友人に啓発されて辻邦生の『夏の砦』(河出書房新社、辻邦生作品全六巻の2)を読み始めたが、全体の半分近くにまで来たところで頓挫してしまった。これ以上読み進めることができない。学生時代に一度読んだはずだが内容が殆ど記憶にないのも、もしかすると、あのときもこのように頓挫したまま放置してしまったからかもしれない。
北欧と呼んでよいだろう地域での出来事は、纏綿とした歴史の織り込みがあり、そうかと思えば、主人公である支倉冬子の幼年時代の日本(昭和の戦前期)での生活が回想される。二つの世界の交錯の狭間で、彼女が自分の居所の不確実さに焦燥するような気持ちが、僕自身に乗り移ってくるかのよう。
このまま読み進めて行くと、自分自身までもがスウェーデンの近傍の地に消え去ってしまうのではないか。もうすこし厳しい寒い冬の夜更けに、巣籠りするようにして後半は読み進めなければならないような気がした。
砦が僕の前に厳然と立ちはだかる夏だ。
■冬子の家の見取り図(「創作ノート」より)