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いずれの品もそれぞれに・・・芦屋、なんといっても芦屋・・・『ゴッホのひまわり全点謎解きの旅』

映画『ローマの休日』の最後の会見の場で、アン王女は、「これまで訪問された街のなかで、どこが一番楽しい思い出であられますか?」と報道関係者から質問を受ける。これに対して、アンは次のように答える。

'Each in its own way was...unforgettable. It would be difficult to....Rome; by all means, Rome. I will cherish my visit here, in memory, as long as I live.'

この映画ファンであれば、それぞれの生活や仕事のなかの場面のなかで、ああ今このことをヘップバーンの台詞のRomeと置き換えて使いたいぞ、という時があるのではないかと思う。少なくとも、僕はたくさんの場で、この台詞のことを思った。そして一度ならずも二度、仕事の中でこの台詞を語り(それも外国で、Romeをほかの言葉に置き換えて)、会議がしばらく空白で包み込まれ、おそらく呆れられた(感銘されたのではない)こともあった。

「しまった、やっぱり皆は『ローマの休日』を観ていなかったのか? どうして?なぜ?」、と思ってもあとの祭りで、会議後に、どちらの場でも一人二人の年配の女性がそっと寄ってきて、「あれはGoodね!」とウインク付きで囁かれて、ちょっとたじろくことばかりだった。

そして『ゴッホのひまわり全点謎解きの旅』(朽木ゆり子、集英社新書)である。友人から教えてもらって楽しく読んだ。一番僕の心をとらえたのが、「芦屋のひまわり」という作品だった。

ゴッホによる「ひまわり」は全部で11点あったということなのだが、それぞれの絵の背景は山吹色や橙、薄緑色、薄群青色のいずれかで塗りつぶされた構成である。ところが、この「芦屋のひまわり」の背景色は、どす黒い群青色なのだ。

なかに描かれたひまわりの花は6輪。満開のものから、焦げ茶色に朽ち果てたものまで多種多様である。朽ちているものは、へしゃげて折れて机の上で横たえられている。特にこの横たわって無残にも変わり果てたありさまは痛々しい。まるで、人生の最盛期から死に至るまでの時間を一気に凝縮してあらわそうとしたかのような趣きだ。

損保ジャパン東郷青児美術館で僕たちが観る「ひまわり」の、明るくしかしどこか漠とした曖昧さが混じった絵とは大きく異なる。芦屋の一点は人生の栄枯盛衰を一気に凝縮したかのようなものなのだ。いったいどうして、ゴッホはこれだけを、このような有様にしてしまったのだろうか。その説明は本のなかにはあまり書かれていない。戦前に武者小路実篤の紹介で関西の実業家が購入したとあり、その顛末が主である。

僕はこの作品のことだけが頭から離れない。背景色はゴッホによる「星月夜」のそれに似ている。花は老いて星になり天に昇るかのごとくに不思議なる引力と魔力を持つ。さらに、この作品だけはもう現存していないという事実にも、ただただ溜め息をつく。第二次世界大戦での空襲で焼失しているのだ。しかも終戦のわずか9日前(8月6日)にである。だから最早、世の中のだれひとりこの絵の実物を観ることができない。

僕は、次のように念じる。

'Each in its own way was...unforgettable. It would be difficult to....Sunflowers in Ashiya; by all means, Sunflowers in Ashiya. I will cherish my seeing that, in memory, as long as I live.'

