カテゴリ:映画( 228 )

友人から紹介されて観に行ったのだけれど、これを見逃していたら、生きているうちの映画観のなかの大きな部分を逸失していたかもしれないという感覚にとらわれた。フランソワーズ・オゾン監督による映画『婚約者の友人』(原題:Frantz)。
http://www.frantz-movie.com/

ストーリーの詳細を語るまい。ネタバレにしてしまってはならない、神聖な領域を感じる作品で、しかしその主演女優の崇高なまでの美しさについてだけは触れておかなければ、という観念に迫られる。

登場人物たちの気持ちの移ろいと、その有り様の自然さというものが、国民性や人種という垣根を乗り越えて実感できる。

そして映像の美しさも特筆だ。モノクロームの映像が映し出す世界というものが、いま、この現代でも存分に発揮できるのだということを知らしてくれた。

■映画の紹介(ドイツ語)


■映画トレイラー(日本の配給元)


■『自殺』エデュアール・マネ

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by k_hankichi | 2017-11-12 14:44 | 映画 | Trackback | Comments(4)
『アズミ・ハルコは行方不明』を観た。→http://azumiharuko.com/

蒼井優がこれほどまでに、遣る瀬無くたたずむ映像はこれまで観たことがない。『花とアリス』での彼女が「可憐という言葉の具現」だったとすれば、こちらは「喪失という姿の残像」とでも言えるだろう。

人は、生きている中でこういう心境に一度や二度、いやあるいは何度も何度も陥ることがある。

そこからどうやって帰還できるのか。これは観客がそれぞれの居場所の喪失(行方不明)から、主人公を透かして自らの記憶を辿って回帰する作品だった。

■キャスト
安曇春子:蒼井優
木南愛菜:高畑充希
富樫ユキオ:太賀
三橋学:葉山奨之
曽我雄二:石崎ひゅーい
今井えり:菊池亜希子
■スタッフ
監督:松居大悟
プロデューサー:枝見洋子
原作:山内マリコ
脚本:瀬戸山美咲
主題歌:チャットモンチー
■製作
2016年、日本、配給:ファントム・フィルム

■映画トレイラー
■喪失からの帰還へ。
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by k_hankichi | 2017-10-21 17:15 | 映画 | Trackback | Comments(4)
川端康成の小説『古都』は、ノーベル文学賞の受賞対象作の一つとしても知られている。それを原作とする映画化がまた行われていたのだけれども見逃していた。

またも機内で観させて貰い、こちらは、うむむ・・・と頭を傾げざるを得ない作品だった。

松雪泰子が双子を演ずるところまでは理解できたが、そのふたりにそれぞれ娘がいる、という設定になっている。もはや原作と違う立て付けだ。

娘役の橋本愛と成海璃子の二人の演技も中途半端で、物足りなさが倍加する。

こういう、コト(古都)ってありか?

そう呟いて目を閉じた。

■原点を頑なに守る、の例。
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by k_hankichi | 2017-10-09 16:57 | 映画 | Trackback | Comments(2)
映画『Hidden Figures(邦題:ドリーム)』を出張中の機内で観た。素晴らしい作品だった。

時代は1960年代初頭。無人人工衛星でソ連に先を越されていたアメリカ合衆国は、躍起になって衛星打ち上げ技術の開発に取り組んでいる。

アメリカ中のエリートをNASAに集め、また検算担当に理数系を専攻した女性らも加えて頑張るものの、有人人工衛星の打ち上げでまたもソ連に先を越される。

マーキュリー・アトラス6号を打ち上げ、きちんと軌道に乗って地球を何回も何時間も周回させ、そして無事に大西洋に着水させたい。コードネームはフレンドシップ7。皆は血眼になって取り組むが、楕円軌道から放物線軌道に変えるポイントも計算出来ず、頓挫しそうになる。

そんなアメリカを救ったのがキャサリン・ジョンソンという黒人エンジニアだ。その方程式を解き明かし、見事着水まで至らしめたのだった。当時、黒人たちには公民権もなく人種差別も甚だしく、まして黒人女性に対しては何のレスペクトもしない文化だったから、その偉業といったらない。

