音楽、小説、そして酒を愛する方々との空間です

by はんきち

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湿り気が抜けた朝の風に秋が入り込んでいることを感じた。

そんな案配のなかに聴いているのは、クロード・アシル・ドビュッシーのフルート・ビオラ・ハープのためのソナタ。

オーレル・ニコレ、今井信子、吉野直子による。

過ぎ行く季節に後ろ髪を引かれながら、移ろいゆく時のながれを諦観と郷愁が入り混じった気持ちで身を任せる。

友人はドビュッシーのピアノ曲についての解説書を読んでいるそう。

もしかするとこれは、フランス近代音楽が現在のこの混沌とした社会や人々の生きざまに対して、一服の清涼剤、緩和剤(いや鎮痛剤か)になるだろうことの暗示なのしれない。

武満徹、ドビュッシー他:フルートとヴィオラ、ハープのための作品集

ニコレ(オーレル) / ユニバーサル ミュージック クラシック

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by k_hankichi | 2016-08-31 07:44 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(3)
大森荘蔵の『流れとよどみ -哲学的断章-』(産業図書)がお薦めと友人から言われて、すこしづつ読み進めている。

この哲学的なエッセイ集は、すべてが僕が高校から大学に通っている時代(1976年から1981年)に書かれている。おそらくそのころもこの方の著作を読む機会もあったのだろうけれども、一つとして記憶に残っていない。

この著者は、人間の傲慢さを断固として拒絶し、たとえ哲学といえどもそこに内包されるある種の虚構性というものをしっかりと認識せよと語り掛ける。

「音がする」という一篇もなるほどと頷いた。

人間は、音楽を聴いているといっても、それは脳のなかの細胞が反応しているだけで、脳の中にマイクを仕込んでもそこで音楽が鳴っていると言うわけではない。その実、外界からの刺激を脳細胞が「データ処理」してわれわれの近くが生じているにすぎず、つまり知覚が創られていることなのだと看破する。

経験がその振動を理解し、なんらかのプロセスを経て、反応させているのが音楽だとすれば、それは言語でも同じなのかもしれない。

人類というのはかくも奇跡的なる存在なのだと、改めて感嘆する。写真家、エッセイストの星野道夫さんが伝えようとした世界にも通じていると思った。

流れとよどみ―哲学断章

大森 荘蔵 / 産業図書

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by k_hankichi | 2016-08-30 07:18 | | Trackback | Comments(2)

星野道夫のバッハ

星野道夫が亡くなって20年を迎えたそうで、それを機にしての特別展を観た。『星野道夫の旅』(於、松屋銀座)。

この人のことは確か僕の友人が好んでいたと思うが、自分ではしっかりと写真を観たことはなく、エッセイを読んだこともなかった。

はじめは単に極圏の動物写真家なのかと思いながら作品に見入っていたが、しかしすぐにそれは部分なのだとわかり始めた。そしていつしか引き寄せられていた。

星野さんは動物や自然や極地の人間たちを撮ることを通じて、次のように感銘して、ただただ心をうち震わせていたのではないかと思った。

「自分たち人間は生きているのではなく生かされている」

「人間はごくごく片隅の存在でしかない」

「長い宇宙の歴史の軌跡なかで地球があり自然が生まれ生き物たちが奇跡的に共に居る」

ところで今回、近視眼的ではあるけれども奇縁を感じた。

僕と星野さんはもとは同じ市に住んでいて、通った小学校も電車の駅を挟んで隣同士だった。中学校は東京に通ったがそれも隣同士だった。高校と大学とその学部は、件の僕の友人と同じだった。

僕たちは、どこかで必ず肩を摺れあうほどにしていて、見えない形で関わりあっている。

展覧会の会場では、そのBGMにバッハの無伴奏チェロ組曲が、ごくごく微かに流れていた。無限の歴史、無限の宇宙、そのなかで出会いこの世に生きる奇跡の軌跡を伝えようとしているのだと思った。

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by k_hankichi | 2016-08-29 00:17 | 美術 | Trackback | Comments(3)

スピノジという人の音楽

昨日観た映画に出演していた若者マチュー・スピノジは、俳優であるとともにヴァイオリニストであり、その父は指揮者でありヴァイオリニストのジャン=クリストフ・スピノジだった。

父親の演奏は知らなかったのだけれど、Youtubeで試聴をしてみたら驚いた。ヴィヴァルディのスタバート・マーテルがこんなに美しいとは、そしてシンフォニアがこんなに激しいとは知らなかった。

