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雪の日

雪の朝だ。ぱらぱらと音もなく降り積む雪が美しい。

阿多々良山は少し灰色の影となって遠方に霞む。

「会津あたりは吹雪なんだけどね」、とタクシーの運転手は言う。音階が平盤で実に美しい。

「積もらないですね、日中は気温が高いからね、ただ風が強いと電車がストップするかもね」

不必要ながら今日の天気を尋ねて、その答えの声に心地よくなる。

今日も良い日になると良い。
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by k_hankichi | 2014-01-31 07:38 | 街角・風物 | Trackback | Comments(4)

味の妙間(たえま)・・・安心と不安ともに我にあり

何が人の味覚の中核を形成するのだろうか。幼い頃から親しみ五臓六腑に染み渡った僕の味覚は確実に日本のそれで、薄くあろうとも、旨味の勘どころを嗅ぎ分け微妙なる味の妙間(たえま)に揺られ楽しむことができる。

シンガポールで食べた中華料理には、彼の地の人達は嬉々として噛りついていた。僕には少しも旨いところがなく、アジア駐在が長い同僚も「あれは不味い、同じ金で広東であれば、段違いに旨いものが50回は食える、もちろん土地の人間に案内してもらった店だよ」と言い放つ。

自分は間違ってはいなかったのだと知り安心する。

一方、別の土地での夕食の場では、カオリャン酒が振る舞われ、おお旨いと目尻が下がった。しかし一同囲んでか、或いは二人で乾杯(ストレートでお猪口で飲み干す)が決まりごとだ。吉田類のような一人飲み、手酌はご法度で、円卓を共にする現地の人が注いでくれないと呑めない。手持ち無沙汰だ。

しびれを切らして僕はカオリャンとお猪口をそれぞれの手に持ち円卓を回りはじめた。土地の人たちは嬉々となる。大抵の日本人は勧められても、顔を顰めて嫌々ながら半分呑むだけのようなのだ。

円卓の10人をそれぞれ相手に回りきり、はてまだ手持ち無沙汰だなあと思案していたら、同僚がハンキチさん大丈夫ですか、あんな不味い酒をと囁く。僕は当惑して、いや案外旨いよと答えておいたが、「いやぁ久々に美味いカオリャンだな」と言い放ちたかったのが本音だ。

自分は間違っているのかなと、不安になる。

味の妙間は奥深く、アジアやアフリカの密林まで行ってみないとまだまだ何が本当のことなのか、わからないのだろうなあと思った。
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by k_hankichi | 2014-01-30 07:44 | 食べ物 | Trackback | Comments(3)

新しい、人種の坩堝(るつぼ)・・・上海をあとにして

仕事場や街を歩いていては気が付かないが、空港に到着すると、中国人、日本人、韓国人、米国人、欧州人などなど多岐にわたる人々に溢れていることに気付く。

ここはニューヨークなのか、と一瞬錯覚に陥った。しかし、とよんとしたこの空気はやはり上海なのだと気付く。

そしてぶっきらぼうである。人々は、ゆえなくぶっきらぼうである。

米国であれば、人々は白でも黒でも黄でも横柄なぶっきらぼうさなのだが、こちらは、ただ単純に、遣る瀬なくぶっきらぼうなのだ。「あ~あ」という声が、その裏には隠れている。それに触れただけで、エネルギーを吸い取られていくような気がする。

そして日系の航空機に迎えられる。満面の笑み。米国人の友人からは以前、日本人は何故あんな笑顔を演ずるのか?(Does she pretend kindful?)と、尋ねられたことを思い出した。

Pretend? No, I bet she does not and is really from her heart,

と拙い英語で返したことも。そして、マジかよ?と目の玉を剥いて驚いた彼の顔のことも。

ああ、日本人は何と素晴らしき哉。旅すれど、故郷さとはここにありき。

みちのくに向かう今宵が輝く。

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by k_hankichi | 2014-01-29 21:31 | 街角・風物 | Trackback | Comments(0)

無錫のけぶった空のもとに

昨日から、上海。空港に着いたら、なんと青空。春節が近く、交通量は少なく、街区の人通りもまばらなせいらしい。PM2.5でけぶった毎日だったから、太陽が見えるぞ、と騒ぎになる晴れ具合だそう。

しかし今朝はうって変わって曇り空。けぶって遠くが見えない。上海からすこし離れた、太湖という場所に近く、少し空気が淀んでいる。

毎日がこうであれば、確かに滅入ってしまい兼ねないけれど、仕事は仕事。溌剌と気合いを入れて、途に向かう。

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by k_hankichi | 2014-01-28 08:47 | 街角・風物 | Trackback | Comments(3)

人は理由を探し求める

自分が過ごす場所、学舎、乗る車、仕事をする先、などなど、人生の一大事からちょっとした事柄まで、人は理由を捜し求めるものなのだなあ、と昨日は改めて思った。

僕からは非の打ち所のないほどの眺望と採光、施設をもった出来たてのその部屋を一目見て、ああ自分ならここに住みたいと思ったのだけれど、家人のひとりは納得できないところがあるようで、それは眼下に少し覗く場所だった。