原題名は、隠された計算(Figures)と、隠された人々(理数系の黒人女性エンジニアたち)を掛け合わせ暗喩したものだった。

どこから日本での映画名がドリームというツマラナイ題になってしまうのか、とんと見当がつかなかったが、これでは、落語もオチにならない。映画製作者を愚弄しているのだろうか。

■カリフォルニアのモントレー上空から。よく晴れていて美しかった。
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by k_hankichi | 2017-10-09 08:21 | 映画 | Trackback | Comments(2)
小津がはじめて松竹以外で監督をした作品『宗方姉妹』を観た。どんなものなのだろうな、と期待していたら、いちど観たことがあったことがわかり、自分の記憶力のなさに愕然とした。

しかし新たに観てみると、描いている世界の凄さと、そして田中絹代の演技力の超越度に驚いた。『晩春』のお能観劇のシーンの原節子が、まさにお能のような冷たい無表情でそれはとても有名な話なのだけれど、こちらの映画の田中絹代はそれを上回るかもしれない。そしてその裏には遣る瀬無く、仕方なく生きる女の悲哀が静かに横たわっている。共演している高峰秀子や上原謙が大根役者にしか見えず、霧の彼方ほどに遠い。

田中絹代は、ちょうどこの映画の前、1949年10月に日米親善使節として渡米していて、翌年正月の帰国の際、派手ないでたちと言動によって大ひんしゅくを買っていただけに、小津の映画で、誰をも唸らせる凄い演技でそれらの罵詈雑言を圧倒させようとしたに違いない。

さて、ストーリー。

戦前、田代(上原謙演じる)と宗方節子(田中絹代演じる)は互いに恋慕をしていたが、田代のフランス留学によりその関係は離れてしまう。やがて節子は三村(山村聡)との縁談を受け入れ結婚し東京の大森に暮らすが、戦後の荒廃時期、三村は職を失ってしまっている。彼は酒を飲み憂さを晴らす毎日だ。節子は仕方なく銀座でバーを開いて日々の家の生計のもととしている。三村と節子の家に妹の満里子も同居しているが、姉は夫の三村に冷たくあしらわれており、満里子は常々そのことを腹に据えかねている。

そんななか、田代がフランスから帰国して神戸で家具商を営んでいることがわかり、満里子はそこに足を運び、なんとかして田代が姉に近づいてくれないかと思いながら、いろいろ持ちかけていく。田代はもちろん節子に思いはあるのだけれど、そういうそぶりを妹には見せない。

夫三村の仕打ちは日を追って厳しくなっており、ある日、手を上げられ頬を殴打されるまでに至る。節子はとうとう東京に来ていた田代のもとにかけつけ、もう駄目ですと伝えると、田代は自分のところに来いと言ってくれる。三村はそういう二人のことに勘付き、彼も彼で益々自暴自棄になって酒を飲み、とうとう・・・・。

僕は戦後の小津映画では『東京暮色』だけが哀しみに満ち溢れた暗いものだと思っていたから、この『宗方姉妹』の田中絹代の演技を観て、いやいや、こちらのほうがもっと暗い、と思うに至った。

■出演
宗方節子:田中絹代
満里子:高峰秀子
田代宏:上原謙
真下頼子:高杉早苗
宗方忠親:笠智衆
節子の夫・三村亮助:山村聡
■スタッフ
監督小津安二郎
原作大佛次郎
脚本野田高梧 、 小津安二郎
■製作
新東宝、1950年

■殴打のシーン(小津映画でこんなことがあるとは・・・すごい)→https://www.youtube.com/watch?v=51xi4jfeDBQ

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by k_hankichi | 2017-10-01 11:48 | 映画 | Trackback | Comments(0)

『秋津温泉』を観る

吉田喜重監督と岡田茉莉子が結婚するきっかけとなった作品、『秋津温泉』のことがどうしても気になって、レンタルで借りて観終えた。この女優の映画出演100本記念作品だそうで、自らも企画にたずさわったものだそう。

