いろいろな些末事に追われる日常だ。毎日毎日が駆け巡るように訪れてまた去っていく。
そんななかに手を取って読み始めたのが『会いたかった画家』だった。安野光雅、山川出版社。
どの章もしみじみとした筆致で満たされていて、安野さんの記憶の端々と、それに励起されてさらに思い出が呼び起こされていくような、行きつ戻りつある流れが心地よい。
“わたしの見た、映画「赤い風車」では、みるみるうちにたくさんの見覚えのあるロートレックの絵が現れるのにも驚く。画家は誰か代役が演じていたはずなのに、それをロートレックだと言い張っていてもおかしくなかった。「赤い風車」の監督はジョン・ヒューストンで、この映画によりヴェネチア国際映画祭のサン・マルコ銀獅子賞をもらった。”(「人間は醜い、しかし人生は美しい - トゥールーズ=ロートレック」より)
ロートレックを演じていた俳優は、ホセ・ファラー。彼はイングリッド・バーグマン主演の映画『ジャンヌ・ダルク』に助演していたり、私生活では歌手のローズマリー・クルーニーとも結婚した。
画家がまさにロートレックそのものに見えたというその映画のことを無性に観たくなった。エッセイ集を読みながら、自分がいつしかエコール・ド・パリの最後の時間にいるような気持ちになって癒されていった。
■Moulin Rouge Official Trailer #1 - JosÉ Ferrer Movie (1952) HD
https://youtu.be/CKyh4zKkths