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『追想五断章』(米澤穂信)東海から信州まで

掛川で一人暮らしの母親が、息子の一人暮らしを心配する。息子は休学している大学に復学すべく、古本屋でアルバイトをする。そんなところに舞い込んだ、ある古書を探してほしいという依頼。

依頼者は、信州・松本に住む女性。父親が生前書き残した5つの短編小説が、さまざまな雑誌に残っているはずだという。

ルーマニアのブラショフという町の、神に祝福された娘の話。
インドのジャーンスィーという街に伝わる、転生や約束された地の話。
中国、四川の街で聞いた、自分の命と妻の命のどちらを大事にしたかという男の話。
南米・ボリビアのポトシという街で、妻子を救ったのかどうかがの謎が秘められた隧道の話。
スウェーデンのボーロダーレンに近い街で見つかった、雪の中で死んだ女の話。

それぞれが、摩訶不思議で、しかしそれは、「アントワープの銃声」という疑惑の話に繋がっているという。

どういう謎が隠されているのだ、と考え考え読んでいき、さいごまで来た瞬間、最初に設けられていた事柄がどんでん返しのように繋がることが分かった。

『追想五断章』(米澤穂信、集英社文庫)は、まるで真夏日のような熱い日のなかに、一服の清涼剤を呑むかのような、ぞわぞわとした気持ちをもたらした。

追想五断章 (集英社文庫)

米澤 穂信 / 集英社

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by k_hankichi | 2014-05-31 15:19 | | Trackback | Comments(2)

苦手から好きになった女優『ジャッジ!』

帰国便の機中で、何の期待も抱かずに映画『ジャッジ!』を観た。監督:永井聡、主演:妻夫木聡、北川景子,2014年、配給:松竹。コメディドラマだ。
http://judge-movie.com/

結果は…号泣してしまった。堂々A+だった(僕として)。

テレビCMの世界一を競うサンタモニカ広告祭に、電通マン・太田喜一郎(妻夫木聡演じる)は審査員として、また同僚の太田ひかり(北川景子演じる)はその妻を偽装して参加する。ひかりは喜一郎を嫌っているが、苗字が同じことをいいことにそうなってしまったのだ。

コンペティションのなかでは、審査員たちが互いに駆け引きを繰り広げる。

喜一郎は、受賞のための裏工作に始めは走るものの、若かったときに抱いた夢を思いだし、その気持ちが審査員や委員長にまでも伝わってゆく。世界一の広告を公平公正に決めよう、という願いが通じる。

コメディなのに、何度も何度も涙が溢れた。フライトアテンダントの方々の視線を避けながら、手の甲や指先て拭いさる。

北川景子という女優は不思議な魅力があるということを初めて実感した。なんとなく高慢ちきに見えて、これまで苦手に感じてあまり観ることがなかったのだけれど、最後にはすっかりファンになっていた。

■映画トレイラー →http://youtu.be/eBkpTrQuGD0

  

ジャッジ! [DVD]

松竹

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by k_hankichi | 2014-05-30 01:05 | 映画 | Trackback | Comments(0)

だれもが劇場で饒舌に生きているようなの国

ヨーロッパでは、そのように感じないものが、ここにいて訪ねる先ごとに感じるのは、「ここはだれもが劇場にいる」というようなことだ。空港、ホテル、レストラン、会社、廊下、どんなところでも。

プロフェッショナルな人、ワーカー、ハウスキーピング、掃除の男、路上で金を請う人、テレビのインタビュア、プロテストする人々・・・・。みな尤もらしい。苦虫を噛み潰すように要求を言ってくる人、世界を股に掛けてセールスしている人、極めてゆっくりと道を歩く人(過激に体重がある)、コマーシャルの語り。

極め付きは、やはりテレビの天気予報だ。低気圧が西海岸遠方からやって来て、ベイエリアを通過し、風がこんなに強まり、あっちは曇り時々晴れ、その南側は少し雨がぱらつく、などを、必要以上に饒舌で、大きな身振りと言葉の抑揚で畳み掛ける。

