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by はんきち

深い感慨に包まれる秀作

久しぶりに読み応えのある小説だった。『狩りの時代』(津島佑子、文芸春秋)。今年亡くなられた著者の遺作だ。

テーマは「差別」である。僕ら一人ひとり、人間の一人ひとりに問いかけられているようで、心の底が抉られていくように感じる。

舞台は日本と米国、そして欧州まで踏み込んで、第二次世界大戦の前から戦後日本、そして現在まで。そのスケールにも深く吐息をつく。

ウンベルト・エーコが説いているように、記憶が積み重なって交錯する。幼いころに投げかけられ、心に傷を負わされた言葉が呼び起され、そしてそれを発した人は誰なのかが最後に明らかになる。それはシェイクスピアの悲劇のような佇まいだ。

娘さんがあとがきを書かれている。

“私は夢中で作品を読んだ。読み進めるうちに母が話していたことが次々とよみがえる。ダウン症だった兄との思い出。大家族の空気。人々の視線。記憶をたどる手触り。こうしてひとつの作品に編み上げられて、初めてその意味が理解できる。
それは出逢ったことのない差別の話だった。
描かれているのは、差別とはなにか、いや、人間とはなにかという問いだ。どうしたら差別を乗り越えられるかと言っているだけで差別をわかったつもりになっていた。目をそらしてきた心のなかを突きつけられて、人間の複雑さを思い知らされた。この作品をいま、差別のなかで生きる人々に届けなくてはいけない。”(以上、津島香以による文章から抜粋)

太宰治は、津島美知子とのあいだに3人の子供(長女園子、長男正樹、次女里子[本作品の著者])を設けているが、これはこれからの人々がどのように生きていくべきかを問う形で、亡き兄に捧げた作品でもあるのだとも思った。

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狩りの時代

津島 佑子 / 文藝春秋

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by k_hankichi | 2016-09-26 06:56 | | Trackback | Comments(3)
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Commented by saheizi-inokori at 2016-09-26 10:27
図書館にないのです。
買わなくちゃいけないかなあ。
「ジャッカ・ドフニ」は昨日借りてきましたが。
Commented by Oyo- at 2016-09-26 15:46 x
あとでゆっくり読みたいと思っています。
Commented by k_hankichi at 2016-09-26 21:06
saheiziさん、はい、買い求めて損は無いとおもう遺作だとおもいます。おようさん、いろいろな事柄を想起されるとおもいます。