笠智衆の回顧録を味わう

小津映画が観たいなあと思いながら、最近スクリーンで観られる機会がどんどん減っているような気がする。そんななか、笠智衆の回顧録『小津安二郎先生の思い出 大船日記』(扶桑社)というものが出ていることをようやく知って、ネットで古本を買い求めた。これは肩肘張らずに語られた言葉を起こしたもので、読む方にとっても肩の力を抜いて読めるもので面白かった。

“娘の結婚式の後、一人で家に帰った僕が、椅子に座って、リンゴの皮を剥くのがラストシーン。背中を丸め、黙って皮を剥く。娘を手放した父親の悲しみがよう出ているちゅうことで、たいへん評判になった場面です。ただ、あれは先生の思いどおりの場面ではなかったのです。あのカットの撮影で、先生は僕に、「笠さん、皮を剥き終わったら、慟哭してくれ」と言われました。“嗚咽”ではなく、“慟哭”です。「おーっ」と声を上げて泣けと言う。オーバー嫌いの先生からそんな注文を受けたのは初めてでしたから、ずいぶん驚きました。僕はできませんでした。やってみる前から、できないことはわかっていました。「先生、それはできません」小津先生の演出に、「できません」などと答えたのは、あれが最初で最後です。先生は無理にやらそうとはされませんでした。(中略)今考えると、やるべきだったと思います。できるできんは別にして、とにかくやってみるべきでした。”(「第二章 先生ありき」から)

そういうやりとりがあったのか、ということを知って僕も驚いたけれど、作品の実際の方が、やっぱり僕自身には納得いく所作だ。実生活でも、僕もあのようになるのではないのか、と思ったりもするからだ。

それにしても、笠智衆は酒が殆んど飲めない下戸だったということを知ってびっくりした。しらふで、あの数々の居酒屋、割烹シーンを演じていたとは、いまだ以て信じられない。

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Commented by maru33340 at 2017-11-14 07:33
この本は朝日文庫から出ていた時に読んだことあり、このエピソードも(読んだ内容を忘れがちな僕には珍しく)良く覚えてます。
小津映画観たくなったよ。
Commented by Oyo- at 2017-11-14 12:55 x
はんきちさんももうそのようなお歳なのですね。
もう立派な立派なだいきちです\(^o^)/
by k_hankichi | 2017-11-14 06:23 | | Trackback | Comments(2)

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