水木洋子の脚色は、あの映画『浮雲』で至極深く感銘していて、だからこの機を逃してははらないと、出張続きが明けて朦朧とした土曜日であろうとも、街に出かけた。
ようやっと神保町シアターで観た成瀬巳喜男監督の『驟雨』は、家庭生活の安泰と倦怠のバランスのなかで幸せということの意味を探り掴みだす夫婦の「美学」のような作品だった。
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http://www.kinenote.com/main/public/cinema/detail.aspx?cinema_id=24670
ストーリーは決して甘美なる世界を描いているわけではなく、まして模範的な夫婦愛を満載しているわけでもない。ただただ、平凡なサラリーマン世帯の夫と、専業主婦が繰り出す、伸びきった日々の重なりだ。
それらなのに、美しいと感じるのはどうしてだろう。ラストの、妻と夫が紙風船を打ち上げ合うシーンで、思わず涙がじわりと出てきてしまったのは何故なのだろう。
失われていきそうな男と女の、幸せの原点。そういうものがそこにあったのだと思った。
現代には、それはどうなっているのだ、という問いは愚問だった。
■スタッフ
監督:成瀬巳喜男
脚色:水木洋子
原作:岸田国士
製作:藤本真澄 、 掛下慶吉
音楽:齋藤一郎
■出演
並木亮太郎:佐野周二
妻文子:原節子
姪あや子:香川京子
今里念吉:小林桂樹
妻雛子:根岸明美
■製作
1956年、東宝