ここには何かがありそうだ。

■Jean-Christophe Spinosi & Ensemble Matheus →https://youtu.be/WuUa_MrrdN4
■Vivaldi, La Fida Ninfa (extrait) Sinfonia Ensemble Matheus dir° Jean-Christophe Spinosi →https://youtu.be/-U7Izj3mrLE

■Miroirs #2 Lamento de J.C. Bach - J.C. Spinosi→https://youtu.be/V0llHFXdJj4
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by k_hankichi | 2016-08-28 08:48 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(2)
久しぶりに外で映画を観た。『愛しき人生のつくりかた』(原題 Les souvenirs)。→http://itoshikijinsei.com/

渋谷での封切りに半年以上遅れてだけれども、パリやノルマンディー地方の美しさを堪能。

夫に死に別れた老婦人マドレーヌ(アニー・コルディ演じる)は、一人暮らしをし始めるが、安否を気遣う息子のミシェル(ミシェル・ブラン演じる)の配慮で、老人ホームに入ることになる。その場所が気に入らないマドレーヌは、そこをこっそりと抜け出して失踪してしまう。

孫のロマン(マチュー・スピノジ演じる)は或る女に恋をし始めていたが、そんななか彼女がノルマンディの街にいることを知る。そこに向かう途中のガソリンスタンドで、彼は「どのようにすれば、恋するその人に出逢えるだろう」と、マスターに問いかける。

「24時間ずっと逢いたいその人を想い祈り続けることだ」

そう言われる。

ミシェルは祖母をようやく探し出し、彼女がかつて通った小学校を訪れるが、驚くことに、そこには、再会を密かに祈り続けた女がいた。教師を務めていたのだ。

いっぽう、彼女の息子ミシェルは、妻ナタリー(シャンタル・ロビー演じる)と破局を迎えそうになっている。ブルゴーニュに出向いた帰りに、息子に背中を押されて、立ち寄った件のガソリンスタンドで、「どうずれば失った妻の心を取り戻すことができるのか」とマスターに問いかける。

「現在ではなく、過去に戻ることだ」

帰って来た言葉の意味することは・・・。

映画の中で、シャルル・トレネのシャンソン「残されし恋には」が流れて、学生時代にずいぶんとこの人とそれからジョルジュ・ブラッサンスにのめり込んだことを久しぶりに思い出した。

原題のLes souvenirsとは、祖母が子供や孫たちからの贈り物、という意味なのだとようやく分かった。

■スタッフ
監督:ジャン=ポール・ルーブ
原作:ダビド・フェンキノス
脚本:ジャン=ポール・ルーブ、ダビド・フェンキノス
■キャスト
ミシェル・ブラン:ミシェル
アニー・コルディ:マドレーヌ
シャンタル・ロビー:ナタリー
マチュー・スピノジ:ロマン
ジャン=ポール・ルーブ:ホテルの主人
■製作:2014年、フランス

■「残されし恋には」 − Que reste-t-il de nos amours?→https://youtu.be/DEmQSeNQrh4

■映画「愛しき人生のつくりかた」予告編 →https://youtu.be/mBQKzm6h878

 
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by k_hankichi | 2016-08-27 16:49 | 映画 | Trackback | Comments(2)

老年の『ジニのパズル』

民族と言語のはざまで、少女がはるか米国まで渡って自分の居場所を探し求めるものが『ジニのパズル』(崔実、講談社)だとすれば、『寂寥郊野』(吉目木晴彦、講談社)は、その若くして米国に渡った女性が老年に自分の居場所を失っていくものだった。

舞台はルイジアナのバトンルージュ。戦争花嫁として渡った幸恵・グリフィスは、夫のリチャードとともに老後の日々を送っている。そのようななか、彼女が少しづつ鬱になり記憶を失いはじめ、周囲との摩擦を起こし始める。始めはそれを周囲の勘違いだとしていた幸恵も、ようやく自分が発症したのだということに気付く。

遠く米国に渡った幸恵は、自分の居場所がどこなのか分からなくなっていき、その寂寥郊野(ソリテュード・ポイント)のなかを流離うかごとくになっていく。読んでいる自分も、その哀しみに胸の奥が痛む。

1993年の上半期(第109回)の芥川賞受賞作だった。

寂寥郊野

吉目木 晴彦 / 講談社

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by k_hankichi | 2016-08-26 07:13 | | Trackback | Comments(2)

パエリア渇望

何が食べたい?と尋ねられると、答えに窮することが多い。なにしろ何でも美味しく思うからで、嫌いなものがないということが選択能力を著しく低下させる。

「記念日には」、と付け加えられると、殊更余計に難しくなる。問うものたちが、余計に答えの内容に期待するからだ。

更にその問いに、「自分たちで料理するから」、と付け加わると、もはやお手上げになる。料理人たちの能力を推定できないからで、やたら手の込んだものを指定して出来ないとなると、逆に苦しめることになりかねない。