それはお寺で、その裏にはもちろんお墓が少しあり、それがどうも怖く思えるらしい。

そこを除外してしまうと、もう我々の条件からは途方も無く逸脱してしまい、もはや青天井になってしまう。

僕はそこで一計を画した。堂々とした枝振りの桜の大木が連なる。紅葉も植わっている。寺なのに神社の鳥居まである。広大な敷地のそこは由緒ある場所と睨んだ。

江戸時代からの寺だとすれば、幕末にも関連するかしらん。なにか頭に浮かんで来そうで、早速寺の名前を調べ、Googleで検索した。

さすれば、幕末や維新における日本の改革をうちすすめた維新の十傑ゆかりの場所とわかる。彼は和宮降嫁や王政復古を策し、日本政府首脳となる。大久保利通や伊藤博文、津田梅子らを部下に配したり、西郷隆盛、板垣退助らに真っ向から挑み退けた知性派。日本初の国葬で葬られた人だった。

それを知って家人は、手のひらを返すように歴史歴史と叫び始める。安易なり、住みかとするに値するには墓が歴史に刻まれていることなり。そういう理由が心地よくするものなり。

斯くして騒動は一件落着と相成った。
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by k_hankichi | 2014-01-27 07:58 | 街角・風物 | Trackback | Comments(3)

明治時代の武蔵野を巡る、つかの間の休み

今日は出張続きの間の中休み。訳あって、東京の明治時代の武蔵野を巡った。

まずは先週も訪れた武蔵小山。明治時代はここからが武蔵野とされたゆえの命名か、しかしいまやどう見ても下町で、雑然としたレトロ感にそぞろ愉快な気分になる。

そして足を運ぶは大岡山。起伏に富んだこの街は、狭い道路が網目のようにくねくねと、どこにどう辿りくか分からなく、どこまでもそれは挑戦的だ。

少し進めば自由が丘。亀屋万年堂くらいしかなかったその街は、三代目どころか四、五代目だ。知らぬあいだにハイソ感しか漂わぬ。

踵を翻す先は南品川の丘。ゼームス坂と仙台坂は、その佇まいも上品で、伊達藩名残りの造り味噌屋やら屋敷跡に、文明開化の音がする。遠くにはご愛嬌のように東京スカイツリーが顔を出す。

さて池上通りを上り下り。行く末の場所は大森だ。一段と増す下町度には圧倒され、雁木のように続くアーケード。まさにこれが昭和の史跡である。いきなり現れるダイシン百貨店にがとどめを刺される。

そしてようやく目黒本町。平和通り商店街に至れば、自分はどの時代に生きているのか分からなくなり、街角探検隊に、夜のとばりが訪れる。

巡り巡るよ時代は巡る。戻るところはノスタルジア。こうしてつかの間の休みが終わりゆく。

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by k_hankichi | 2014-01-26 21:11 | 街角・風物 | Trackback | Comments(1)

『大統領の執事の涙』に何度も号泣する・・・幼いキャロラインまで出てくる

欧米の大統領や首相にまつわる映画が目白押しのなか、全く知らなかった作品があって、それを帰国の機中で観て何度も号泣してしまった。

『大統領の執事の涙』(原題:Lee Daniels' The Butler)。日本では来月15日から公開。

作品は、ホワイトハウスで7人の大統領に34年間に渡って仕えた黒人執事の物語だ(アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソン、ニクソン、フォード、カーター、レーガン)。豪華なキャストに囲まれても、執事のセシル・ゲインズ役のオブラ・ウィンフリーの演技はキラ星のように輝く。

1960年代のケネディやキング牧師のころ、そしてベトナム戦争の結末、黒人差別の撤廃、しかしながらのアパルトヘイトへの観てみぬふり、そのころの自分の生活と社会の記憶。

僕自身が初めてアメリカに行ったときに分かった公共交通機関の中での常識もそこに重なり繋がる(有色人種は車両の後ろの席に座るものだと教わった)。

世界の警察官裁判官を標榜するアメリカ合衆国というものが、戦前からついさきごろまで、いかに差別的な国であったのかということも、如実に再認識できたし、それに対して客観的に自らの国を表してゆこうとした制作者やキャストたちの熱い情熱が伝わる。予期してはいなかっただろうが、こんにち駐日大使となったキャロラインを、その幼少時代にホワイトハウスで世話をしているシーンまで描かれていて心憎い。

さまざまな史実や実際の映像によって裏打ちされ、なんども号泣してしまった秀作だった。

<あらすじ>
南部の綿花農場の奴隷の系譜の家に生まれた男、セシルは、地主の黒人に対する人を人とも思わない容赦ない冷徹な仕打ちから逃れ、ワシントンDC近傍のホテルのボーイとして働き始める。