映画は「纏綿として連なる愛」の世界だった。

終戦直前、空襲で岡山の家を焼かれて逃れてきた学生・河本周作は、結核で心身がやつれ、やっとの思いで山間の秋津温泉の旅館にたどり着く。宿の女将の娘、新子は、素晴らしく明朗快活で、その姿を見ているだけで心が休まる。彼女の温かい介助によって彼は元気を取り戻し、そして二人は惹かれあっていくる。しかし河本は街に戻ることになり、二人の別離の17年間が始まる。

作家を志望して暮らしていた周作は、再び身体が悪くなり、三年ぶりに秋津温泉に療養で訪れる。彼は心中を請うが新子は取り合わない。新子の母は二人の行く末に不安になり、彼を街に帰してしまう。さらに二年が経て、周作は作家仲間の娘と結婚してしまう。そのことを伝えに秋津を訪れると、新子は母を亡くして女手一つで宿を取り仕切っていた。

さらに五年が経て、周作は作家を諦め、東京の出版社に勤めることになり、最後の別れを伝えに温泉宿を訪れる。ふたりは初めてここで結ばれることになる。出会いから数えて十年が過ぎていた。東京に向かう彼を駅まで送る彼女の幼気ない仕草は特に素晴らしい。

周作は、その七年後、四度目となる秋津を訪れる。新子は旅館を廃業し、身も心も荒みが出始めている。再会とともに情愛が燃え上がるが、やはり周作は東京に戻ることになる。桜が爛漫と咲く渓谷沿いの途で、新子は、周作にいっしょに死んでくれと言うが、彼は取り合わあない。遠ざかる彼を目にしながら、彼女は手首にカミソリを当て死を選ぶ。

幼い女、恋の目覚める女、嫉妬を隠そうとしつつ恋焦がれる女、そして大人の女として変化していく心の揺れ動きを、一人でここまで演じられる女優の演技力に舌を巻いたとともに、最近はこういうことができる俳優そのものが居なくなったなあ、とつくづく思った。

音楽は、林光。シューベルトとブラームスを合わせたような弦楽四重奏曲的なもので、それが渓谷の深まる秋、そして、燃え上がる春の情景ととても合っていて、とても素晴らしかった。

<作品>
■スタッフ
監督、脚本:吉田喜重
企画:岡田茉莉子
原作:藤原審爾
音楽:林光
■キャスト
新子:岡田茉莉子
河本周作:長門裕之
三上:山村聡
松宮謙吉:宇野重吉
船若寺住職:東野英治郎
■製作
松竹、1962年



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by k_hankichi | 2017-09-24 09:48 | 映画 | Trackback | Comments(2)
映画『笑う故郷』の封切りを観た。始まる前、岩波ホールの支配人、岩波律子さんの挨拶があった。このホールがアルゼンチン映画を扱い上映するのは今回で3回目だという。
http://www.waraukokyo.com/

アルゼンチン映画といえば、『瞳の奥の秘密』の衝撃はいまだにずしりと重く残っているが、今回の作品はどんなものなのかと、怖いもの見たさ的な興味で観始めた。

40年ぶりに故郷に帰ったノーベル文学賞受賞者の味わう喜びと哀しみを、見事に描いていて、とても痛快だった。

僕は文学者の視点から、どうしても眺めてしまうのだけれど、アルゼンチンの田舎町にすむ一般人や、政治家、教職に携わる人や自称芸術家たちの反応は、極めて面白い。

コミカルな視点も交えてのシニカルさは半端なく、知識人の大人の抱えるジレンマも垣間見える。

故郷に錦を投げ捨てた男の哀愁は、パンパの平原に声なき声のように沁みていった。

90点の佳作だった。



■監督について
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■神保町の牛膳は特別に旨かった。どんぶり丸福。
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by k_hankichi | 2017-09-16 18:19 | 映画 | Trackback | Comments(4)
ずっと観たいと思っていた映画『海辺の生と死』をようやっと観た。