だが語った。

「パエリア!」

直感的に頭に浮かんだ言葉をそのまま口にだしたら、2秒ほど沈黙があった。

相手は顔を見合わせながら言った。「わかった、パ、パエリアね!」

その日が来て帰宅してみると、そこはもはや戦場のよう。こちらはとるものとりあえず遠巻きにしながら、座す。座して○を待つ、と言う言葉がちらつくほど待っていると、漸く御開帳となった。

感謝の意を表し、周囲が固唾を呑んで見守るなか口に入れれば、それは然して地中海の香りがし、少しばかりサフランが足りないかしらんという気持ちが頭を掠めながら、そういう味付けの地区も南の海に下ったところにあるだろうと勝手に想像した。

遠くアンダルシアの秋の海の香りがするパエリアだった。

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by k_hankichi | 2016-08-25 07:52 | 食べ物 | Trackback | Comments(4)
神保町のいつもの中古CDショップてその音盤を眺めたとき、こりゃ何かの冗談か錯覚か?と思った。しかし、とるものもりあえず、しっかりと抱えてそそくさと買い求めた。

ものすごい希少盤だった。ニコラウス・アーノンクールによるバッハの無伴奏チェロ組曲。4、5、6番が入っている。

いつも立ち寄るフランス酒場で店長に頼んでそのCDをBGMにかけてもらう。

「アーノンクール、ええ、もとはチェリストだったんですよね」

彼はそう呟いた。

「そ、そうだったのか・・・」

愕然としながら聴き始める。何としみじみとした演奏なのか。

演奏はとても上手でしかも孤淡の境地。シュヴァルツヴァルトの奥深いなかで一人樫の木の切り株に腰掛けて目をつむって弾いている。

この演奏が知れわたっていないのはどうも不思議だ。

すこし調べてみると、指揮者に転ずる前は、ウィーン交響楽団の首席チェリストだったと知った。どうりで上手いはずだ。

知られざる名演奏に触れて恍惚としながら一つ歳を重ねた。

Bach 2000 / Vol.126

Nikolaus Harnoncourt / Warner

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by k_hankichi | 2016-08-24 07:51 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(4)
台風が明けた夜に読了。『悪徳小説家』(ザーシャ・アランゴ、創元推理文庫)。原題:Die Wahrheit und Andere Lugen.

著者はベルリンで、コロンビア人の父とドイツ人の母との間に生まれたそうで、テレビドラマ、ラジオドラマなどの脚本家を経て、小説を出したそう。その第一作。

巻頭にはライナー・マリア・リルケの次の言葉が挿入されている。

「恐ろしいものとはすべて、
根底においては途方にくれたものたちで、
我々の助けを求めているのかもしれない。」

人の生きざまの実態を言い当てようとしているような箴言だけれど、小説の方は、予想を超えた独善的な似非小説家の遣りざまが描かれていた。自己中心的な人間とは、ここまで虚言と裏切り、そして偽善に走れるのか、と唖然とした。

主人公の小説家が最後に書いた作品の結末が不評だったというが、この小説の結末もとても尻切れトンボで、台風の朝の晴れ間を前にすると、その途方感が際限なく広がっていった。

悪徳小説家 (創元推理文庫)

ザーシャ・アランゴ / 東京創元社

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by k_hankichi | 2016-08-23 07:12 | | Trackback | Comments(2)
西脇順三郎の詩、「秋」を思い出した。詩集『近代の寓話』のなかの一篇だ。ものすごい勢いで、わが町にも押し寄せた。そのエネルギイには、こころ動かされた。

恐怖と、ドキドキする気持ちと、畏怖を通り越した憧憬にちかい崇拝のような念。

近寄りがたいレベルの自然の底力に、ただただ、深くため息をついた。

「秋」


潅木について語りたいと思うが
キノコの生えた丸太に腰かけて
考えてる間に
麦の穂や薔薇や菫を入れた
籠にはもう林檎や栗を入れなければならない
生垣をめぐらす人々は自分の庭で
神酒を入れるヒョウタンを磨き始めた


タイフーンの吹いている朝
近所の店へ行って
あの黄色い外国製の鉛筆を買った
扇のように軽い鉛筆だ
あのやわらかい木
けずった木屑を燃やすと
バラモンのにおいがする
門をとじて思うのだ
明朝はもう秋だ

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by k_hankichi | 2016-08-22 22:15 | | Trackback | Comments(3)