そして朔太郎、自作朗読

太平洋をたゆたうように流されるようにしていたら何処に行くのだろう、などど考えていたら、昨日聴いていた歌人の朗読が萩原朔太郎になっていた。

1934年(昭和9年)6月1日に発行された萩原朔太郎の詩集「氷島」から二篇と、それから「沼澤地方」という作品を詩人自らが朗読している。昭和天皇のような詠み方だ。

詩人自らの朗読だと期待していただけに、與謝野晶子との違いに愕然とする。

と同時に、詠む人の心を抉り出し、あるいはその心とは似て非なるものを描き出してしまう朗読。「氷島」からの二作と併せて「沼澤地方」を選んだのは、朔太郎なのではないかと思うが、それはULAと呼ばれた女に呼応し作品だという。

朔太郎が、音として残したかったその理由を想像するだけでも、その奥深さに、怖ろしくなった。

■朔太郎、自作朗読セリ →https://youtu.be/GinRTxx2GpA
※国立国会図書館・歴史的音源 →http://rekion.dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3571577

以下、朗読されている詩。

■「乃木坂倶樂部」
十二月また來れり。なんぞこの冬の寒きや。
去年はアパートの五階に住み荒漠たる洋室の中壁に寢臺(べつと)を寄せてさびしく眠れり。
わが思惟するものは何ぞや すでに人生の虚妄に疲れて 今も尚家畜の如くに飢ゑたるかな。
我れは何物をも喪失せず また一切を失ひ盡せり。
いかなれば追はるる如く歳暮の忙がしき街を憂ひ迷ひて晝もなほ酒場の椅子に醉はむとするぞ。
虚空を翔け行く鳥の如く 情緒もまた久しき過去に消え去るべし。
十二月また來れり なんぞこの冬の寒きや。
訪ふものは扉どあを叩のつくし われの懶惰を見て憐れみ去れども
石炭もなく煖爐もなく 白堊の荒漠たる洋室の中 我れひとり寢臺に醒めて
白晝もなほ熊の如くに眠れるなり。
殺せかし! 殺せかし!
いかなればかくも氣高く 優しく 麗はしく 香はしく すべてを越えて君のみが匂ひたまふぞ。
我れは醜き獸けものにして いかでみ情の數にも足らむ。
もとより我れは奴隷なり 家畜なり
君がみ足の下に腹這ひ 犬の如くに仕へまつらむ。
願くは我れを蹈みつけ 侮辱し 唾つばを吐きかけ また床の上に蹴り きびしく苛責し
ああ 遂に――わが息の根の止まる時までも。
我れはもとより家畜なり 奴隷なり
悲しき忍從に耐へむより はや君の鞭の手をあげ殺せかし。
打ち殺せかし! 打ち殺せかし!

■「火」
赤く燃える火を見たり
獸類けものの如く
汝は沈默して言はざるかな。

夕べの靜かなる都會の空に
炎は美しく燃え出づる
たちまち流れはひろがり行き
瞬時に一切を亡ぼし盡せり。
資産も、工場も、大建築も
希望も、榮譽も、富貴も、野心も
すべての一切を燒き盡せり。

火よ
いかなれば獸類けものの如く
汝は沈默して言はざるかな。
さびしき憂愁に閉されつつ
かくも靜かなる薄暮の空に
汝は熱情を思ひ盡せり。

■「沼澤地方」

蛙どものむらがつてゐる
さびしい沼澤地方をめぐりあるいた。
日は空に寒く
どこでもぬかるみがじめじめした道につづいた。
わたしは獸(けだもの)のやうに靴をひきずり
あるひは悲しげなる部落をたづねて
だらしもなく 懶惰のおそろしい夢におぼれた。

ああ 浦!
もうぼくたちの別れをつげやう
あひびきの日の木小屋のほとりで
おまへは恐れにちぢまり 猫の子のやうにふるえてゐた。
あの灰色の空の下で
いつでも時計のやうに鳴つてゐる
浦!
ふしぎなさびしい心臟よ。
浦! ふたたび去りてまた逢ふ時もないのに。

.
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by k_hankichi | 2016-07-18 21:08 | | Trackback | Comments(2)
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Commented by maru33340 at 2016-07-19 05:28
ぶっきらぼーやなあ、朔太郎。
やはり詩は聞くより読んだ方がええみたいや。
Commented by k_hankichi at 2016-07-19 07:51
はい、作家が朗読が旨いとは限らないと知りました。


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