の欠片も知らない。

そういう演劇の世界の片鱗について、テレビ受像機を通じて新たな投げかけをしようとしているものがこの作品だと思った。

ドラマの筋書きは、まだ出だしだからどうのこうの言ったところで拙速になる。しかし、ここで出ている俳優たちの真剣味と凄みは第1話から伝わってきた。高橋一生という俳優には何度か触れてはきたけれど、その知性の高みの半面のひねくれた視点は印象的で、それは彼が、ヴィオラというちょっと傍流的に置かれた楽器を担当している設定も相まって、今後の劇の趨勢のシニカルさを予感させた。

エンドロールに出てくる椎名林檎による曲『おとなの掟』は、物哀しきタンゴとでも言おうか、短調の切れ味が鋭く美しく、それだけでも陶酔してしまった。




File:Schoenberg string quartet quartal chord.png
c0193136_22235697.png
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/46/Schoenberg_string_quartet_quartal_chord.png: By Schoenberg (Created by Hyacinth using Sibelius) , via Wikimedia Commons

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by k_hankichi | 2017-01-23 00:56 | テレビ番組 | Trackback | Comments(3)

映画評論家というものの慧眼と博識に深く頭を垂れる

アニメーション映画がキネマ旬報第1位に選ばれ、僕はその選考委員たちの慧眼にとても感銘したが、こちらの本ではさらに映画評論家というものの博識にも深く頭を垂れた。

『映画と本の意外な関係!』(町山智浩、集英社・インターナショナル新書)。友人から紹介してもらった。

多くの本数の映画を観ているだけでなく、幅広い文学を読破していることで、その映像やストーリーの裏の裏まで理解し、紐解き、そして噛みしめるように味わっていく。そういう人たちが居るのだ。

ここにはほとんど知らないことばかりが披露されていて、さすが専門家は違う、と舌を巻く。

それでも観たことがある映画についての薀蓄やそれを支える深い造詣を読み知ると、再びその作品を観てみたくなってしまう。芸術というものがもつ多面性というものの深淵。

鑑賞者の知的状況や時間的な変化(それらは外部要因、内部要因それぞれにある)によっても、掻き立てられる感銘や触発のなかみは、際限ないほどに変容していくということを改めて知る。

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映画と本の意外な関係! (インターナショナル新書)

町山 智浩/集英社インターナショナル

★★★★




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by k_hankichi | 2017-01-22 14:14 | | Trackback | Comments(2)


音楽、小説、そして酒を愛する方々との空間です


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