■芦屋のひまわり
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From: http://en.wikipedia.org/wiki/File:Six_Sunflowers_1888.jpg

ゴッホのひまわり 全点謎解きの旅 (集英社新書)

朽木 ゆり子 / 集英社

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by k_hankichi | 2014-03-31 00:15 | | Trackback | Comments(3)

桜のなかの美術館巡り

昨日は、桜をそこかしこで愛でる人々を横目に、美術館巡り。

始めは六本木の森アーツセンター・ギャラリーの「ラファエル前派展」。英国ヴィクトリア朝絵画の夢という副題がつく。テート美術館からの逸品の数々に気持ちが静かになる。→http://prb2014.jp/

一番の感銘は、やはりダンテ・ガブリエル・ロセッティの「ベアタ・ベアトリクス」だった。夢と眩暈が交錯するかのような絵は、彼の画のモデルを務めそして妻となったエリザベス・シダルを偲ぶ作品だということを、不勉強ゆえに初めて知った。彼女は女児を死産したあと、阿片に溺れその中毒で亡くなってしまったが、その理由には、ロセッティがジェーン・バーデン(ウィリアム・モリスと結婚)という女性に惹かれたことも一因だったということも知る。

そのジェーン・バーデンの写真も展示してある。まさに、僕らが親しんできたロセッティの世界にある女性のなかで目立って美しい像そのもので、実在の人をモデルにしていた、ということに改めて驚いた。有名な「プロセルピナ」もその一つ。こんなに芸術品のように美しい人に出会ってしまったら、どんな男もすべての魂を吸い取られて、骨抜きになってしまう。

ジョン・エヴァレット・ミレイの「オフェーリア」も、実物を見て深く吐息をついた。僕にとっての「ハムレット」は、ローレンスオリビエが監督・主演のあの映画であり、オフェーリアもジーン・シモンズの姿が深く刻まれているのだけれど、ミレイの絵のなかのその人は、さらに純粋無垢さを加え、水路の両脇に映える草花の美しさが哀しさをさらに煽る。

ウィリアム・ダイスの「ペグウェル・ベイ、ケント州 -1858年10月5日の思い出-」の、遠き水平線の間際の夕暮れの色の美しさにも息を呑んだ。この英国の海岸をいつかかならずこの目で見てみたいと思った。もちろん、ウイスキーのディスティラーを訪問することも忘れずにだ。

このテート美術館の数々の収蔵品を基にした展覧会は、とても丁寧に構成されていて、嫌味を感じるところがなく、英国の気品と控えめなる美意識というものを味わったひとときだった。

さて六本木ヒルズでは、もうひとつ展覧会がかかている。森美術館の「アンディー・ウォーホール展」だ。来たついでに立ち寄って、この中身を観た。彼のエキセントリックな才能の量塊が、これでもかこれでもかと陳列されている。ファンにはたまらないものだろう。しかし18世紀の英国美術の素晴らしさが浸透しきった僕の心は、微動だに動くことはなかった。

最後は、中目黒だ。目黒川の桜を楽しみながら、人波をかき分けかき分けていくうちに、いきなり目の前に現れたのが「郷さくら美術館」。予期せぬ出会いだった。訪れようとして訪れたのではなく、たまたまそこが現れたのだ。2012年にオープンしたそうで、それに先駆けて2006年に福島の郡山に本館がオープンしている。みちのくのこの地には僕も最近よく行き来しているから、強い縁が僕をそこに呼び寄せたのだろうか。→http://satosakura.jp/collection.html

全館が桜にまつわる日本画ばかりという非常に変わった美術館だった。収蔵品展「“現代日本画の魅力”春」が掛かっている。展示されている点数はそれほどは多くないのだけれど、外の桜の世界とはまた別の、さまざまなる日本の桜の世界だ。特に、中島千波という画家の「春夜三春の瀧桜」(1998年)は、夜桜の幽玄さを大胆な構図のなかに描いた秀逸なもの。佐藤晨という人の「宵桜」(2008年)も壮大で良い。夜の桜は、僕はもともと好きなのだけれど、これでますます惚れてしまった。

このほかに良かった若手の作品は、北川安希子の「流転-桜」(2013年)。水面に反射して揺れる桜の花びらや枝葉の余韻が、しずこころなく花の散るらん、である。そして清見佳奈子の「揺れる花」(2013年)。不安なる繊細な心が桜の花びらに同期するような感覚が伝わってくるようで良い。

