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しとしと雨の音に目覚める明け方

しとしとと雨垂れがする音に気づいて、目をしばしばさせていると、うっすらと明るみが射してくる。朝のその時間のながれが其ほどまでにゆっくりしていて、しんみりしていることを今更ながらに知る。

昨晩に読了した小説『また、同じ夢を見ていた』(住野よる、双葉社)の余韻が深まっていった。

読み終えたときには、何だ、これ?、訳分からん作品、という感じだったものが、時が経るにつれて意味を持つようになっていったのは不思議だった。

そしてこれが、孤高が過ぎての孤独の淋しさから、幸福とは何かについて考えることで、少しずつ救われて行く過程を示していたのだと気づいていった。

主人公が、経験したことは、夢のなかだけではない。彼女の心のなかや実際の友達たちや先生との対話をし小説を読み、それらの間を漂うにして、マンションのベランダから遥か彼方を観遣りながら空想してきたことなのだと思った。

人のことを思う。人のために考える。

そういうことだ。まだまだ出来ていない僕は、この主人公と同じだった。

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また、同じ夢を見ていた

住野 よる / 双葉社

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by k_hankichi | 2016-02-29 07:13 | | Trackback | Comments(3)

『『東京物語』と日本人』(小野俊太郎)に再びしみじみとする

『『東京物語』と日本人』(小野俊太郎、松柏社)は、粗いドンゴロス(麻布)でもって各章の表紙が描かれていて、紙面からも小津の世界が香ってくるものだった。

そしてその構成も、これまでの様々な評論と、ずいぶんと異なる。

はじめに 世界が認めたから偉いのか
第一章 尾道から上京する人々
第二章 東京で待つ人々
第三章 戦争の記憶と忘却
第四章 紀子はどこの墓に入るのか
第五章 『東京物語』の影の下で
おわりに 外に開くものとして
“この映画では鉄道をはじめとして「つなぐ」とか「渡る」というイメージが隅々まで効果的に働いているのだ。何よりも尾道の石灯籠の向こうで稼働する渡し船のようすから始まっていた。しかも象徴的に隅田川の向島ならぬ尾道の向島に渡るのである。そもそも渡し船は死者の国へと向かう乗り物である。日本では三途の川の渡し舟の船賃として死者に六文銭を持たせたし、ギリシア神話でも銅貨一枚で運ぶカロンの渡し船がある。とみの死のあとで、人がいない空っぽの桟橋が映し出されるのも、渡っていったあとの空虚さを表す。”(「第三章 戦争の記憶と忘却」より)
映画のみならず、あの時代に同じように生きていた人たちの来し方行く末までを描こうとした評論だった。また小津の作品を観たくなった。

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『東京物語』と日本人

小野 俊太郎 / 松柏社

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by k_hankichi | 2016-02-28 16:39 | | Trackback | Comments(2)

ブルッフにたゆたい安らぐ

ブルッフの交響曲を聴いている。この曲たちに身を埋めていると、自分が19世紀の半ばにいるのだという錯覚に陥る。

第1番は、シューマンが快活であったときのような音感と和声。そんななかでも、ブラームスさんこんばんは、と挨拶をしたかと思えば、ああ、もうすぐリヒャルト君(シュトラウス)が我々を訪れるころだなあ、と思ったりもする。

第2番は、ベートーヴェンの第9交響曲『合唱』の第1楽章のような旋律とリズムで始まる。しかし暫くすると、いやいや、これは第5番『運命』の感覚が混じっているじゃあないか、と思い始める。

第3番。だいたいにおいて、この始まりかたは何や~。という感じ。しかし第2楽章のアダージョは良い。安楽と弛緩の世界だ。

19世紀。北と南、西と東。あらゆる歴史の渦が逆巻くとき、それを知らぬかのように感性と情熱を高めるようにさせていた西洋音楽の幅広さと芯を味わう。

■曲目
ブルッフ:
・交響曲第1番変ホ長調Op.28
・交響曲第2番ヘ短調Op.36
・交響曲第3番ホ長調Op.51
・ロマンスOp.42
・アダージョ・アパッショナートOp.57
・イン・メモリアムOp.65
・コンツェルトシュテュックOp.84
■演奏:クルト・マズア指揮、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、サルヴァトーレ・アッカルド(ヴァイオリン:Op.42,57,65,84))
■収録:1978、83、87、88年、Neues Gewanthaus und Paul-Gerhardt-Kirche, Leipzig

■Max Bruch - Symphony No.2 in F-minor, Op.36 (1870) →https://youtu.be/RC99k6ePFaY

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Complete Symphonies

Philips

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by k_hankichi | 2016-02-27 19:16 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(5)