これは太平洋戦争末期に、島尾敏雄とミホが出会った奄美諸島の島での出来事を描いたもの。生と死を分かつ瀬戸際の境遇にありながら、二人の恋は燃え上がり、しかし、決行の日はじわりじわりと迫って来る。

映画の印象は「夜」。二人の逢瀬は夜が主体で、だからそうなるわけで、薄暗い日、月明かりの日、それぞれのなかで、心情描写が纏緬と連なっていく。途中、中だるみ気味になるのだけれど、それは二人の気持ちの進行とも合致するものだから仕方がない。

僕にとってのこういう研ぎ澄まされた感覚とともにある夜は、何時のことだっただろうか。二人の愛を目の当たりにすることで、観客のそれぞれは、忘却の彼方から救い出された。

夜を最も美しく描いた、ジャパニーズ・フィルム・ノワールだった。


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by k_hankichi | 2017-09-09 19:47 | 映画 | Trackback | Comments(4)
ブログ友人たちが続々と観ていて、ようやっと観ることができた。『ヒトラーへの285枚の葉書』。
日本HP→http://hitler-hagaki-movie.com/
ドイツHP→https://kinocheck.de/film/m28/jeder-stirbt-fuer-sich-allein-2016

最愛の息子を戦争で亡くしたクバンゲル夫婦は、政権に屈せず、また戦争ゆえに仕方がないとあきらめたりせず、純粋かつ賢明な気持ちから、反ヒトラー、戦争停止のメッセージを書き続ける。

ストーリーは辛苦とともに展開していくが、最後は、どんよりと重い空の色のなかに一筋の希求が浮かび出てくるかのよう。観客の心に対して、これをどのように受け止め判断すべきかを問いかけていく。

どんなに政治権力、軍事権力が独善的なる施政をしていこうとも、市民の一人一人は自分自身の考えをしっかりと整え、聡明で強い意志で屈せず対していかねばならない。草の根活動からであろうとも、必ずや権力に抗することができる。そういうことを教えてくれた。

この285枚の葉書は、ヒトラーやナチス政権に対してだけでなく、我々それぞれに対しての親書なのだ。

映画を観終えてから訪れた銀座の銭湯『銀座湯』(@一丁目)はとても清潔で気持ち良いところだった。来ている人たちも商店主と思しき人や仕事帰りの会社員など、どことなく品があり、これから何度も訪れたくなった。

■キャスト
エマ・トンプソン:アンナ・クバンゲル
ブレンダン・グリーソン:オットー・クバンゲル
ダニエル・ブリュール:エッシャリヒ警部
■スタッフ
監督:バンサン・ペレーズ
製作:シュテファン・アルント、ウーベ・ショット、マルコ・パッキオーニ、ジェームズ・シェイマス、ポール・トライビッツ、クリスチャン・グラス
音楽:アレクサンドル・デプラ
原題:Jeder stirbt fur sich allein (英題:Alone in Berlin)
製作:ドイツ・フランス・イギリス合作、2016年




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by k_hankichi | 2017-08-19 09:14 | 映画 | Trackback | Comments(4)
出張の機中で映画『サバイバルファミリー』を観る。2016年、東宝、矢口史晴監督。
http://survivalfamily.jp/

仕事一筋で家庭は全て妻任せの夫・鈴木義之(小日向文世)は、妻(光恵、深津絵里)や息子(賢司、泉澤祐希)娘(結衣、葵わかな) から疎んじられている。

そんな或る日、世の中のエネルギーが一斉にシャットダウンされる事象に遭遇する。電気、ガス、水道。

これらがないと都会生活は成り立たず、一家は東京から祖父が住む鹿児島へ自転車で移動することに。

互いに相手に責任をなすりつける家族。しかしサバイバル活動をしていくうちに目に見えぬ強い絆が、しっかりと作られてゆく。

この境遇に陥ったら僕だったらどのようにしてゆくだろう。徒党を組んで皆を引き連れて生き残りをかけて自然に帰る生活をしていけるだろうか。

現代のすべての家庭に突きつけられた命題かもしれない。
 

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by k_hankichi | 2017-07-12 08:24 | 映画 | Trackback | Comments(0)

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by はんきち