絵画と花めぐりで歩き疲れた身体を休めるのは「光明泉」。3月7日にリニューアルしたばかりというこの銭湯は、露天風呂も備わっていて、まさに春の日のご褒美のようなひとときだった。

■Dante Gabriel Rossetti - Beata Beatrix (1863)
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From:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Dante_Gabriel_Rossetti_-_Beata_Beatrix,_1864-1870.jpg

■Dante Gabriel Rossetti - Proserpina(1874)
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From:http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/6d/Proserpina.jpg

■John Everett Millais - Ophelia (1852)
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From:http://en.wikipedia.org/wiki/Ophelia_(painting)

■William Dyce - Pegwell Bay, Kent – a Recollection of October 5th 1858 (1560)
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From:http://en.wikipedia.org/wiki/Pegwell_Bay,_Kent_%E2%80%93_a_Recollection_of_October_5th_1858

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by k_hankichi | 2014-03-30 06:29 | 美術 | Trackback | Comments(3)

フォーレのチェロ曲のように・・・『彼が通る不思議なコースを私も』(白石一文)

この小説を読み終えたあと、フォーレのあのチェロ曲が聴こえてきたような気がした。「夢のあとに」だった。

『彼が通る不思議なコースを私も』(白石一文、集英社)は、この年初に発売されていたのだけれど、それを知ったのはつい今週で、手に入れたとたんにすぐに読み切ってしまった。そぞろ爽快な気分を禁じ得ない。

白石の小説は、いつも唸らされてしまう。そしてそれは毎回が異なる趣向なのだ。

次のようなことばがこの小説の集大成だ。

“彼はそう言い、
「キリコさんは、人間が生き延びるために一番必要なことって何だと思う」
と訊いてきたのだった。
「やっぱり、夢とか希望なんじゃないですか」
(中略)
「そういうときに生き延びる唯一の道はさ、生きる気持ちなんだ」
(中略)
「そうじゃないよ。生きる気持ちを維持するために必要なのは夢や希望なんかじゃないんだ」
「じゃあ・・・」
「自分が好きだってことなんだよ。他の誰でもない、とにかく自分自身が大好きで、超愛してるって思えることだよ。」”

自分の存在に不安を感じていたり、生きる意味を見失いそうになっている人にとっての、福音書のような小説だと思った。

■フォーレ「夢のあとに」・・・おっそろしく美しいヴァイオリンで →http://youtu.be/64eM3cFho54


彼が通る不思議なコースを私も

白石 一文 / 集英社

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by k_hankichi | 2014-03-29 08:13 | | Trackback | Comments(3)

略歴に自分を重ねる・・・『半自叙伝』(古井由吉)

古井由吉の小説を大学時代の後半によく親しんだ。その後はほとんど接してこなかったのだけれど、店頭で惹かれるものがあって買い求め、一気に読んだ。『半自叙伝』(古井由吉、河出書房新社)。エッセイである。

生い立ちや育った場所、暮らした場所を辿っていくと、なんだか、自分の友人や知人が暮らした、あるいは暮らしているようなところがたくさん出てきて、それだけで、今更ながらに親近感が一段とわいてしまった。

「初めに赴任したのが石川県の金沢市、そこで三年暮らして、世帯持ちとなり東京へ戻って住んだのが、当時の北多摩郡上保谷。上の子の満一歳を迎える頃に越したのが世田谷区上用賀、そこで早、現在に至るである。」(「もう半分だけ」より)

僕は金沢という街の素晴らしさを、かつてそこに住んでいた友人からたくさん聞き、まるで行ったことがあるかのような気持ちになっているくらいであるし、北多摩郡上保谷というところは僕自身が生まれた場所である。そして世田谷の用賀はこれまた僕の別の友人が住んでいるところにほど近く、近所の公園で作家本人を見かけたことがあると、言っていたことも思い出した。

