亡き人々(子)をしのぶ歌

津島佑子の『ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語』を読了。これは津島さんの亡き子をしのぶ歌であり、そしてまた、北海道の地のアイヌの人々をしのぶ歌でもあった。

著者は、小説の主人公に自分の過去と記憶を重ねているように思われるのだけれど、亡き子と曾て訪れた北海道の網走を、二十六年後に再び訪れるところから始まる。そこにはその地で伸び伸びと暮らしていたアイヌ民族の末裔が居た。どうしてそこにそうして居るのだろう、という疑問。それがきっかけとなって物語がとつとつと語られていく。

1620年頃、資源を求めて北に渡ってきた男とアイヌの女の間に出来た娘チカは、北海道の松前から、こんどは南に南にと海を渡っていく。そしてさらに南の長崎にはキリスト教の神父様や教徒の子供ジュリアンらと下り、そしてマカオには、神学校に入るためのジュリアンとふたり兄妹として渡っていく。

日本ではキリスト教や伝道師、そして使徒たちが迫害され、それでも神に仕えるべくマカオで育っていく二人。そんな土地にも日本人たちを排斥しようとする動きがかかり、二人は離れ離れになる。チカはバタビアまで南下し、家庭を持つのだけれど、何年も、何十年も、ジュリアンとの再会を祈念している。チカは何年かに一回、彼に手紙を書く。届いているのかどうかさえ分からぬまま、十年、二十年と経ていく。

届かぬ思いは、著者の亡き子へ届けたい想いに近いのではないか。記憶を蓄え、それを繋げていく海。藍より深き気持ちは果てのない旅を続けていく。

ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語

津島 佑子 / 集英社

スコア:


[PR]
by k_hankichi | 2016-10-19 22:23 | | Trackback | Comments(2)
トラックバックURL : http://hankichi.exblog.jp/tb/26075800
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by saheizi-inokori at 2016-10-20 09:17
チカとダアが私の頭の中に生き続けています。
Commented by k_hankichi at 2016-10-20 18:06
saheiziさん、はい、そういう記憶に刻まれる作品でした。あの物語は、巡り巡っての長さもまた意味があるのだと思いました。


音楽、小説、そして酒を愛する方々との空間です


by はんきち

プロフィールを見る

検索

お気に入りブログ

幻戯書房NEWS
梟通信~ホンの戯言
新・クラシック音楽と本さ...
Oyo-の日々
私たちは20世紀に生まれた

最新のコメント

うん、これは実に名曲だなあ。
by maru33340 at 06:54
そうなんです、びくりした..
by k_hankichi at 22:38
ああ、吉田さん確かに似て..
by maru33340 at 08:05
おようさん、おー凄い‼️..
by k_hankichi at 19:33
見せて戴きました。監督の..
by Oyo- at 18:29
論理性が際立っています。
by k_hankichi at 08:46
確かこの本文庫で持ってい..
by maru33340 at 07:41
まさに、そうです。断固と..
by k_hankichi at 21:45
maruさん、岡田さんは..
by k_hankichi at 21:35
あの『浮雲』の場面、強烈..
by Oyo- at 12:13

記事ランキング

以前の記事

2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 02月
2009年 01月

カテゴリ

全体

クラシック音楽

映画
ポップス
テレビ番組
美術
一般
社会
食べ物
街角・風物
夢物語
未分類

外部リンク

その他のリンク

■放送局
・WQXR-New York's Classical Music Radio Station
・Arte TV ドイツ語
・Arte TVフランス語
・NPR(米国ナショナルパブリックラジオ)
・NHK Classic
・BBC Classic

■Blog
・木曽のあばら屋
・先見日記
Hankichiをフォローしましょう

■音楽関連
・ディグるYou Tube
・月刊ショパン
・HMV クラシック
・Tower Recordsクラシカル
・クラシック倶楽部
・HMV評論家エッセイ
・Public Domain classic
・Patricia Kopatchinskaja
・庄司紗矢香
・青柳いずみこオフィシャルサイト

にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ

■書籍、書評
・【ほんぶろ】
・朝日新聞書評
・松丸本舗
・往来堂書店
・フィクショネス
・BOOK TOWNじんぼう
・青空文庫 Aozora Bunko
・BOOK Asahi.com
にほんブログ村 本ブログへ

■酒
・酒とつまみ/酒飲み人生謳歌マガジン
・間口一就 まぐちかずなりの、ウェブサイト
・酒文化研究所
・鹿児島県酒造組合
・英国スコッチWhisky協会
・英国ジン・ウオッカ協会
・フランスワイン公式サイト
・ボルドーワイン委員会
・シャンパーニュ地方ワイン生産委員会
・シャンパーニュメゾン協会
・ブルゴーニュワイン公式サイト
・ロワールワイン公式サイト
・スペインカヴァ協会公式サイト
にほんブログ村 酒ブログへ

■TV
・不毛地帯
・のだめカンタービレ フィナーレ
・それでも、生きてゆく
・問題のあるレストラン

■映画
・蓮實重彦「あなたに映画を愛しているとは言わせない」
・Ozu-san.com
・昔の映画を見ています

■写真、技術
・ある技術者の写真アート
・リソグラフィGuru

■街角探検
・昭和毎日
・横浜都市発展記念館
・web東京荏原都市物語資料館
・世田谷文学館
・MORISHINS MEW (ARCHHITEC)
・「ハマちゃん」のがらくた箱
・ぽこぺん都電館

ブログランキング・にほんブログ村へ

最新のトラックバック

蜜蜂と遠雷
from 天竺堂の本棚
『ミカドの肖像』
from 観・読・聴・験 備忘録
映画「顔のないヒトラーた..
from みなと横浜みなみ区3丁目
日本にも潜んでいそうな ..
from 梟通信~ホンの戯言
安倍政権NO!大行進&「..
from 梟通信~ホンの戯言

ブログパーツ