2016年 11月 05日
『ミカドの肖像』のケ・セラ・セラ
期せずして元都知事たちによるノンフィクションを続けて読んでいることになっていて、我ながらちょっと驚いた。
やはり一番ためになったのは、「第1部・プリンスホテルの謎」。ものすごい緻密な文献調査と聞き込みに基づく記載に舌を巻く。
どうしてあの絶妙の素晴らしい場所にホテルが建っているのかが漸く理解できた。堤康次郎という男の巧妙なる商才と政治手腕に頭がクラクラした。
後半になって出てきたテーマはイギリスのサヴォイ・オペラによるオペレッタ『ミカド』(ギルバート&サリヴァン)。
こちらも猪瀬さんの西洋の国々の出来事や歴史、そして音楽に対してまでもの緻密さ正確さ、重箱の隅々まで明るみにさらす徹底さに頭を殴られたような思い。
そして読んでいるうちになんとも摩訶不思議な気持ちに陥った。
というのも『ミカド』が重要なシーンに登場する映画があって、それはコリン・ヒギンズ監督による『ファール・プレイ』であり、更にそちらはアルフレッド・ヒッチコック監督による『知りすぎていた男』のパロディだとある。
『知りすぎていた男』では、ドリス・デイがアカデミー賞主題歌賞したとある。
ここまできてハッとした。
忘れたかった上海の空港での、脳が溶解させていく雰囲気がまた蘇った。その映画の主題歌が、あの曲だった。
『ケ・セラ・セラ』・・・。
猪瀬さんは政治をやったり鞄にお金が入りきらない格好の悪さを晒すよりも、やはり作家として、更に活躍すべきだった、と改めて思った。
猪瀬直樹 『ミカドの肖像』(新潮文庫)、読了。 上下巻だったので、長い間積読状態だったのですが、やっとこさ。 プロローグの東京海上ビル建設問題から 皇居と周辺高層ビルをめぐる論点の曖昧な対立構造で 天皇・皇居という不思議な存在を象徴的に描いていきます。 当時の社長のインタビューを取っているところは、さすがです。 続いて、お召し列車のエピソードを挟みながら、 プリンス...... more
このまま作家活動を継続していればなあ…