「書きながらまたこんなことを考えた。自分の性向はどうやら短いほうの作品にあるようだが、さりとて短篇というものに固執する了見もない。短篇の手際といわれる、物を決める目は、実際の人間関係の中に置いて想像すると、好きなものではない。物の実相が見えているようでも、実際には我意の強さを人に困惑され、いたわられ、そのことに当人はいよいよ気がつかない、とたいていはそのようなものだ。それにまた、この自分が短篇を書くことに淫すれば、おそらく表現に関して、守銭奴のごとくになりかねない。言葉において吝嗇に吝嗇を重ねて、出来上がるのは珠玉か何か知らないけれど、そのストイシズムを自身で検閲する目は、夜中にひとり札を数えて笑うのに似て、しょせん性根は卑しい。」(「やや鬱のころ」より)

なんという怜悧なる自己分析力なのか。この小説家の作品を、再び読み返してみたい。

半自叙伝

古井 由吉 / 河出書房新社

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by k_hankichi | 2014-03-28 00:13 | | Trackback | Comments(2)

詩人の艶・・・『日本の鶯 堀口大學聞書き』(関容子)

ブログ知人から教えていただいて、さっそく買い求めて読了。『日本の鶯 堀口大學聞書き』(関容子、岩波現代文庫)。

雑誌『短歌』(角川書店)に連載した「堀口大學聞書き」に、詩人を訪れた際のさまざまな思い出をエッセイ仕立てで加えたものだ。聞書きには書けなかった、ふとした瞬間の詩人の述懐や、その欠片のように散りばめられた知己の人たちの短歌や詩、そしてご自身の詩などが心に沁みる。

文学というものが、人と人との繋がりや、交錯、手紙などのなかから生まれていくということが分かる。与謝野鉄幹、晶子、永井荷風、堀口大學、佐藤春夫とつながる詩歌の系譜。その豊かなる世界に感慨を深める。

欧州に居た頃に知己となったマリー・ローランサンを想う次の詩がここにも紹介されていて、この本を読んだあとには、ますます感を極めた。

「遠き恋人」 

その年月のことについては
お前が私を愛し
(桃色と白とのお前を)
私がお前に愛されたとよりほか、
私には何も思ひ出せぬ。

それで今私は思ふよ、
この私にとつて
生ると云ふは愛することであると。

すべて都合のいい
日と夜とがつづいて
何んなにその頃、
二人が幸福であつたであらう!

お前は思ひ出さぬか?
あの頃私たち二人の
心は心と溶け合ひ
唇は唇に溺れ
手は秒に千万の愛撫の花を咲かせたことを?

お前はまた思ひ出さぬか?
その頃私達二人の云つた事を?
「神さまは二人の愛のために
戦争をお望みになつたのだ」と。

こんな風にすべてのものが
― カイゼルの始めた戦争までが ―
二人の愛の為めに都合がよかつたのだ。
お前は思ひ出さぬか?

それなのに、それなのに、
お前は今ここに居らぬ
私は叫びたく思ふよ、
『お前の目が見、
お前の手が触れたものは
今でも私の周囲にあるのに
何故お前ばかりか
ここにをらぬのかと・・・・』

(初の詩集『月光とピエロ』より)

日本の鶯 堀口大學聞書き (岩波現代文庫)

関 容子 / 岩波書店

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by k_hankichi | 2014-03-27 08:35 | | Trackback | Comments(4)

2リットルの涙・・・複雑なる立方晶との闘い

風が吹けば桶屋が儲かる、ではないのだけれど、足腰弱れば化学式と水との闘いと相成った。

先週、背中と腰が鈍く重く痛むので、毎週の出張先のベッドが合わないせいだと思っていた。やはり自宅の寝床のほうが合うなあと納得しながら、いろいろとマッサージなども試していた。

