2017年 08月 15日 ( 1 )

終戦記念日の朝に観た夢

10年前に、自分が長らく敬愛してきた作家が他界した(実際にではなく夢のなかの設定として)。そして今日、その未亡人だという人に街路で偶然出会う(銀座並木通りだ)。もう70歳を超えているのに凛とした佇まいで、その和装は気品に満ち溢れている。出版社の編集者とおぼしき女性と連れ添って歩いている。

僕と友人は、互いに故人の作品のあれやこれやについて、その未亡人に語り掛る。途中、友人に対して「こないだ出たあの記念書籍、良さげだよね」と言うと、「はんきち君、まだ買ってないの?僕はとうに読んだよ、良かったよ。」と返ってくる。そういうやりとり含めて彼女は黙って耳を傾け、ときおり目を閉じながら静かに息をしている。

「あなたがた、いらしゃいよ、うちへ。」

そして突然そう声を掛けてきた。ええ?良いのでしょうか、と言い乍らも僕らは胸を昂らせて彼女のあとを歩んでいく。

山の手のお屋敷町と思しき場所にその家はあった。

「主人が亡くなって10年。屋敷を改装して、その半分ほどを主人の記念館にしますの。」

中に足を踏み入れてみると、いたるところが書架になっていて、記念館として陳列対象とする書籍が並べてれている。作家の作品のみならず、彼が好んだ文学者や芸術家の書籍も並んでいる。手紙類も公開される計画になっているそう。

「ああ、この本懐かしいね。学生時代に読んだね。」
「これ、彼も好きだったのかあ、知らなかったねえ。」

書籍の前を歩きながら、そして時折手に取りながら語り合う。

すると、ひとつの廊下の先に、もう一つの書庫があるらしいことに気付いた。薄暗がりのなか、書架の端が見え、そこにも本が並んでいることが、ぼうっと浮かぶような感じながら見えてとれる。それらの大部分は麻の紐で横に束ねられているようだ。僕は一歩二歩とそちらに歩こうとする。

「そちらには、入ってはなりません。」

未亡人は、思いのほかしっかりとした響きで僕に声を掛けた。びくっとした顔で彼女を見やると、翳のある哀しい面持ちでこちらを見遣っている。

「あの書籍群は、まだ人にはお見せできません。」

僕のほうが背が高いのに、なぜか、彼女を見上げるような感じで、その顔を見た。どうしてなのか、と訊ねたくなった。

「主人のなかに、別の人が住んでいる・・・・」

僕の疑問を見越してか、独り言を呟くように言い残してその場を立ち去った。

作家のなかにある別の世界。それは何なのだろう。その間、編集者と話をしていた友人が僕の所に戻って来てぽつりと言った。

「彼の世界はまだまだ奥が深いみたいだ。僕らに見えていたものは、その一部に過ぎない。」

そこで夢から覚めた。

いつもよりも殊更に涼しい風が窓から流れ込んでいる朝だった。寒気すらした。

■写真は、この夢とは関係ありません(直接には)。
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by k_hankichi | 2017-08-15 10:56 | 夢物語 | Trackback | Comments(7)

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