『文士の友情』を楽しむ

安岡章太郎といえば、僕の中高生時代によく寄った場所が舞台の『サアカスの馬』であり、先輩だと思うだけで親しみがあった。もちろん、つぶらな馬の目の描写も忘れられない。

それ以外の彼の作品を読んだ記憶が殆ど無いなか、ひょいと読み始めたエッセイは珠玉だった。『文士の友情』(新潮文庫)。

“吉行に限らず私たち第三の新人の中で、芥川賞をとって直ぐ飯の食えるようになった者は誰もいなかった。吉行には感覚的にすぐれた天分があり、文章に切れ味の良さがあった。しかし、その反面、小説の中で自分の感覚的な表現をいちいち説明せずにはいられないような、へんな用心深さがあって、それが逆に感覚の鋭さを損なう場合もある。つまり気を回し過ぎるのだ。”(「吉行淳之介の事」より)

良き理解者の友人を持つ幸せというものは、こんな感じに包んでくれている状態なのだなあ、と思った。

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文士の友情: 吉行淳之介の事など (新潮文庫)

安岡 章太郎 / 新潮社

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by k_hankichi | 2016-02-26 07:23 | | Trackback | Comments(0)

『偽詩人の世にも奇妙な栄光』の独白

独白小説と云えば、太宰治だと思っていたのだけれど、それが現代にもあるのだと思った。『偽詩人の世にも奇妙な栄光』(四元康祐、講談社)。
“一方では詩が書けぬことに苦しみ、苦い挫折を味わいながら、もう一方ではまさに詩が書けないというそのことによって、自らが真の詩人であることを知る。言葉を持たぬがゆえにこその詩人。そこに韜晦や欺瞞や自己憐憫はなかった。ただ純粋な詩への愛と、それゆえの痛みだけが溢れていた。そうして、誰がそれを否定できただろう。十七歳の少年の額には、たしかに刻印が打たれていたのだ。トニオ・クレーゲルが美しく快活な友人たちから自分を隔てる呪いとして自らに見出し、デミアンが罪人カインに喩えてジンクレール少年に語ったところのあの見紛うなき「額のしるし」が。後に彼の書く詩がすべて偽物であったとしても、このとき昭洋が詩人であったということだけは、紛れもない真実だった。”
こんなに主人公が語り続け、道化師のごとく蔑みながら、自己愛に満ちる小説は久しぶりで、しかしその世の中を透徹に見据える純粋さには、目が覚める思いがした。

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偽詩人の世にも奇妙な栄光

四元 康祐 / 講談社

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by k_hankichi | 2016-02-25 00:51 | | Trackback | Comments(4)

収斂してゆくだろうクライマックスに託したい一つの希求

今週のテレビドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ、月9)を観ていて、ストーリーが向かうところが何なのかを想像し始めた。→http://www.fujitv.co.jp/itsu_koi/index.html

杉原音(有村架純)と曽田練(高良健吾)は、それぞれが互いを思い合っているが、練には彼女がいるためにそれを諦めて叶えようとはしない。人の気持ちを非常に大切にしてしまう二人だからだ。

いっぽう、音を慕う別の男、伊吹朝陽(西島隆弘)には、実の父親から優しくされたいというもうひとつの願望がある。そういうことを諦めかけていた彼が、父親との親愛を回復するとき、その先にはおそらく新たな犠牲が生まれていくことが予感される。

このドラマは「叶えられない願望が叶えられそうになるとき、人は知らぬうちに別の犠牲をもたらす」、というものを伝えようとするものかな、と考えた。欲望と犠牲、という二律背反。

しかし翻って考えてみると、坂元裕二の脚本が、そのレベルで終わるはずがないのではないか、と思い始めた。

先週までは、6年前から2011年3月初旬までの話であったが、今週は2016年の主人公たちの姿になっている。

そして予感した。まだ描かれていない空白の5年間のなかに、ドラマの一番の主題がしまわれているのだ。

とすればそれは、「あの日」(STAP事件の「あの日ではない」)に、登場人物たちの願望と犠牲と挫折が始まり、今に続くということではなかろうか。

これから収斂されていくストーリーのなかに、一縷の希望が入っているか否は大切に思う。

それは、いま世界のあらゆるところに巣食っている、自己中心的なる欲望の拡大とその反面の犠牲や残虐が、いつか和らいでいってほしい、という希求にも繋がるからかもしれない。

■奇跡の一本松とは違う、僕の近所にある松だけれど、こんな心象である。
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by k_hankichi | 2016-02-24 08:06 | テレビ番組 | Trackback | Comments(4)

DDRから流れ来るバッハ

小説『革命前夜』のなかで、1989年当時の主人公が最良のマタイ受難曲だと言っていた音盤を聴いている。

当時の政治状況のなかで、一縷の儚き希望のようになっていたろう宗教と、その音楽にかける篤き想いが伝わってくる。共産主義からみれば宗教は不要なものとさえ思われていただろうだけに。

