2017年 12月 02日 ( 1 )

勇み足の『ブラヴォー、ゼバスチャン』

古本屋で、おやっと思って買い求めて読了。小説『ブラヴォー、ゼバスチャン バッハの生涯の10の場面』(アンドレーア・フローヴァ、哲学書房)。訳者あとがきによると、ピーター・シェーファーによる戯曲『アマデウス』でモーツァルト人気が高まるのを横目にしてのバッハ愛好家が書いた作品のよう。

前半は破天荒な筋書き。20人の子供を設けたバッハの私生活の始まりについての章「第二章 初体験」は、風俗小説というか「週刊大衆」「週刊ポスト」の連載小説というか、その描写レベルの高さに驚かされる。と同時にその最初の妻、マリーア・バルバラがいかに愛らしかったのかは伝わってきて、僕の今後のバッハ観に影響を与えそうだ。

かといえばアイザック・ニュートンとの交換書簡の場面が出てきて、音響物理的な音楽論が繰り広げられる。この作品の著者はヴェネツィア生まれの半導体物理学者で、米国のイリノイ大学やAT&Tで研究員を務めたあと現在はローマ大学の教授だそう。小難しい理論展開にも一理があって親近感が急に湧いた。

“「さて、お集りの方々、いよいよバッハ殿に余のフォルテピアノの試奏をお願いいたそうと思う。なんといっても聴き逃せないのは、あの名高い『ゴルトベルク変奏曲』だ。聞けば、フォン・カイザーリンク伯爵の不眠の夜のつれずれに書かれたとか。そのために、曲はたった一つの主題、サラバンド風アリアに基づいて作られている。だが、わたしは伯爵とちがってこの曲にまどろんだりはしない。それどころか、あの曲はたしかに厳格なまでの和声の数学的装いにつつまれてはいるが、各声部の動きの純粋さ、ゆたかなポリフォニー、自在に変化するリズムや気分、驚嘆すべき明暗の対比の妙、それらすべてに余は賛嘆の思いを禁じえないのだ。伯爵が壺いっぱいの金貨で報いたというのものうなずける話だな」
「煙草入れでございます、陛下」クヴァンツが正した。”
(「第九章 楽聖バッハ」より)

このような感じで数々の名曲の演奏や誕生の場面が散りばめられるのだけれど、冒頭部のハラホロヒレハレの描写が愁眉過ぎて、中盤はたるみ、そして後半も感興昂らず、あれあれという感じでその生涯を閉じる場面に至った。

あまりにもバッハは崇高で、フィクションの題材にはおこがましくて似合わないのかもしれない。

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by k_hankichi | 2017-12-02 09:28 | | Trackback | Comments(2)


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