2017年 09月 24日 ( 1 )

『秋津温泉』を観る

吉田喜重監督と岡田茉莉子が結婚するきっかけとなった作品、『秋津温泉』のことがどうしても気になって、レンタルで借りて観終えた。この女優の映画出演100本記念作品だそうで、自らも企画にたずさわったものだそう。

映画は「纏綿として連なる愛」の世界だった。

終戦直前、空襲で岡山の家を焼かれて逃れてきた学生・河本周作は、結核で心身がやつれ、やっとの思いで山間の秋津温泉の旅館にたどり着く。宿の女将の娘、新子は、素晴らしく明朗快活で、その姿を見ているだけで心が休まる。彼女の温かい介助によって彼は元気を取り戻し、そして二人は惹かれあっていくる。しかし河本は街に戻ることになり、二人の別離の17年間が始まる。

作家を志望して暮らしていた周作は、再び身体が悪くなり、三年ぶりに秋津温泉に療養で訪れる。彼は心中を請うが新子は取り合わない。新子の母は二人の行く末に不安になり、彼を街に帰してしまう。さらに二年が経て、周作は作家仲間の娘と結婚してしまう。そのことを伝えに秋津を訪れると、新子は母を亡くして女手一つで宿を取り仕切っていた。

さらに五年が経て、周作は作家を諦め、東京の出版社に勤めることになり、最後の別れを伝えに温泉宿を訪れる。ふたりは初めてここで結ばれることになる。出会いから数えて十年が過ぎていた。東京に向かう彼を駅まで送る彼女の幼気ない仕草は特に素晴らしい。

周作は、その七年後、四度目となる秋津を訪れる。新子は旅館を廃業し、身も心も荒みが出始めている。再会とともに情愛が燃え上がるが、やはり周作は東京に戻ることになる。桜が爛漫と咲く渓谷沿いの途で、新子は、周作にいっしょに死んでくれと言うが、彼は取り合わあない。遠ざかる彼を目にしながら、彼女は手首にカミソリを当て死を選ぶ。

幼い女、恋の目覚める女、嫉妬を隠そうとしつつ恋焦がれる女、そして大人の女として変化していく心の揺れ動きを、一人でここまで演じられる女優の演技力に舌を巻いたとともに、最近はこういうことができる俳優そのものが居なくなったなあ、とつくづく思った。

音楽は、林光。シューベルトとブラームスを合わせたような弦楽四重奏曲的なもので、それが渓谷の深まる秋、そして、燃え上がる春の情景ととても合っていて、とても素晴らしかった。

<作品>
■スタッフ
監督、脚本:吉田喜重
企画:岡田茉莉子
原作:藤原審爾
音楽:林光
■キャスト
新子:岡田茉莉子
河本周作:長門裕之
三上:山村聡
松宮謙吉:宇野重吉
船若寺住職:東野英治郎
■製作
松竹、1962年



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by k_hankichi | 2017-09-24 09:48 | 映画 | Trackback | Comments(2)


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