しかし一向に良くならない。鈍痛は鳴りを潜める気配がない。時にきりきりと痛む時もある。寝床から起き上がろうとすると痛みが増す。さすがにおかしいなと思って昨日医者に行った。

結石だった。背中のほうにある五臓六腑の一つのなかに石があった。巨大ではないにしろ、こいつがそのなかで暴れている。

医者は言った。「ここの内臓にある石はなかなか気づかないんだよな、俺なんかも何度もやってるんだが、判んないまま落ちてくる。」

「はあ。」

「石はシュウ酸カルシウムさ。水をたくさん飲むことだな。毎日2リットル。洗い流すような感じだ。」

「そうなんですか。Ca(COO)2 なんですね。立方晶ですね。結晶成長ですね。」

「そうか。知ってるんだな。それが大きくならないように一日2リットルだ。流し出す効果も期待する。良いか飲むんだぞ。」

「はい、分かりました。しかしお酒は飲んではダメですか。」

「ん・・?朝からビールは飲めないだろう。だから水だよ。」

「仕事柄飲むんです。酒は大丈夫でしょうか。(私的にも飲むんです、とは、ちょっと言い辛い)」

「酒は大丈夫だ。朝からは飲めないだろ。しかし晩は俺も飲んでいた。それも結石と気づかなくて飲んでいて、石が出てきたくらいだ。たから飲んでいても大丈夫だ。」

「でも水も飲むんですよね。」

「そうだ忘れちゃいかん、一日2リットルだぞ。酒だけ2リットルは飲めないだろ。」

「はい、先生そうですね、水、飲みます。(酒2リットル飲めますとは言い辛く・・・)」

「頑張れ、薬も出しとくからな」

斯くして一日2リットルの生活に入っている。吉田健一であれば喜んで朝から酒を呑んでいるだろうなあ。
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by k_hankichi | 2014-03-26 19:41 | 一般 | Trackback | Comments(4)

中世を生き抜いた夢

日本の戦国時代に居た。時は群雄割拠。あちらでもこちらでも戦がつづいている。血で血を洗う、生き馬の目を抜くような争いだ。もうこんなことをしていては国が国ではなくなってしまう。僕はそう思った。

そんなふうに感じたとき、南の地に鉄砲の伝来があったことを伝え聞く。と見る見るうちにこれを専門に扱う鍛冶屋が生まれ、戦にこの武器が持ち込まれる。たたかいのスタイルが変わって来た。織田、豊臣、そして徳川の時代が訪れる。

江戸幕府の発足は、革新的だった。地方で反乱勢力が再び起きることを予見し、この抑制のために家康は江戸城下に各藩に屋敷を設けさせ、妻子を江戸に住まわせる制度を立てたのだ。そして、この江戸との間を、各藩は大名ともども一年毎に行き来させられる。大量の家来と物資を伴っての「大名行列」だ。

なるほど。僕は驚嘆した。世界のどこに、このようなユニークな隷属システムを創り出した国があったろうか。徳川の才知にただただ感嘆する。時代が流れる。

ああ・・・、文明開化の足音が聞こえてくる。まもなくこの世に変革が起きるのだろうか、どんなふうになるのだろうか。

と思ったら目が覚めた。夢の中で、中世から近世までを、空中からずっと眺めていた。
  
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by k_hankichi | 2014-03-25 06:50 | 夢物語 | Trackback | Comments(3)

ケルビーニのレクイエム・・・捉えどころの無いおっかなさ

ベートーヴェンの告別式に演奏されたというケルビーニのレクイエム第1番・ハ短調と葬送行進曲を、この週末は聴いている。前者はフランス革命でのルイ16世を悼うために1816年に作曲されている。革命後の王制復古で、ルイ18世が復活したから生まれた曲だ。ベートーヴェン、ベルリオーズ、シューマンやブラームスにも絶賛された作品で、ハンス・フォン・ビューローからはモーツァルトのレクイエムよりも優れていると評価されたそうだ。

