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『黄昏客思』(松浦寿輝)のなかの実存

積ん読になっていた松浦寿輝の『黄昏客思』(こうこんかくし、文藝春秋刊)を読み始めた。冒頭から吉田健一的なる世界が淡々と書き綴られている。

“とりわけ、光と影が曖昧と化す黄昏の時刻には、そんなふうに不意に意識が混濁し、と同時にその混濁が甘美な途迷いに転じるといった瞬間が、生の時間に差し挟まれがちであるようだ。ただし衰亡の予感の中でその甘さには、かすかな凄愴の気も漂っている。”(「主客消失」から)

しかしその記載はそこから、俳諧の世界や『嵯峨日記』そしてサルトルのアントワーヌ・ロカンタンの世界、そしてセザンヌの心境にまで飛躍する。自分が書いた小説の回想までもが差し込まれ、意識は自由自在に飛躍していく。

そしてその最後、「物」たちの「存在」が迫ってきて、今や「物」たちこそが世界のあるじになるとする。

実存的なる世界。自分らはちっぽけなる小さなとるにたらない、「石」や「果物」や「月」や「樹木」と同じ存在に過ぎない、ということに気付いていく。

吉田健一は、大きくたゆたう時間の流れの中での自分らの存在を、刻一刻とすこしづつ過ぎてゆく時間の実感と共に味わったが、松浦さんは、そういう時間の流れのなかで「主」として自分が存在しているのではなく、それはたとえ「主」であろうともそれは「主」を演じる「客」なのであると看破した。

黄昏客思

松浦 寿輝 / 文藝春秋

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by k_hankichi | 2016-07-31 15:47 | | Trackback | Comments(0)

夏の活力

朝からの蝉の鳴き声が力強い。紛いもない真夏になった。

子どもの頃といえば、夏休みの学校のプールや市営プールに毎日のように通い、唇が紫色になるまで楽しんだ。中学生時代はブラスバンドとプールの往復、高校時代は卓球とランニングとプールの繰り返し、大学になってもそれは同じだった。ときに麻雀が加わった。

夜を過ごすのは、クラシック音楽と小説で、だから一日はそれぞれが纏緬と続がって繰り返されていた。

思い出してみれば、昼間はあまり思考的には意味をもたらさないような事柄が連なっていて、しかし実はそういった事柄が自堕落に傾きがちな精神をバランスよく支えていたような気がする。

いま、会社の仕事に打ち込む毎日に対して、必要なことはもしかしたら学生時代のああいった昼間の世界なのかもしれないと、久しぶりにゆっくりと起床した朝にしみじみと思った。吐息さえ美しく感じる。

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by k_hankichi | 2016-07-30 08:54 | 一般 | Trackback | Comments(0)

梅雨明け宣言

昨日、ようやく関東も梅雨明けしたという。気象庁が宣言したそうだ。

確かに今朝の太陽は燦々と輝いている。入道雲じみたものがモクモクと沸き始めている。

宣言されたことが本当のように思える。

人間、宣言されると弱い。宣告されるとさらに弱い。

伝えられっ放しにするのではなく、しっかりと受け止めて新しい季節、新しい日々を送っていこう。

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by k_hankichi | 2016-07-29 07:14 | 街角・風物 | Trackback | Comments(3)

楽しきBS音楽番組

ここのところ、仕事は剣山の上を歩いているかのような状態で目まぐるしく、しかしそれでいて読みたい本もあり、二つの刺激の間を行き来していた。緊張が押し寄せてしんどくなっていた。

疲労が押し寄せたせいか、昨晩は泥のように床に着いた。

酷い夢に苛まれて目覚めるかと思ったが、意外にもこの未明から朝にかけて見た夢は音楽番組だった。

それは(夢のなかは)日曜日の弛んだ日差しが当たる昼下がり。僕は時間をもて余していた。

たまたま点けたテレビからは、オーケストラの演奏が流されていた。聞いているとそれは『リハーサルを一緒に』という民放番組で、演奏は読売日本交響楽団によるもの。さまざまな曲の、さまざまなパートの練習風景を順繰りに見せてくれる。それも奏者の居る場所から撮影し、そこから指揮者を見遣る目を感じ、そしてまた指揮者からの合図を体感できるようになっている。

