『大人にはわからない日本文学史』(高橋源一郎、岩波現代文庫)には成る程と思った。明治学院大学などで一年間にわたって行われた講義をもとにしたものだ。
詳細は省くとして、高橋さんの示唆は次のよう。
“樋口一葉は、明治二十年代、反リアリズム(そういう言葉はなかったのですが)の作家と目されました。しかし百年の後、冷静になって考えるならば、そして綿矢りさという作者の作品を通して考えてみるなら、樋口一葉こそ、また綿矢りさこそ、わたしたちは、正当な「リアリズム」の継承者であるといわなければならないのかもしれません。”
高橋さんのガイドによって、紹介された樋口一葉の『にごりえ』からの抜粋を読むだけで、そこには生きる女の確かな気持ちと時のながれ、雑踏のなかの音や声が聞こえてくる。
僕として苦手だった綿矢りさの何が苦手と感じていたのかが分かる。
もう一度、彼女らの小説を読んでいかなくては、と深く息をついた。