なるほど~!と関心しているうちはまだよい。これが毎時、あるいは連日だと、次第に疲れてくる。その力の入れようは何なのだ、本当にそんなに激情があるんか!と、問いただしたくなる。頭が馴れないのは時差ボケだけではなく、こういうことが重なるからかもしれない。

今朝は、必要以上に騒がしい鳥の鳴き声で目覚めてしまった。
「チッチーロ・リロリロ・チロリロリロ・リロリロリー」
「チッチーロ・リロリロ・リロチロリロ・チロリロリロリー」

何という名前の鳥だろう。饒舌すぎる囀りだ。ホトトギスのぶっきらぼうさをこいつに聴かせたい。

控えめで、静かで、しかし丁寧な東の国が懐かしくなる。たとえそれが少しずつ変容しつつあるとしても。
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by k_hankichi | 2014-05-29 00:12 | 街角・風物 | Trackback | Comments(2)

シリコンヴァレーの光と影

昨夕からカリフォルニアのシリコンヴァレーに来ている。以前と比べて訪れる頻度は減ったが、来る度に変貌している。底知れぬエネルギーの量塊がこの土地の地下や人々の胸に渦巻いているものを感じる。飽くなき欲望、のような、回遊マグロのような。

夕暮れの街並みは、遠くの山々が橙色に輝き、そこが西部の砂漠だったことを思いださせるが、朝の同じ街並みは何者かに追い立てられるかのように前のめりを続ける様相に変わっていて、狐につままれる、とはこういうことかと唖然とする。

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by k_hankichi | 2014-05-28 00:20 | 街角・風物 | Trackback | Comments(2)

九段の界隈を待ちわび疲れた愛の小説『めぐり糸』(青山七恵)

海を越えて出張に出かけるその待ち時間に読み続けた。飛行機を待ちながら、そしてその小説の舞台が乱舞することを待ちわびた。そして振られてしまった。千鳥ヶ淵のボート乗り場で言い渡されるのであれば、まだ明快なのに、曖昧模糊とした状態で、遠くに離れていった。『めぐり糸』(青山七恵、集英社)である。

宣伝にはこんなことが書いてある。

”終戦の年に生まれた<わたし>は、九段の花街で育った。家は置屋から芸者を呼ぶ料亭「八重」であり、母は評判の芸者で、祖母がその雇い主をつとめていた。客として訪れた父は母と知り合い、わたしが生まれた。小学二年生のとき、わたしは置屋「鶴ノ家」に住む子・哲治と出会う。それは、不可思議な運命の糸が織りなす長い物語の始まりだった---。”

そして小説の出だし。

”あの千鳥ヶ淵・・・・わたしの家があったのはそのすぐそば、今の地下鉄九段下駅を出て、左手に千鳥ヶ淵を通り越し坂を登りきったあたり、靖国神社のちょうど南側の一画でした。わたくしが子どもだった頃、あのあたりは三業地でした。”

え?なになに?僕らが部活で走り回ったあのあたりのことじゃあないか。

主人公の女の子は、小学校に通い(どうみても富士見小学校だ)、中学に上がり(これもフィリピン大使館の横の学校だったはずだ)、そして高校に入る(これも、勿論われわれの)。その生々しい光景は、いつくるのだろうか。

そういう期待とともに、読み切った。果てなき愛の、それもまとわりつくような粘性と渇きが交錯した、そういう小説だった。
  

めぐり糸

青山 七恵 / 集英社

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by k_hankichi | 2014-05-27 00:03 | | Trackback | Comments(4)

