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by はんきち

ゲルニカに託された人類の共通の想い

原田マハの小説『暗幕のゲルニカ』(新潮社)は素晴らしかった。ニューヨーク近代美術館(MOMA)での仕事と、おそらくその際に遭遇した9.11テロの記憶が、錦繍のように絡められている。

作品は事実と創作の二つが絶妙に混錬されていて、読んでいるうちに「あれ、これはどこまでが本当の事なのかな」とちょっと狐につままれたようになる一瞬があるが、それもまたこの小説の妙味だ。

作家は、ピカソの絵を支えたスペインの貴公子バルド・イグナシオ(架空の人物)に、次のように語らせている。

“けれど、ピカソやゴヤを超えて、もっと普遍的に、戦争の恐ろしさ、愚かしさを<ゲルニカ>に込めたのだと思う。彼は、単なる負の記録としてあの一作を描いたのではない。あの絵は、画家の、つまり僕たち人類の抵抗なのです。戦争をやめない一方で、戦争に苦しみつづけるのもまた人類なのです。苦しみから逃れるためには、戦争をやめるほかはないのです。無慈悲で無差別な殺戮は、ゲルニカのみならず、世界のどこででも起こり得ることであり、明日にも、来年にも、もっとずっと未来にも、怒りえる悲劇です。もうやめろ、とピカソは叫んでいる。殺すな、戦争をするな。負の連鎖を断ち切れ。取り返しがつかなくなるまえにと。あの絵は、反戦の旗印です。ピカソの挑戦であり、マニフェストです。”(「第六章 出航」より)

絵画が、事実に触発されて創造されたマニュフェストであるとすれば、小説も、同じくそうであり得る。第二次世界大戦前夜、そしてその最中の悲惨な時期と2001年の惨事の後を行き来しながら、紡がれていくこの作品は、美術を題材にしたこれまでの原田さんの著作の中で、僕としてのベストになった。

■「ゲルニカ」についての解説 →https://en.wikipedia.org/wiki/Guernica_(Picasso)

暗幕のゲルニカ

原田 マハ / 新潮社

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by k_hankichi | 2016-10-11 06:41 | | Trackback | Comments(4)
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Commented by Oyo- at 2016-10-11 07:46 x
またまたマハさんをお読みになってる^^ 丸の内OAZOビル1階のゲルニカ、行くたびに見つめています。
Commented by k_hankichi at 2016-10-12 07:37
おようさん、OAZOにゲルニカが有るのですね。知らなかった。観に行かねば!
Commented by maru33340 at 2016-10-12 07:40
僕も(何度も行っているのに)「ゲルニカ」があること知りませでした(*_*)
Commented by k_hankichi at 2016-10-14 07:34
昨晩、観てきました!凄いです!おようさん、ありがとう。