いまだにその勘所がわからない。わからないままに繰り返し聴き続けている。

Dies Iraeのところで、大きな銅鑼が鳴って、まさに悪魔がそこに舞い降りたか如くにおっかなく、これ以外にはヴェルディのレクイエムのそれしか心当たりがない。その先の聴く気をなえさせるほどで、これがまさに「警鐘を鳴らしている」ということなのだろう。

それ以外の部分で何を感じるかといえば、僕には仏教のお経である。それは銅鑼が入り込むからだけではなくて、ずっと悼う気持ちのつぶやきのように聞こえるからかもしれない。救済というものがいつになるのかわからないけれども祈り続けるその心の大切さだけは伝わってくる。

葬送行進曲も、これまた同様におぞましさといったらない。シャルル・フェルディナン・ダルトワ(Charles Ferdinand d'Artois, 1778年1月24日 - 1820年2月13日)の暗殺を弔うための曲だ。彼はアルトワ伯シャルル(後のフランス王シャルル10世)の次男だったが、狂信的なボナパルト派により暗殺された。ここでも銅鑼が、ぐわーんと鳴る。葬送の行進を司るがごとくのその音には、何回聴いても、心臓が止まりそうになる。

しかしリッカルド・ムーティは、こんなケルビーニの曲の数々を好んでいる。名を冠したユース・オーケストラであるケルビーニ管弦楽団("Orchestra Giovanile Luigi Cherubini")を発足させたそうで、その動画もYoutubeにアップされている。

ケルビーニ。ベートーヴェンとそれに続く時代のあいだに生きた、音楽の覇者。そんなときのことを想像してみるのもちょっと楽しい。

■音盤
演奏:ディエゴ・ファソリス指揮スイス・イタリア語放送管弦楽団、ルガーノ・スヴィツェラ放送合唱団
録音:1996年4月、スイス・ルガーノの聖ロレンツォ大聖堂
音盤:Naxos 8.554749

■レクイエム:こちらはリッカルド・ムーティ指揮、ケルビーニ管弦楽団による演奏(Ravenna Festival@Piazza Unità d'Italia, Trieste, 2010)→http://youtu.be/RpbSvwpyL5A


■葬送行進曲(Cherubini Marche funebre) →http://youtu.be/54LrQR_DVPY

  
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by k_hankichi | 2014-03-24 00:13 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(3)

オン・ザ・ロックがぴったりの旨いジン・・・シップスミス、そしてエリック・サティのグノジエンヌ

昨夕、いつも行く酒屋で見つけたのは、ロンドン・ドライ・ジンのひとつ、シップスミス・ジン(Sipsmith)→http://www.sipsmith.com/our-spirits。ちょっと黒魔術的な風合いもあるボトルデザインに思わず惹かれて買ってしまった。アルコール度数は41.6%と高めではなく手頃である。さっそく、晩酌にオン・ザ・ロックで、ジンの味だけを確かめる。

こ、これは・・・。花形満が、星飛雄馬の魔球に初めて遭遇したときのような驚きに包まれる。一口、もう一口と呑み進めるほどに、それがこれまでにないものであることに気づき、そして怖れに変わってゆく。あたかも、大リーグボール1号であるということに確信を深め、背筋が凍ってしまった打者のように。

つまり目の玉が飛び出るような旨さであって、その旨さは、レモンや炭酸やトニックウオーターなどを混ぜてはならないもので、まさしく英国人のうち震えるような職人魂と、酒を愛する丹念なやさしさに包まれているものだということがわかる。

調べてみるとこのジンは、ウエストロンドン・ハマースミスという場所で、ウイスキー評論家のオフィス跡地に2009年に創業したクラフト蒸溜所によるものだそう。銅製の超小型の蒸溜器を使用し、1バッチ200本づつ、丹念に作られる。10種類のボタニカルに浸されている。ロンドンで銅製の蒸溜器が稼動したのは1820年以来という、とても希少な造り手だ。

