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by はんきち

暑さを遮ろうとして読んで逆に不安になる

暑さを遮ろうとして読んで逆に不安になった。『遮光』(中村文則、新潮文庫)。

小説の巻頭には、J. P. サルトルの次の言葉が添えられている。

“一挙に私は人間の外観を失った。彼らは、非常に人間的なこの部屋から、後ずさりして逃げて行った一匹の蟹を見たのだ。”(『嘔吐』より)

作品は、彼女を事故で亡くした男が、忘れられずに或るものを持ち歩き続け、そしてまた、彼女が生きているかのような虚言を付き続ける、というような筋書きだ。最後には、自分の意志には関係なく、とてつもないことを仕出かしてしまう。外界と自分との適切な関係すらをも遮断することになる。

真夏の昼の夢とでも言おうか、自分がどのように世の中を見るべきなのかすら分からなくなりそうな作品だった。ただただ、怖ろしかった。

“確かに、不幸っていうのは、他人の同情をひく。お前が悲しんでいるだけ、人はお前にやさしくするんだ。でもな、人っていうのは、それが長く続くと、段々うっとうしさを感じたりもするんだ。そして、お前に悲しみを乗り越えるように、要求するようになる。勘違いしないでくれ、私達がお前をうっとうしく思っているんじゃない。世間には、そういう人間がいるということだ。(中略)だからな、乗り越えられないなら、初めは振りだけでもいい。次の家に行ったら、それを乗り越えたように見せなさい。(中略)あの時私は、太陽を睨みつけていた。太陽はちょうど水門の真上にあり、酷く明るく、私にその光を浴びせ続けていた。私はそれを、これ以上ないほど憎み、睨みつけていた。その美しい圧倒的な光は、私を惨めに感じさせた。この光が、今の私の現状を浮き彫りにし、ここにこういう子供がいると、世界に公表しているような、そんな気がしたのだった。私はその光に照らしだ出されながら、自分を恥ずかしく思い、涙をこらえた。それは多分数秒のことだったが、あの時の私には、とても長く感じられた。”(第10章から)

遮光 (新潮文庫)

中村 文則 / 新潮社

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by k_hankichi | 2016-08-12 00:49 | | Trackback | Comments(0)
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