『まんがでわかる7つの習慣』にハッとする

スティーヴン・R・コヴィーの『7つの習慣』は、日本版が出たときすぐに読んで、皆に薦めた。以来、何回かは読んでいたけれども、最近は咀嚼しつくしたことにして、読み返すことなど全くしていなかった。だからこの本が店頭に並んでいても、今更だよなあ、マンガで真剣になるのものなあ、とタカを括って遠巻きにしていた。

しかし話題になっている。やっぱり読んでおこう、と中身も見ずに買い求め、期待せぬまま寝酒さながらの寝マンガで繰っていった。『まんがでわかる7つの習慣』(小山鹿梨子、宝島社)

ほほーっつとため息が出た。これはおススメである。ストーリーが良くできている。まんが家の絵も綺麗だ。

バー・セブンという店に修行に入った中田歩(あゆむ)という若い女性が主人公。亡くなった父親の職業とおなじ道に進みたいと考えている。バーの店主・正木や、イタリアンレストランを経営する八神が客として、そしてメンターとして、彼女のことばに耳を傾け、アドバイスをしてゆく。

人生に悩む一条、二宮、三村、四倉、そして迷子の五十嵐が登場し、彼らとの対話を通じて歩は、ひとつひとつ気づいていく。音楽プロデューサーの六波羅も悩む男だ。女子高生の六本木、六車の助けで彼も救われる。

「なりたい自分」を目指すアラフォーOLの七尾が気づいたこと。それは少しづつでもよいから、見せかけではなく内面を磨いていくこと。彼女は肩肘張っていた姿から解かれていく。

そしてまた精神、肉体、知性、社会・情緒をバランスよく磨く(第7の習慣)ということは、それだけではいけない。周囲に働きかけ世の中に対して自らを役立てながら(そして第1の習慣から第6の習慣をつけて)、進めていく。まさにアンガージュマンだ。

「刃を研ぐ」(第7の習慣)は、自分に対しておこなうことだけでは何の意味もない。そういうことに、改めて気づかされた。

※第1の習慣: 主体的である。
第2の習慣: 終わりを思い描くことから始める。
第3の習慣: 最優先事項を優先する。
第4の習慣: Win-winを優先する。
第5の習慣: まず理解に徹し、そして理解される。
第6の習慣: シナジーを創り出す。
第7の習慣: 刃を研ぐ(自分自身を磨く)。
第8の習慣: 自分の心の声を発見する。

まんがでわかる 7つの習慣

宝島社

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by k_hankichi | 2014-05-26 00:10 | | Trackback | Comments(0)

ピカソの版画・・・『貧しき食事』の力強さ

家からそれほど遠くはない、閑静な住宅地と森の合間で、今朝は版画を眺めてきた。町田市立国際版画美術館。『パブロ・ピカソ  ―版画の線とフォルム― 展』。→http://hanga-museum.jp/exhibition/index/2014-233

胸を打ったのは、最初に陳列してある『貧しき食事』(1904 年、銅版画、池田 20 世紀美術館蔵)だった。コココの左上→ http://hanga-museum.jp/static/files/picasso_collection2014.pdf

青の時代のその作品は、一切れのパンとワインだけを分け合い食べようとする男と女が描かれる。男には眼差しがなく、自分の右の遠くを向いている。女はうつ向き加減に、左ひじを右の掌で支え、その左の手の甲で顎を支えている。とても窮屈な姿勢だ。

これっぽっちしか食べるものがないのね・・・、こんなんでよくやっていけるわ、でも、仕方がないわね・・・。と、ちょっと口角を上げて、開き直るかのような表情だ。

貧しくとも、ひもじくとも、これっきりしかなくとも、生きていかないといけない、というどん底のヤケクソの気持ちが聞こえてくる。

キュビズムに移った作品、フランコ政権への反発を描いた作品、詩の挿絵など、さまざまなものがあったなかで、この作品の事だけが頭から離れない。

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by k_hankichi | 2014-05-25 14:16 | 美術 | Trackback | Comments(4)

『詩への旅 詩からの旅』(辻邦生)