これは素晴らしい、と身を乗り出して見入り、30分番組を堪能した。

さてこれで楽しみは過ぎたな、と思っていたら、続くのは『クイズ、楽聖一番!』という番組。さまざまな趣向が繰り広げられるなか、凝視したのは「クラシック音楽イントロ、ドン!」というコーナー。

番組で認定された音楽通が三人壇上にあがり、クイズに答えてゆく。よくみると回答者のなかには音楽通として知られているmaru氏(ブログでも知られている)が出場している。「あーっ、出てる!!」と思わず声がでる。

バッハ、ブラームス、フォーレ。回答者たちはいとも容易く答えてゆく。

しかしどうだ。

次のピアノソナタが誰も答えられない。イントロを過ぎて主旋律に入り掛けている。

「ハイドンのピアノソナタ第8番!」

僕は声を挙げる。

その瞬間、打ったような静けさ。僕はその番組会場の観客席にいてスポットライトが当てられている。

一同から拍手。回答者たちも唖然としながら、つられて拍手している。

「どうしてお分かりになりましたか?」

インタビュアーにマイクを向けられる。

「ど、どうしてって、以前からCDでピアノソナタ集を聴いていましたが、あの女流ピアニストの演奏が心に刻まれていたからなんです」

その瞬間、ハイドンが会場に降臨した気がした。

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by k_hankichi | 2016-07-28 07:02 | 夢物語 | Trackback | Comments(3)

『沖縄ノート』から

僕らは日々、苦手なものから自分を遠ざけようとしている。沖縄問題はまさにそうだ。そして大江さんの本を読めば読むほど、やり場のない、どうしようもない、ヒトとして何もしていない罪悪感に苛まれる。しかし大江さんによれば、そういう、まだ実際に自分がどのような罪をもっているのかということを分からないままに罪悪を感じるということは、その人間に満足を与える綺麗ごとだという。

“やはり日本人とはこのような人間なのだ、というくらい底なしの渦巻きを、自分のなかにひきおこすようにしてしか、認識しえない存在である。アイヒマンの処刑とドイツの青年たちの罪障感との相関についてハンナ・アーレントがいっているように、実際はなにも悪いことをしていないときに罪責を感じるということは、その人間に満足を与える、きれいごとだ。しかし本当に罪責を認めて、そのうえで悔いることは、苦しく気のめいる行為である。沖縄とそこに住む人々への罪障感にも、その二種がある。いったん自分の日本人としての本質にかかわった実際の罪責を見出すまで、沖縄とそこに住む人々にむかってつき進んだあと、われわれが自分のなかに認める、暗い底なしの渦巻きは、気のめいる苦しいものだ。僕がここでのべようとすることは、そもそもの、日本が沖縄に属する、という命題によって、ざらざらした掌で逆なでされたような異和感を一般的な日本人が持つとすれば、その感覚に直接根差ざしている。”(「Ⅳ 内なる琉球処分」より)

いま、世の中にはさまざまな出来事が起きている。昨日の神奈川県の事件もそうだ。事件を遠巻きにしながら、評論家のような物言いをしてしまいがちな自分ら。目の前に広がる状況の本質を自分の側に持ち込み、咀嚼していない。

沖縄について考えるときの暗い底なしの渦巻き、というもののなかに巻き込まれていって初めて、この世の中でしっかりと思考しているということを始めることになるのかもしれない。

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by k_hankichi | 2016-07-27 07:07 | | Trackback | Comments(2)

『沖縄ノート』を漸く読み始める

ずっと放ってあった『沖縄ノート』(大江健三郎、岩波新書)を漸く読み始めた。冒頭から大きな衝撃を受ける。

“実際に僕はこの数年、とくにこの一年はよりしばしば、非力な臆病者が痩せた毛脛をむきだして見ぐるしい開きなおりかたをするような具合に、日本人とはなにか、このような日本人ではないところの日本人へと自分をかえることはできないか、と考えこんでいる自分を見出した。”

この命題は重い。

沖縄に住む人と、本土に住む人の違いはどのようなものがあるのか。どうしてこのようになっているのか。

僕もこの地と縁が繋がっている。

じっくりと考えていきたい。

沖縄ノート (岩波新書)

大江 健三郎 / 岩波書店

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by k_hankichi | 2016-07-26 07:11 | | Trackback | Comments(0)