なかでもドレスデンの聖十字架合唱団で育て上げられたペーター・シュライアーの明朗快活なる声色は、いつかきっと素晴らしき世界が訪れるだろうという希求に満ちる。

テオ・アダムの歌声も、それは美しく、ワーグナーだとかシューベルトだけではなくて、バッハのためにも相応しいのだと思った。

いまやDDRという国の名前さえ忘れ去られようとしている。キリストだけでなく、薄氷を踏むように真摯に丁寧に歌い奏でた時代までもが甦る名演だと思った。

■演奏
ルドルフ・マウエルスベルガー指揮、ライプツィヒケヴアントハウス管弦楽団
ライプツィヒ聖トーマス教会合唱団(指揮:エルハルト・マウエルスベルガー)
ドレスデン聖十字架教会合唱団(指揮:ルドルフ・マウエルスベルガー)
イエス:テオ・アダム
福音史家:ペーター・シュライアー
ぺテロ:ジークフリート・フォーゲル
アルト:アンネリース・ブルマイスター
ソプラノ:アデーレ・シュトルテ
■収録:1970年1〜2月、ルカ教会、ドレスデン。
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■Bach Matthäus-Passion Thomanerchor-Kreuzchor →https://youtu.be/1oO7hY2J7vY

バッハ:マタイ受難曲

ジークフリート・フォーゲル(B) / 日本コロムビア

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by k_hankichi | 2016-02-23 08:02 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(2)

知らなかったメンデルスゾーンのその後

録画してあった『ららら♪クラシック』はを観たら、それはメンデルスゾーンの特集だった。ヴァイオリン協奏曲の成り立ちが、いかなるものだったのかが主軸だ。

僕にとってのこの作曲家の位置づけは、この曲ということではなくて、バッハのマタイ受難曲を復活させる大仕事をしてくれたということに尽きる。それも若輩の20歳で。いくら頭を下げても下げきれない。

番組ではこのことについては触れられず、ちょっと哀しい気持ちがしたが、順風満帆に思われている彼の人生の紆余曲折の、別の片鱗に少し触れてくれて、それは良かった。

さてメンデルスゾーン。Wikipediaで繰ってみると次のように書かれている。生前の活躍とは裏腹に、死後は、かの国で、思想と政治がまぜこぜになった世界のなかで、すさまじいシュトルムウントドラングのなかに巻き込まれていた様相を初めて知った。

・1823年(14歳) 大バッハの「マタイ受難曲」の写筆スコアを母方の祖母よりクリスマス・プレゼントとして贈られる。
・1825年(16歳) 父と共にパリに行き、パリ音楽院の院長ケルビーニや、フンメル、モシェレス、ロッシーニ、マイヤベーヤの知遇を得る。
・1826年(17歳) シェイクスピアの戯曲を題材とした『夏の夜の夢』序曲を作曲。
・1829年(20歳) 3月11日、自らの監督により、「マタイ受難曲」の公開演奏を作曲者の死後初めて行う。会場はベルリン・ジングアカデミーのホールで、メンデルスゾーンはピアノで通奏低音を担当しながら指揮した。この日は、パガニーニのベルリンでの初リサイタルと重なっていたが、会場には入りきれない人が千人も出たと言う。公演は大成功で、更に10日後の3月21日(バッハの誕生日)に第2回の演奏会を行った。作品の素晴らしさを印象づける事を意図した為に大胆な削除も行い、テンポや強弱の変化を駆使している。演奏会場には、ベートーヴェンが第9交響曲を献呈した国王フリードリヒ・ヴィルヘルム3世や哲学者ヘーゲル、思想家フリードリヒ・シュライアマハー、詩人ハイネ等がいた。
・1835年(26歳) ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者となる。
・1843年(34歳) 自ら奔走して設立資金を集め、ライプツィヒ音楽院を開校し、院長となる。作曲とピアノの教授にはロベルト・シューマンが招聘された。
・1847年(38歳) 5月訪英の途上、姉ファニーの死の報に接し、悲嘆の余り神経障害を起こす。一時回復したが、11月3日には意識を失い、翌日ライプツィヒにて没した。
(中略)
・1850年 ワーグナー著の論文「音楽におけるユダヤ性」で芸術性を否定される。
・1892年 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス前にメンデルスゾーン記念像が建造される。
・1933年11月 ナチス・ドイツにより、ユダヤ人作曲家の音楽の公演をすべて禁止する指令が発布される(しかしその後もしばしばメンデルスゾーンの音楽は演奏されており、1935年にはベルリンでヴァイオリン協奏曲ホ短調が録音されている)。
・1936年末 ライプツィヒ市長カール・ゲルデラーがフィンランド出張中に、ナチスの将校がゲヴァントハウス前のメンデルスゾーンの銅像を引き降ろし、スクラップにするよう命令を下した。ライプツィヒへ戻ったゲルデラーは抗議の後銅像再建を進め、翌年3月ライプツィヒ市長職を辞職。
 