今朝は病院の待合室で本を読んでいた。『詩への旅 詩からの旅』(辻邦生、筑摩書房)。他にすることがない制約されたこういう場所のほうが読書がはかどる。

パリでの滞在記の篇から、魂の遡及記のようなリューベックを訪れた際の短篇に移った。北杜夫と共にゆく旅だ。

「狭い、煤けた、いかにも奇妙に懐しい構内に列車が進み入った時、曇った午後はもう夕暮れになりかけていた。汚ならしいガラス屋根の下には、まだ相変わらず煤煙がもくもくと丸まったり、きれぎれに棚引いてゆらゆら動いたりしていた」

という『トニオ・クレエゲル』の一節に対比して、辻たちが訪れたときのことが書かれていた。ぼくもあの灰色と乳白色が混じったあの街の空を思い出した。

それから、1968年の基督降誕祭(クリスマス)のときに辻が読んでいた雑誌のことがしるされていた。

クリスチーヌ・ド・リヴォワールという作家が書いた記事についてである。彼女のクリスマスの記憶は、静寂しかないという。それはフランスの聖心女学院に在学していた幼いころのことだった。

九日間というもの、女の子たちは黙りこくって行列をつくり、聖母マリアの左足下に置いてある一つの籠のなかからジャガイモをとり、右足の下に置いてある空の籠にそれを移していくという。そしてそれを黙ったまま遣り通したら、そのジャガイモは貧乏でひもじい子供たちに贈られるのだという。

彼女にとって、クリスマスまでの九日間は「責任」という意識を沈黙のなか重く刻む期間だった。

僕の心に、このことは深く刺さった。ミッションスクールに通っていた友達のことを思いだし、彼らにとってのクリスマスというのはそういうものだったのか、と心に沁みた。

詩への旅詩からの旅 (1974年)

辻 邦生 / 筑摩書房

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by k_hankichi | 2014-05-24 14:28 | | Trackback | Comments(5)

泥(虫)のように眠る

出張先から帰宅した。新幹線で眠りに眠りあっという間に東京に着き、私鉄に乗り換えても席につくなり眠っていて危うく乗り過ごすところ。

夜も眠った。泥のように眠った。横になったときと目覚めたときの形は違わないだろう。弛みの無い泥だ。

しかし、人間が泥って何だろう。気になって調べたら中国の喩えだと分かった。

「泥(デイ)は中国の空想上の虫のこと。南の海中に住み、身体には骨がなく、陸に上がると酔っぱらって泥土のようになる。」

おお、俺は空想上の虫だったか。麒麟の友達か。

朝から万里の長城の空を超え、バイカル湖を渡り、ウラル山脈まで見渡す西の国の空に浮かんでいるような感覚に陥った。

しかし勘違いだ。飛べるはずはない。俺は海のなかの虫なのだ。
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by k_hankichi | 2014-05-23 07:26 | 夢物語 | Trackback | Comments(4)

安全ベルト

「安全ベルト?」

先週、出張のときに、タクシーに乗り込んだとき、同乗した人に「安全ベルト締めなきゃね」と言ったところでそういう反応だ。

えっ?違うの?

と訊いたら、さっきの車に乗っていたときもそう言っていたでしょ、普通シートベルトって言いますよ、と指摘されてしまった。

そういえばそうである。確かにシートベルトだ。しかし僕としては身体を安全に守るものであり、それがシートベルトではなんだか効き目が薄そうに感じる。

安全にするための安全ベルト。どうしてもそう呼んでしまう。拙宅ではいつもそう言っているし家人たちもその言葉に慣れている。

だからびっくりした。こりゃ他にも、普通と違う言い方をしている言葉があるかもしれない。

なんだかとても不安になっている朝だ。
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by k_hankichi | 2014-05-22 07:46 | 街角・風物 | Trackback | Comments(3)


音楽、小説、そして酒を愛する方々との空間です


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