疾走する車窓から

今朝も朝の列車で、みちのくへ向かって疾走している。車窓からは遠くまで一面に水田があり、その先には森林がそこかしこに拡がっている。

日本の昔ながらの原風景。時おり人家も出てくるが、密集している訳ではなく疎らである。

そんななかを無礼千万に割り入り疾走する列車。現代の文明が空気をつん裂く。

日々の彼らの暮らしのリズムとは何桁も違う速度で横切っていく僕は、なにか犯罪者のような面持ちになる。

今日も明日も明後日も、僕らの毎日は、昔の人々のテンポとは比べようもないスピードで変化変革されてゆく。

しかしどうなのだろうか。

変化変革をしているようでいて、そのなかの実態本質は、依然として何も変わっていないのではないか。

「文明とは退化のことなり。」

そんな言葉が空から谺しているような気がした。

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by k_hankichi | 2016-07-25 08:31 | 社会 | Trackback | Comments(2)

選択肢の多さ・・・当惑を通り越して

とある事柄の仕様を決めようとしている。あらかじめ考えていた様相に対して、相談をしていくと、選択肢が驚くほど多岐に渡ると知った。

個々のデザイン、色合い、模様、材質、厚み、表面仕上げ、耐候性など、無尽蔵かとおもえるほど。

これでは悩みが収まらない。いくらでも発散してゆく。

相手も困った顔をしているが、誘導しようとはしない。責任問題も絡むからだろう。

決めるのは僕。それは分かっている。でも迷う。判断基準が分からない

どれにしても良いようにも思う。しかしどれを選んでも後悔しそうにも思う。

日本という国は、どのようなものに対しても、ありとあらゆる選択肢を提供する。この潤沢と贅沢の氾濫のなかで、エニグマの渦に巻き込まれ、混練され、その行く末は自分でももはや収拾がつかなくなった。

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by k_hankichi | 2016-07-24 19:01 | 一般 | Trackback | Comments(2)

『ガセネッタ&シモネッタ』(米原万里)の諧謔

米原万里の著書を読むのはおそらく初めてかもしれない。『ガセネッタ&シモネッタ』(文春文庫)は諧謔に溢れていた。

ベルギーの観光地で明らかになった日本人の連れション癖。世界七不思議とされた。他国からの客は、わざわざ外出時にやたらオシッコしたがらないという。

年に一、二度、飛び上がるような特ダネの機密を耳にすることがあり、胸に秘めているのが辛くてたまらなくなるという。通訳料が高いのは口止め料も含まれているからに違いない、と纏める。

外国人が云わんとしていることを意訳して、「棚から牡丹餅」、「脛に傷をもつ身ですから」など表現すると、「「へぇ~、ロシアでも、『脛に傷持つ』なんて言うんですねえ」と感嘆され、却って恐縮する話。

普段は知らぬ通訳業界の話題に、苦笑いすることの連続。世知辛い毎日のなかち、一服の清涼剤を含んだ気がした。
 

ガセネッタ&(と)シモネッタ (文春文庫)

米原 万里 / 文藝春秋

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by k_hankichi | 2016-07-23 07:25 | | Trackback | Comments(0)

47年の実感

二―ル・アームストロングが月に降り立ったそのとき、僕らの時間は早朝だった(と思う)。あのとき、僕ら一家は父親の仕事の関係で、西東京(玉川上水が近くを流れていた)の地から千葉県の一番東京寄りの都市に移り住んだばかりで、だからその朝のことは鮮やかに覚えている。

夜のなかに起こされた。

「いまから人類が月に降りるんだ」

東京の時は白黒だったテレビが千葉ではカラーになっていて、買い替えたばかりのそのテレビの画面に食い入るように家族全員が観入っていた。

"That's one small step for (a) man, one giant leap for mankind."
「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である。」

という言葉が、あとから伝わってきて、それは自分が時代の大切な時とともにその一刻一刻の流れを味わった記憶として初めてだったかもしれない。

あれからずいぶん長い年月が過ぎ去ったと思うのだけれど、あれだけの深い記憶とともに刻まれたときは、それからどれほどあったのだろう。

そう思いながら記憶を辿っていくと、あとからあとから湧き出てくるようになってしまい、自分のなかの記憶の源というものの深さに、なんだか空恐ろしくなっていった。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/a6/Apollo_11_Landing_-_first_steps_on_the_moon.ogv

■Neil Armstrong One Small Step FIrst Walk on Moon →https://youtu.be/HCt1BwWE2gA

 
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by k_hankichi | 2016-07-22 20:06 | 街角・風物 | Trackback | Comments(0)


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