■ライプツィヒ、ゲヴァントハウスのメンデルスゾーン像 1900年撮影 (1936年撤去) →https://de.wikipedia.org/wiki/Felix_Mendelssohn_Bartholdy#/media/File:Mendelssohn-Denkmal-Leipzig_Kohut-1-S41.jpg
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■2008年に再建されたライプツィヒ、聖トーマス教会近くのメンデルスゾーン記念碑 →https://de.wikipedia.org/wiki/Felix_Mendelssohn_Bartholdy#/media/File:Felix_Mendelssohn_Bartholdy_Denkmal_Leipzig_2011.jpg
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by k_hankichi | 2016-02-22 00:24 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(4)

バッハのカンタータBWV106のソナティーナの静けさ

件の『革命前夜』のなかで、二度出てくる音楽が、バッハのカンタータ「神の時こそ、いと良き時」BWV106のなかの ソナティーナだ。この曲のことは全く知らなかったのだけれど、聴いているうちに、どうしてこれを登場させたのかということが少しづつ分かってきた。

小説の中では、次のように書かれている。
“葬送用に作曲されたカンタータである。ソナティーナは、合唱の前に置かれる器楽のみのシンフォニアで、三分にも満たない素朴な曲だ。バッハが二十二歳の時に生み出したこの曲には、死の悲しみの彼方を見つめているような、不思議に明るい響きがある。ああ、バッハだ。音を吸い込むように、僕は目を閉じ、深く呼吸をした。どんな時も寄り添い、応えてくれる音。命そのもの。二十二歳といえば、僕のひとつ下。この歳にして、どうしてこれほどの透徹した死生観をもっていたのか。素朴で、心を打つ響きは、今なお多くの者を魅了する。”(「第1章 銀の音」から)
東と西に分かれて仲たがいをしなければならなかったドイツの悲劇。バッハの時代から、神の啓示を伝えるべく宗教の伝道に真摯に取り組んできた彼の地が、猜疑心と裏切りを繰り返す場所に変わってしまった。ここにも二度と繰り返してはならないことがある。

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■J.S.Bach/G.Kurtág - Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit performed by DUO Stephanie and Saar →https://youtu.be/0wOlGJFkqic

■Johann Sebastian Bach - Cantata BWV 106 - Actus Tragicus - Sonatina →https://youtu.be/Zz8OrAdNTfY

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by k_hankichi | 2016-02-21 08:04 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(2)

東ドイツの栄光と陰影の狭間の音楽と恋

これまた凄く濃厚な小説を読了。『革命前夜』(須賀しのぶ、文藝春秋)。第18回大藪春彦賞を受賞した作品。

時代は1989年。東ドイツのドレスデンの音楽学校でピアノを学ぶ日本人留学生の眞山柊史(マヤマ・シュウジ)。彼の前に、ハンガリーから来ている天才ヴァイオリニストのラカトシュ・ヴェンツェルが立ちすくむ。彼らはひょんなことからデュオを組むが、天性の音楽観でもって変幻自在に演奏するラカトシュと組むことでシュウジのピアノは思いもかけない輝きを増すことに、彼は我ながら驚きを隠せない。

しかしソロ演奏となると別だ。北朝鮮からのリ・ヨンチョル、ベトナムからのスレイニェットたちのピアノは、それぞれの生い立ちを背負った個性に輝く。シュウジは自分のピアノがいかに精密機械のようなものだったのかを知る。

そんな彼の前に天から舞い降りたかのように現れたのは、美貌のオルガニスト、クリスタ・テートゲス。バッハやラインベルガーのオルガン曲を奏でる。シュウジは彼女を追い求めて街をさ迷い歩き始める。

舞台は、ドレスデンからライプツィヒへ、そして西の世界のミュンヘンやベルリンに移り変わり、東と西の世界が対比される。

東ドイツの栄光が、自由への勢力のもとに崩れ去ろうとしている革命前夜の、若き男女たちの篤き血潮に溢れた音楽と恋が、繰り広げられていく。

須賀しのぶという人の作品を初めて読んだのだけれど、彼女のクラシック音楽への造詣の深さに深く頭を垂れたとともに、そこに出てくる音楽の数々を、深く静かに聴き入りたいと思った。

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革命前夜

須賀 しのぶ / 文藝春秋

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by k_hankichi | 2016-02-20 20:51 | | Trackback | Comments(3)


音楽、小説、そして酒を愛する方々との空間です


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