2017年 07月 30日 ( 1 )

読み終えてついた吐息が、とても美しいものになっている気がした。清冽な夏の夜の夢のような小説だった。『遠くの街に 犬の吠える』(吉田篤弘、筑摩書房)。

やはり吉田さんは、近年その手腕が冴え渡ってきていて、それも鋭さではなく清らかさにおいてだ。これは音について、そして記憶についてと憧憬と恋についての物語だ。

音についての描写が鋭い。

“たとえば夕方に寺院の鐘が鳴る。ひとつ、ふたつ、みっつ………余韻を残して、大きな音でたっぷり鳴ります。だけど、鳴り終わったらそれまでです。あんなに大きな音で存在感を示したのに、その存在はどうなってしまうんでしょう?すっかり消えてしまうんでしょうか。(中略)それで思いました。音は何かにしみつかないのか、と」”(「水色の左目」より)

ここで吉田さんは、芭蕉の岩にしみ入る蝉の声だったり、わたしの耳は 貝の殻 海の響きを懐かしむ、のような事柄を挟み込む。

そこから、音を集めることが語られて、そしてやがて、文章や手紙というのは、声の代替なのだということに繋がっていく。

ちょうど先頃耳にした、太宰治の作品の幾つかの朗読CDで、たしかに小説は声に出して読み聞かせるものなのだなあと思っていたので、まさに合点がいった。

僕的には、今年のベスト3に確実に入る。久々に清い心を取り戻せた。

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by k_hankichi | 2017-07-30 08:34 | | Trackback | Comments(4)

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