『夢十夜』に痺れる

漱石の作品のなかには、まだまだ読んだことが無いものがある。『夢十夜』もそうだった。作家が本当に見た夢なのか、あるいは空想の夢なのか、それは分からないのだけれど、きっと前者なのだろうと読んでみて思った。

やはり珠玉は第一夜で、それは寝床の枕元で腕組みをしながら座っているそこには病に伏した女が横たわっていて、もう死にます、という彼女と対話をしていく話だ。

「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」

そしてそれから自分は庭に坐って時間が経るのを眺めている、というもので、

「すると石の下から斜に自分の方へ向いて青い茎が伸びて来た。見る間に長くなってちょうど自分の胸のあたりまで来て留まった。と思うと、すらりと揺らぐ茎の頂きに、心持首を傾けていた細長い一輪の蕾が、ふっくらと瓣を開いた。真白な百合が鼻の先で骨に徹える程匂った。」

そのあとで、ようやく自分は百年が経たことを気づく、というものだ。

そしてそのことにぼーっとして、あの世の世界にまで思い馳せていたら、オーブリー・ビアズリーが描く『サロメ』の絵を想像してしまった。滴り落ちたものが作る哀しみの血の海のような地面から、ゆらゆらと、ひとつ、またひとつ、茎が生えてきて、伸びてきて、そして花弁をつくっていく。

漱石は、あのビアズリーの絵を観たのではないか、と思った。

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文鳥・夢十夜 (新潮文庫)

夏目 漱石/新潮社

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Commented by maru33340 at 2017-01-24 07:47
漱石は(特に初期の作品は)英国世紀末絵画(ラファエル前派ら)に大きな影響を受けてるからね。
Commented by Oyo- at 2017-01-24 19:58 x
最近のはんきちさんの夢物語、Upしてください(*^_^*)
Commented by k_hankichi at 2017-01-24 20:33
maruさん、ラファエル前派なのですね。さすれば、ビアズリーのことも観ているはずであるね。
おようさん、夢物語、毎日ハラハラドキドキで、もー、何ともどうしようかと迷います。でも近々、披露しますね。
by k_hankichi | 2017-01-24 00:17 | | Trackback | Comments(3)

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