ウンベルト・エーコの通奏低音・・・ベートーヴェンの交響曲第7番第2楽章

以前、ドイツ人と話をしていて『薔薇の名前』が最もお薦めだ、と言われていながら、ウンベルト・エーコにはなかなか手を出せていなかった。量塊を前にして尻込みをしていた。

そんななか、先週、ふと訪れた書店の店頭でこの本を知り、結局、出張の往き帰りで読了。『ヌメロ・ゼロ』(河出書房新社)。登場人物はほぼ8名。彼らはミラノのある富豪筋から、新聞のパイロット版を出す依頼を受けて画策している。真の目的は何か。それを彼らは知らない。しかし、政治経済の中枢に居る人々を脅かそうがためであることは感づいている。

パイロット版を第0号(ヌメロ・ゼロ)と称し、第0-1号から、0-12号まで出すべく、さまざまな試行を繰り返し、ダメ出しをされながら、徐々にスキャンダラスな新聞の見本が出来上がっていく。イタリアに巣食う、第二次世界大戦時期からのさまざまな陰謀と展開が、垣間見られて来る。その結末に待ち受けるものは何か。

本のカバーの見返しには、著者の次のような言葉が記されている。

「記憶こそ私たちの魂、記憶を失えば私たちは魂を失う。」

イタリア人や西洋人がもっているだろうそれらの時代の記憶の欠片を僕は持ち合わせていない。極東に生きる我々には、ちょっとピンとこない。それでも、その裏に蠢くものの空恐ろしさ、そしてそこに触れた瞬間生きて帰ってこれないこともあるのだということは予想できる。

初めてのウンベルト・エーコの世界は、僕には粘度が高すぎたのだけれど、次のような台詞が中にはあって、それには救われた。作家の子供のころの体験(記憶)に根差したものだと思ったからだ。

“あの晩、マイアはベートーベンの交響曲第七番をかけた。そして、目を潤ませて、少女時代から第二楽章になると涙ぐんでしまうのだと言った。「十六歳のときからなの。お金がなくて、たまたま知っている人がただで劇場の天井桟敷に入れてくれた。でも、席はなかったから、階段に座り込んで、いつの間にか寝そべってしまった。堅い木の床だったけど気にもしなかった。で、第二楽章で、このまま死にたいなって思って、泣いてしまった。私、ちょっとおかしかったのよ。でもまともになってからも泣き続けた」”(「六月六日 土曜日」より)

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ヌメロ・ゼロ

ウンベルト・エーコ / 河出書房新社

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Commented by Oyo- at 2016-09-24 15:02 x
読んでみたくなってきました(^-^)
Commented by k_hankichi at 2016-09-24 20:17
欧米人との、さりげないコミュニケーションのなかでも話題になりそうです。
by k_hankichi | 2016-09-24 09:37 | | Trackback | Comments(2)

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