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by はんきち

引き際の美・・・『波打ち際に生きる』(松浦寿輝)

芥川賞作家でもある松浦さんは、東大教授を定年よりも7年も早く退官した。その記念講演と最終講義を収めた本が『波打ち際に生きる』(羽鳥書店)だ。鮮やかなまでに美しい引き際において、それまでの軌跡を振り返りながら淡々と述べていく。

“波打ち際とは、波が打ち寄せてくる「場」であるわけですが、同時に、絶えず寄せては返しつづける波の運動という「出来事」それ自体なのだと思います。その出来事には一種特有の心もとなさがまとわりついており、そして、その心もとなさ自体をいとおしむという、いとおしみの感覚とも結びついている。(中略)わたしが実人生の波打ち際で、また精神の波打ち際で出会った、いとおしい何か。それは言葉であったりオブジェであったりイメージであったり、さまざまな形を取るわけですが、そんな出会いを契機として自分のなかに喚起されたものを、自分なりの言葉に置き換えてみようとした種々の試みが、あるときは論文となり、あるときは詩となり、あるときには小説になっていったのではないかと思うのです。”(退官記念講演より)

自分も社会人としての勤めを退くとき、こういうふうな確信と展望と、そしてすこしの悔悛を、さまざまな邂逅への感謝とともに述べられたら、と思った。

最終講義のほうについては、締めくくりの言葉を吉田健一の『時間』から「夕方の光線」の部分について抜粋して朗読している。ああ、この最後の言葉が発せられるその場に居られたらならば、どんなに幸せなことだったろうか。

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by k_hankichi | 2017-02-23 00:06 | | Trackback | Comments(4)
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Commented by Oyo- at 2017-02-23 11:24 x
何かすごくロマンティック(*^^)v
Commented by k_hankichi at 2017-02-23 19:28
おようさん、孤愁感があるのに、とても美しいです。
Commented by maru33340 at 2017-02-24 07:34
「人生の波打ち際」という言葉に最近益々シンパシィを感じます。
Commented by k_hankichi at 2017-02-24 18:36
maruさん、そうなんです。波音が聞こえる。