さきの週末からこの週明けは、ずっと深く重い、過去を振り返るときだった。親族に不幸があり、あまり帰省しないその地を久しぶりに訪れ、慣習に従ってのいろいろな偲ぶ場のなかで、普段遭わないたくさんの人たちと語りあい、そして人と人のつながりに想いを馳せるときの連続だった。
体力的にも精神的にも朦朧としながら、この音盤を携え、聴くことができるような車中ではそこに耳を傾けた。深夜に漆黒の暗闇のような山あいの道を辿る時間には、挫けそうな気持ちが励起されて精神が研ぎ澄まされた。
これまで接したバッハの演奏のどれにも似ていなく、峻厳な孤高の極みにあるそれとは、友人が薦めていた庄司紗矢香のバッハとレーガーのアルバムだ。
極め付きは、やはりパルティ―タの第2番。華奢な女性の腕と指先から、こんなに鳥肌立つ音色が生み出されるとは知らなかった。「シャコンヌ」の後半では涙がじんわりと涌き出てくる。曖昧なことをしていてはいけない、きちんと生きなければいけないという気がした。
音盤の表紙は真っ白でそのなかにBach & Regerという文字があり、そしてそこに純白のワイシャツと黒パンツを着た彼女が、はにかんだような微笑みを浮かべて遠くを見やっている。裏面は空色の絹のすべすべしたドレスを羽織って一心に演奏している。演奏の趣きそのものだ。
彼女はミッシャ・エルマンが所有し演奏していた1729年製ストラディヴァリウス「レカミエ」を使用している。あの甘ったるいエルマンの音色とは全く異なる響きが同じ楽器から出ている。その事実には、これから起きる何か果てしない空恐ろしさのようなものが内包されている。
この週末のことは、庄司の音とともに、これからもずっと心に刻まれているだろう。
■収録曲
マックス・レーガー:プレリュードとフーガ in G minor Op.117 No.2
J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番 in G minor BWV1001
レーガー:プレリュードとフーガ in B minor Op.117 No.1
バッハ:無伴奏ヴァイオリンパルティータ第1番 in G minor BWV1002
レーガー:シャコンヌ in G minor Op.117 No.4
バッハ:無伴奏ヴァイオリンパルティ―タ第2番 in D minor BVW 1004
■録音:2010.8.28, 31 @Chapelle de I’Enfant Jesus par Hugues Deschaux
■音盤:仏Mirare MIR128