小津監督の別の側面に当惑しながら、しかしその方向にそれほど明るいとはいえぬので、こういうことも知らねばならぬと思わず読んだ。『お世継ぎのつくりかた』(鈴木理生、筑摩書房)。
これは想像を超える世界で、ページを繰るたびに当惑と幻惑とに苛まれ、魅惑にはまだ相見えぬ自分の立ち位置に途方に暮れた。
すらすら、さらさら、とーとーたらりと、立て板に水を流すかのように順応できたりすれば楽なのだけれど、どうしても気構えてしまう。だから多分、江戸時代やら明治から昭和の初期に僕が生きていたとすれば、川崎長太郎のように過ごしていたのだろうなということだけは分かった。