ある日、その所作を買われてホワイトハウスの執事に抜擢される。彼は政治の世界に日々触れながら、仕事柄、自らはその意見や存在、人格を消し去るようにして、大統領の日々を支えてゆく。

一方、彼の子供ルイスは、南部の大学に入ることになり、そこで黒人差別への抗議や公民権運動の闘士となっていく。

白人には逆らわないと考えてきたセシルは、子供の行動に当惑してきたものの、やがて自らもその差別撤廃に向けてホワイトハウスのなかで動き始める。

■監督:リー・ダニエルズ
■脚本:ダニー・ストロング
■出演:フォレスト・ウィテカー、オブラ・ウィンフリー、マライア・キャリー、ロビン・ウィリアムズ、ジョン・キューザック、ジェーン・フォンダ
■配給:ワインスタイン・カンパニー
■製作:2013年、アメリカ、132分

■映画トレイラー →http://youtu.be/QJ3C6JCewAQ

■米国配給会社トレイラー →http://youtu.be/9uBXH_DLxsU

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by k_hankichi | 2014-01-25 18:15 | 映画 | Trackback | Comments(1)

熱帯の冬の夜が明け、ぬるい昼間になった

ガンガンによく冷房された部屋が、熱帯や亜熱帯の土地の歓待方法と聞いていたが、昨晩遅く(というか日本時間で夜半1時半過ぎ)に着いた宿もそうだった。冷え過ぎかなと思いながらそのままベッドに体を横たえて、朝に目が覚めた頃には身体全体がひんやりとしていた。気が付くと鼻がぐすぐすとする。鼻風邪だった。

しまったと思いながら仕事場に向かうと、会議室は案の定、強い冷房。しかし社内のいくつかの訪問先は、熱帯の冬の気温(27℃程度)がそのままで、実にぬるい。寒暖が追い打ちのように心身に堪える。気合と萎えとの間で鞭をうっているうちに、あっという間に夕方だ。

新婚旅行で訪れたあと3回目になるこの熱帯の街には、実は親しみがあまりない。あの時も同じく風邪を引いていて部屋で熱にうなされていたからで、だから覚えているのは、当時アジア一高層だと言われたそのホテルのことだけだった。

今や、それよりもずっとずっと高層の建物がたくさん立ち並び、屋上同士をつなげて船のようにしたホテルまで見える。奇想天外な景観に呆気にとられながら、いつの間にか夜の闇がまた近づく。サマセット・モームは、こういうもやもやした夜のことが好きだったのかしら、ということが少し頭をよぎった。

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by k_hankichi | 2014-01-24 23:04 | 街角・風物 | Trackback | Comments(0)

みちのくから南国を目指す男の音楽

朝晩小雪のみちのくから南国を目指す途についた。分厚いコートを手に持って、熱帯の夜の路を彷徨う自分を想像して可笑しくなる。

行き先は旧大英帝国が管轄していた土地だから、電車のなかからでも、その世界に馴染もうと、ヘンデルを聴いている。曲はオラトリオ『エジプトのイスラエル人』。チャールズ・マッケラス指揮、イギリス室内管弦楽団。

生涯の約3分の2をイギリスで過ごしたヘンデル。ドイツのバロックが彼の地に芽を吹き花咲き、帝国の威光を輝かせる。その栄華は熱帯地域にまで広がり、半島の先端の昭南島を要諦の地と変化させゆく。

Handel;Israel in Egypt

Handel / Polygram Records

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by k_hankichi | 2014-01-23 14:12 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(4)

みちのくの朝とバルトーク

昨晩からみちのく。宿泊先での朝は、決まったように身支度を整えながら、新聞に目を通す。住んだことはないがこういう生活がワンルームマンションなのかなと頭をよぎる。

7時。部屋を出て駅に向かう。構内のコーヒーショップでお決まりのホットドッグとコーヒーを食す。これはボールパークドックと呼ばれていて、少し硬いフランスパンに似た(でも異なる)ものに、ソーセージが挟まったものだ。硬のなかのジューシー、それがなすバランスが絶妙で実に美味い。この間など、びっくりして二本目も頼んでしまい、それもやはり美味かった。

肌が切れそうに寒い空気を、掻き分けるように歩くうちに、コーヒーの温かさが全身に回ってきて元気付けられる。

仕事に向かう途では、同じように忙しく学校に向かう学生らが会話している。東北弁の訛りが満載だ。そこに若者言葉が混じっているから半分くらいは分からず、だんだんとそれがバルトークの木管楽器曲のように聴こえてくる。

あちらでもバルトーク、こちらでもバルトーク。クラリネット系は女性、ファゴットやバスーンは男性だ。訥々とした音色のなかに、粘度があり、二十世紀を拓いた魂が、ここにも息づいているのかと錯覚する。
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by k_hankichi | 2014-01-22 07:43 | 街角・風物 | Trackback | Comments(3)


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