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ラン・ラン @サントリーホール2009/1/24

1月24日、サントリーホールのマチネーで中国のピアニスト ラン・ラン(Lang Lang、郎朗)の演奏を聴き(観)ました。(1階席21列10番。ピアニストの腕・指先が良く見える席でとても良かった。)

シューベルト :ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959
バルトーク :ピアノ・ソナタ Sz.80
ドビュッシー:『前奏曲集第1巻』「亜麻色の乙女」、「アナカプリの丘」、「沈める寺」、「ミストレル」
ドビュッシー:『前奏曲集第2巻』「月の光がふりそそぐテラス」、「ヒースの茂る荒地」、「花火」
ショパン :ポロネーズ 変イ長調 op.53「英雄」
孫以強:春舞(アンコール)
ショパン:別れの曲(アンコール)

あらかじめCDでこの人の演奏のいくつかを聴いていたのですが、演奏を観ることでやっとその本質に触れることができたと思いました。

まず一つめの感銘。いとも簡単に超絶技巧かつ極めて正確なタッチでもって難曲を弾きこなします。一音たりともミスが無い。完成された技術。曲を解釈するという頭だけでなく、身体全体の筋肉を鍛え上げ、そしてそれを隅々まで使いこなし表現する、という感じです。中国の出身だからということではありませんが、オリムピックでD難度の新技荒技を完璧に演技する体操選手のような印象もあります。

肘を曲げずに腕を水平に真っ直ぐ伸ばしたまま(鍵盤を見ずに)朗朗と弾きこなす、ということも何度も何度もあります(こんな弾き方をする人、これまで観たことがありませんでした)。曲と自分の心とを等間隔でバランスさせたい、真正面で相対させたい、というような感じなのでしょうか。でもこの弾き方、非常な筋力がなければできることではありません。なにせ指先の筋力だけで弾いている訳ですから本当にすごい技量だと思います。

そして二つ目の感銘。上記のような感じで朗々としてシューベルトのソナタを弾いているかと思えば、床を足で踏み鳴らしながら、さながらジャズピアニストのようにエネルギッシュかつエモーショナルにバルトークを弾きこなす、ということに転じます。

気持ちが入ると同時に左足もバシバシ踏み鳴らします。唸り声も出ています。キーにタッチしていない手や腕は旋律とともに指揮者のように漂い回り、また高らかに舞い上がります。華麗。たぶんこの人はクラシックとかジャズとかポップスとかいう範疇ではなく、自分の頭の中でいろいろな曲想が乱舞しているのではないか、と思うのです。それを指先で表そうとし、それが体全体に現れている、というものなのです。

三つ目の感銘。それでは激情型のピアニストなのか?・・・いえいえい違います。感情豊かにドビュッシーやショパンの叙景曲叙情曲も奏でる。「沈める寺」では、大きなみずうみの底から鐘や読経が聞こえてくるかのような荘厳で雄大で、そして繊細で時にやさしい感覚に包まれます。そしてアンコールの最後に弾いてくれた「別れの曲」は背筋がぞくぞくとするような感覚とともに、静かでしっとりとした安堵の気持ちが体中にどこからともなく行きわたるのです。

技術・技量が追いついていないとどうしても「正確に弾く」ことに気持ちが奪われて余裕が生まれません。この人は完璧かつ鍛え抜かれた技術・技量のうえに、これまでどんなピアニストも成し遂げられなかった音と音の隙間を持つことができ、また作曲家が譜面に表現しつくせなかった頭に浮かんでいるだろう音を聞くことができ、それを通じて新たな境地を築こうとしている、それがこの人にはできる、そう思いました。

彼は変革者であり、21世紀の音楽家像自体を変えていくのだ、ということを感じました。

音楽を奏でる、ということを英語でパフォーム(Perform)とも言いますが、まさにパフォーマンスだった。彼は、弾く、語る、表現する、体現する、伝える、魅せる、音や鍵盤だけで無く体全体の表現とともに“音魂”を見せる、ということを自然に発現しているのです。われわれはこの人のピアノを「鑑賞」するのではなく、それらを通じて作曲家の魂、彼の魂を「心で感じる」のだ、と思いました。いまの時代、いまの空間のなかで。

(追伸:NHKが演奏を録画していて今後放映されるそうです。特に2カメはピアノ真近の左側から鍵盤の指先をアップで撮っていると思うので、新たな発見や楽しみがありそうです。)
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by k_hankichi | 2009-02-01 10:13 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(0)


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