ベルリンは行ったことが無い。出張の際の乗り換え経由地にもなったこともない。それでも僕はこの街のことを知っている。もちろんフィルハーモニーと共にある音楽の響きや、ブランデンブルグなどの曲にまつわる知識からなのだけれど。
そんな僕が、この小説を手に取って視線を走らせた途端、もう完全に魅せられてしまった。『百年の散歩』(多和田葉子、新潮社)。
愛する人と待ち合わせをしながら、たいていすっぽかされ待ちぼうけしてしまう。憧憬と愛情の気持ちをぶつけることができないままに街区を散歩する孤独。
しかしその足を向けるそれぞれの街角には、ドイツのみならず沢山の国からきた人たちの生活があり、それは歴史や風景、記憶、軌跡と交錯する。10の街角のそれぞれに託された小説家の想いは、いじらしさと枯淡と、そしていつまでも消えない小さくても力強い愛の炎と共にある。
・カント通り
・カール・マルクス通り
・マルティン・ルター通り
・ㇾネー・シンテニス広場
・ローザ・ルクセンブルク通り
・プーシキン並木通り
・リヒャルト・ワーグナー通り
・コルヴィッツ通り
・トゥホルスキー通り
・マヤコフスキーリング
どんな観光案内よりも素晴らしく、虜になった僕は「いつか必ずベルリンへ」と呪文を唱える。