Youtubeで紹介される彼らの製造所、造り手の情熱は、なんだか映画の一シーンのようにも見える。エリック・サティのグノジエンヌ(Gnossiennes)第3番のBGMがよく似合う。

ジンというものの概念を極め、今風の大量生産という路線から大胆に離れた、超絶の逸品だった。

※彼らが選んでいる10種のボタニカル:
Juniper Berries
Lemon Peel
Orange Peel
Orris Root
Liquorice Root
Angelica Root
Almond Powder
Coriander Seed
Cinnamon
Cassia Bark

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■造り手による解説(映画のようだ!) →http://youtu.be/cCdF3NKQv4c

■2010年のNew Comerとしての評された動画→http://youtu.be/pLkuJ1Cwo7I

■エリック・サティ:グノジエンヌ第3番 →http://youtu.be/g8Yoz9Nh21k
  
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by k_hankichi | 2014-03-23 11:44 | | Trackback | Comments(2)

背中や腰が痛むのは・・・『働き方革命』(駒崎弘樹)

背中と腰がきりきりと痛む。朝、起き上がろうとするとき、様子をみながらそろそろと動くしかない。毎週の出張先の宿の、柔らかすぎてよく寝つけぬベッドがなせる業なのではないかと思った。

東京に向かう車中で読了したのは『働き方革命』(駒崎弘樹、ちくま新書)だった。著者が罹患していた病気に、僕も少しかかっていることを知った。

■無駄な時間恐怖症候群
 ・メールチェック中毒(考えてみるといつもメールを気にしていた)
 ・インプット不全症(仕事にかまけて読書などの量が減る)
 ・エンターテイメント忌避症(最近、音楽を聴けていない)

■常時多忙症候群
 ・コミュニケーション忌避症(人とのかかわりがおっくうになってやしないか)
 ・常時不機嫌症(そうならぬようにしなければ・・・)
 ・表情喪失症(こわいぞ・・・)
 ・ネットワーク断絶症(仕事以外のさまざまな人とのつながり)

そんな彼を変えるきっかけをつくったのは、アメリカでの行動変革研修だった。リーダーシップというものをこれまでとは全く異なる切り口から導いているそう。次のように教祖のタイス氏が言う。

「人は何に基づいて行動を起こすか。それは潜在意識の中にある自己イメージです。・・・(中略)・・・例えば、自分はその行為ができると思えば、言いかえるとその行為が『できる人間』だと思えば、その行為をします。逆にできないと思えば、言いかえると『できない人間』であると思えば、その行為はしません。つまり自己イメージは、私たちの行動を規定するのです。・・・(中略)・・・『本当は自分にはそんな実力はない』ということを繰り返すと、実際にそういう自己イメージが形成され、成功を打ち消すような行動を取ってしまいます。これを『恒常性』と言います。人は自己イメージと現実が異なる場合に、『認知的不協和』を起こしてしまいます。これに対して、人はバランスを取ろうとするのです。」

「あなたはあなた自身に『常に忙しい人』という自己イメージを与えています。だからそのイメージに反するような行動を、無意識のうちに嫌がっているのです。忙しい状態というのが、あなたの『安定領域』なのです。働き方を変えたいと思いながら、あなたは古い自己イメージを持っているから、その安定領域に縛られている。新しい自己イメージを持ちなさい。そのために自己対話をしなさい。望ましい自己イメージを描く、自己対話を。」
 
彼はいま35歳。NPO法人フローレンス代表理事や、財団法人日本病児保育協会理事長、全国小規模保育協議会理事長などを仕事としている。この本を書いたのは30歳にならないころだ。若くして自らの行動変えることができている。

ベッドが柔らかくて背中と腰に来たと言っている場合ではない。

働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法 (ちくま新書)

駒崎 弘樹 / 筑摩書房

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by k_hankichi | 2014-03-22 07:44 | | Trackback | Comments(6)


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